表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

ミニマリストなのに幼馴染が俺の部屋を私物化しようとする

「帰れって言ってるだろ」


「え~? そんな冷たいこと言わないでよ。私のこと、追い出したら泣いちゃうよ?」


 ひなたはそう言いながら、床に座ったまま俺をじっと見上げる。


「それと勝手に俺のTシャツを着るな」


 胸元から下着がチラチラと見えていた。目線のやり場に困る。


「やだぁ〜どこ見てるの〜」


「そんな貧相な胸は見ていない!」


「ええ!? Dカップって貧相なの!」


 D!? 高校一年生でDだと!?


「ちょっと、本当に見過ぎだよ……」


 ひなたはTシャツの胸元を手繰り寄せて、胸を隠す。


「と、とにかく俺の部屋は、お前の泊まる場所じゃない」


「でもさ、物が増えなければ何でも別にいいんでしょ? だったら私がここで寝たっていいじゃん」


「そういう問題じゃない」


「じゃあどういう問題?」


「……お前が勝手に居着こうとしてることが問題なんだよ」


「へぇ~?」


 ひなたはにやにやしながら、スマホをポチポチと操作する。


「ねえ、そういえばさ、この部屋ってすっごく何もないよね。収納もないし、服も最小限……もしかして、クローゼットの中ってガラガラなんじゃない?」


「……だから?」


「だったらさ、私の服をちょっと置かせてもらってもいいよね!」


「は?」


「だって、私がここに泊まるときに、いちいち着替えを持ってくるの面倒だし~。あ、そうだ! せっかくだから、私のスキンケア用品も置いておこうかな。ミニマリストって化粧品とかほとんど持ってないんでしょ? だったらスペース余ってるよね!」


「お前、それもうほぼ同棲みたいなもんだぞ」


「えっ、そう? やだ、なんかドキドキするね!」


「するな!」


 こいつ、本気で俺の部屋を私物化する気か?


 ただでさえ俺のミニマルな生活を乱してくるのに、これ以上物を増やされるのは耐えられない。


「なぁ、ひなた。お前、俺の部屋に泊まるのはいいとして、なんでわざと下着を置いていくんだ?」


「えっ? それは……」


 俺が真剣な表情で尋ねると、ひなたは少しだけ目を泳がせた。


「……別に、深い理由なんてないよ。ただ、なんとなく?」


「嘘をつけ!」


「うっ……」


 俺はじっとひなたを見つめる。


 すると、ひなたは少しだけ頬を染めながら、小さな声で呟いた。


「……だって、私の物がここにあったら、ちょっとは私のこと思い出すかなって……」


「は?」


「ほら、ミニマリストってさ、物に執着しないんでしょ? でも、もし私の物がここにあったら、ちょっとくらい私のこと考えるかなーって……」


「……」


 俺は思わず沈黙した。


 こいつ……そんなことを考えてたのか?


「でも、ぜんぜん効果なかったみたいだねー! ははっ、残念!」


 ひなたはわざと明るい声で笑う。


 けれど、その笑顔はどこかぎこちなかった。


「……そんなこと、ない」


「え?」


「お前の下着が落ちてたら、嫌でも気になるに決まってるだろ」


「……そ、そっか! なら、成功だね!」


 ひなたは慌てたように言いながら、そっぽを向いた。


「でもな、それとこれとは別だ。俺の部屋にお前の私物を置くのは禁止だ」


「ええー!?」


「お前が俺のことをどう思ってるのかは知らんが、俺はミニマリストなんだ。余計な物は、全部排除する主義だ」


「……」


 ひなたは、少しだけ悲しそうな顔をした。


「そっか……そうだよね。私は“余計な物”なのかもね」


「……お前は物じゃないだろ」


「え?」


「お前は物じゃない」


「……」


「だから、その……とにかく! 勝手に物を置くな」


「……ん」


 ひなたは、少しだけ嬉しそうに笑った。


「じゃあさ、物は置いていかないけど、また泊まりに来てもいい?」


「……勝手にしろ」


 その瞬間、ひなたは口角をあげてニヤリ、と笑った。


「や〜い、DA⭐︎MA⭐︎SA⭐︎RE⭐︎TA⭐︎NA⭐︎」


「なっ……!?」


「チョロいぜ、チョロ過ぎるよ」


「クソッたれ! もう帰れや!」


 俺は上着と荷物をひなたに持たせて、玄関の外に追い出した。


「また来るね〜」


 玄関の外からひなたの声が聞こえた。


「二度と来るなよ!」


「勝手にするよ〜」


 こうして、俺のミニマルな生活は、少しずつひなたによって侵食されていくのだった──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ