第二十五話「捜索」sideミュスカwithロマネファンクラブ
「各員、捜索開始!」
「おう!! ロマネ様の飛び去った方角に移動しつつ周辺区域の探索および、痕跡を調査するんだ!」
「「「この命ロマネ様のために!!」」」
(……怖っ、なにこの農夫の集団)
先日ロマネが魔物を薙ぎ払った場所に、ミュスカは計画表を片手にロマネファンクラブ各員に指示を出していた。
レブレサンドから聞いた話ではこの農夫の集まりはロマネを探索するモチベーションが高く、うまくコントロールできれば必ず有益な働きをするだろうとのことだ。
レブレサンドは特級騎士の立場上、王の護衛を続けなければならない。
ならばここは私がやるしかないと、ミュスカは彼らと共にロマネの捜索をすぐさま開始することにした。
(あの時、情報の出し方を間違えなければ、いや、そもそもあそこまでシグラス王のことを想っていたなんて想像がつくものか、いや、でもなぁ……)
ミュスカは今回の事態、悪い方向に転がっていった責任の一端は自分にあると感じていた。
だからこそ、この汚名を雪ぐチャンスをきっちりこなしたいと考えているのだが……。
「……こ、これは!」
「どうした同士!!」
「これはロマネ様の鱗ではないか!」
「な、なにぃぃ!? 寄越せぇぇぇ!」
「う、うわ、や、やめ―――」
現場は混乱の嵐。
こちらから声を掛けようとするときょどったり、おどおどしたりするのに、内輪ではねじが飛んだようにハジけている。
こんな連中をどうコントロールすればいいのか。
ミュスカは頭を抱えながらも、トラブルが起こったメンバーの背中を蹴り飛ばし、事態の鎮静化に取り組むことにした。
急いてはことを仕損じるというが、ことは運ばないと進まないし、完了できないのだ。
「いい加減にしなさい」
「何をするかメイド殿」
「ミュスカ様と言え! お前ら! ロマネ様、ロマネ様と叫んでいるがな!
本当にロマネ様のためを思っているなら、子供みたいな喧嘩をしている場合じゃないでしょうが!」
「それは、そうですが……」
ミュスカの蹴りと喝は争っていたロマネファンクラブを停止させるに十分なものだった。
たじろぐロマネファンクラブにこの機を逃すまいとミュスカは畳みかける。
「改めて聞くわ。あなたたちはなんでここにいるの?」
「ロマネ様を見つけるためであります」
これは完全に目標を見失っているなとミュスカは争いの元になっていたロマネの鱗?を、会員たちからひったくった。
「そうよね。じゃあ、これはなんなの?」
「……ロマネ様の鱗であります」
「本当に?」
「本当です。ロマネ様の匂いがします」
あまりにも自信満々に言われ、ミュスカは鱗を鼻に近づけてみるが、無臭であった。
この農夫は犬か何かなのだろうか。
そういえば、彼らを預かる際、レブレサンドも「あまり深く考えないで使ってほしい」と言っていたか。
そう言われたからにはミュスカもあまり深く考えず、彼らを罵倒した。
「じゃあ、本当にすることはその匂いとやらで、ロマネ様の行動を追いかけることじゃない! できるヤツ!」
できないだろうと思って手を上げるミュスカに対し、ロマネファンクラブ40人が一斉に手を上げる。
全員出来るのかいとツッコミをこらえ、ミュスカはやけくそ気味に命令を飛ばした。
「なら今すぐ始めろーーー!! 最初に見つけた人にこの鱗を手にする栄誉を与える! かかれぇぇ――!!」
ロマネファンクラブの目の色が変わり、地を鳴らすが如く、驚異的な速度で捜索が再開された。
彼らはロマネの残り香で方角を割り出し、ミュスカの持つ周辺の地図とすり合わせ、いくつかの廃村が怪しいと結論付けた。
ミュスカはドン引きしつつも、何となく彼らの使い方を把握。
以降は散発的に襲ってくる魔物を蹴散らしながら、数日をかけてあたりを付けた各廃村を散策し、そして――。
「これは、ジャイアントオーガの死体だ」
ミュスカとロマネファンクラブ一同は重なり合って死んでいる三体のジャイアントオーガの死体を発見した。
損傷具合から死亡してからそれほど日にちはたっていないと判断できる。
それを見たミュスカには、ロマネを見つけたかもしれないという期待と、今のロマネがどうなってしまっているのかという不安が同時によぎった。
(……いや、まだだ。この村の様子を確認しないと)
ミュスカはファンクラブ一同にそれぞれに指示を送り、ジャイアントオーガの死体以外の異変が無いか調査を進めた。
「何があったというのか、これは――」
「巨大な力に吹き飛ばされたような……」
調査の結果、村のあちこちには魔物のつぶれた死体が見つかった。
どれも全て、強大な力で殴り飛ばされて壁にたたきつけられた様子だった。
ミュスカの知っているリザードマンのロマネはそのような力はなかったように思える。
シグラスから聞いていてた「ラスボスの呪い」というものによる何かしらの変質なのだろうか。
魔物を消し飛ばし、己の居場所を教えるように、見せしめのように死体をばらまく。
それでは、まるで『自分を殺してほしい』というメッセージの様ではないか。
「ロマネ様の香りだ!」
「あの教会か」
ロマネファンクラブ一同はこの廃村で一番大きな建物にロマネの匂いを感じ取っていた。
ぞろぞろと協会に押し寄せようとする彼らをミュスカは制止した。
「ダメです。一度城に戻り報告をしましょう」
「どうしてだ同士!」
「そうだ同士! ロマネ様がそこに居るんだぞ」
「同士言うな! 私だってロマネ様がどうなっているのか心配よ。だけど、この村の様子はマズいわ」
ミュスカの言葉にファンクラブ一同は首を傾げた。
「何を言っているロマネ様はロマネ様だ」
「ああ、もう、そういうと思っていたけど! あんたら言うこと聞かないとあの鱗バッキバキに折るわよ!」
「「「それは困る!」」」
「でしょ~。で、あんたたち、どうするの!」
「ぐぬぬい……皆撤収だ!!」
ミュスカは考えていた。
今のロマネは死にたいと考えている。
それを止められるのはおそらく、私でも彼らでもない――。
「ま、その役には力不足ってことよね」
成果は十分と、ため息と共に感情を吐き出して、ミュスカは村から撤退することにした。