ミニマリストなのに幼馴染がパンツを部屋に忘れる
俺の部屋には、何もない。
ベッドもなければ、余計な家具もない。あるのは布団と最低限の生活必需品だけ。
俺は、究極のミニマリストだ。
だが、そんな俺の生活を乱す存在が一人いる。
「お邪魔しま~す!」
当然のように俺の部屋へ上がり込んでくるのは、幼馴染の橘ひなた。
こいつは昔から俺の家に入り浸る癖があったが、最近は特にひどい。
ひなたの長い黒髪は、肩を越えてふわりと流れ、自然なカールがかかった毛先が動くたびに軽やかに揺れる。
細身でスラリとした体型をしており、歩く姿にはどこか余裕が感じられる。周囲の視線を引きつけるが、本人はまるで気にする様子もなく、人懐っこい笑顔を向ける。
その明るい性格からか、常に周囲とフレンドリーに接し、誰にでも優しい。けれど、俺に対しては、わざと調子を外した言動や、ちょっかいをかけてくることが多い。
そして、一番の問題は──。
「ねぇ、颯斗。ちょっとシャワー借りるね!」
「あ? 勝手に使うな」
「いいじゃん、減るもんじゃないし~♪」
そう言って風呂に入ったあと、こいつは必ず“何か”を俺の部屋に残していく。
……案の定、今日も。
「お前さ」
「ん~? なに?」
俺は、部屋の隅に落ちていた黒いレースの下着を拾い上げ、無言でひなたの前に差し出す。
「……」
「……」
「えっ!? な、なにそれ!?///」
「お前のだろ」
「ち、違うよ!? 知らないし!!」
「俺の部屋にお前以外の女が来るわけないんだが?」
「そ、そうだけど! でも、わざとじゃないからね!? たまたま忘れただけだし!!」
三回目の「たまたま忘れた」
……さて、この確率を数学の先生に聞いたら、どういう答えが返ってくるだろうか。
「なぁ、お前」
「な、なに?」
「正直に言えよ。わざと置いてってるだろ?」
「ち、違うったら違うもん!!」
ひなたは顔を真っ赤にしながら、俺の手から下着を奪い取ると、慌ててポケットに突っ込んだ。
「こ、これはただの忘れ物! そういうことにしといてよ!!」
「……はぁ」
俺はため息をつきながら、こいつの行動の真意を考える。
──が、考えても答えは出ない。
ただ一つ、確実に言えることがある。
俺はミニマリストなのに、幼馴染のせいで物が増え続けている。
「……いい加減、俺の部屋を侵略するのはやめろ」
「えー? 侵略だなんて、人聞き悪いなぁ♪」
こうして、俺と幼馴染の「攻防戦」は今日も続くのだった。