第二十三話「解決方法」sideポイヤック
深緑のドラゴン、ラトゥーニことポイヤックはラストダンジョンに戻り、数日の時間が経っていた。
父スケルトンに母スライム、長男魔人とバラエティ豊かなドメーヌ一家は、次男ポイヤックの才を中心にラスボスの呪いについて研究を行っていた。
「つまりこういうことかな」
ポイヤックが魔術を行使し、スケルトンの父と長男を魔力の紐でつなげ、あれこれとチェックをする。
「トーポスンラト」
呪文を一つ唱え、魔術を起動させる。
この魔術はこのダンジョンの元の主が所有していた魔術書に記載されている「相手の魔力を根幹から奪う」という魔術であった。
ポイヤックは「ラスボスの呪い」を魔力の根幹に無理やり強化・変化を施す呪術と定義づけていた。
魔力を形にして、自分の魂に着せる『変身』という高度な魔術があるが、あれに似た物だ。
湧き上がる魔力の根幹付近にラスボスの呪いというフィルターを置き、魂から湧き出た魔力を呪いのこもったものにする。
その変質した魔力によって、姿は魔物になる。
あくまで入り口にフィルターを置かれただけで、大元の魂自体は無事なので知能や心は人という状態を保っているのだろう。
魔力とは、生物の身体の奥底、魂から湧き出る不可視のエネルギーである。
人間、野獣、魔物のすべての生物が所有し、無意識に身体の強化で使うものもいれば、意識的に魔術の行使に使うものもいる。
感情により揺れ動き、怒りによって暴走し、事件になることもたまにあるが、方向性を与えなければ基本無害な代物だ。
魔力には波長のようなものがあり、それは血のつながりが強ければ強いほど似通う。
ドンペリニョンが施した「血縁」に対する「呪い」。
つまるところ、それはラブロッソの魔力に近いものを変貌させてしまう世界規模の呪いだったということだ。
(そう考えると僕らの遠縁には邪知暴虐のあのシグラスとかもいるわけで、いっそ呪われてしまえばよかったのに)
毒を心の中でつぶやきつつもポイヤックは自分の仕事を進めていく。
体内の魔力の根幹に呪いが込められているなら、魔力の根幹を破壊するか、誰かに譲渡してしまえばいい。
この場合は『破壊』の選択肢は取れない。それは魔物たちのように肉体ごと粉々にする必要があるからだ。
『譲渡』も、もちろんかなり危険な行為だが、ここにある資料を読み解くと肉体を壊すことなくそれができるとポイヤックは確信していた。
「それじゃあ、兄様。紐を引いて」
「心得た」
そして今、魔術が完全に起動した。
魔力の紐にほころびが無いことを確認し、ポイヤックは魔人の兄に指示を出した。
「行くぞ」
ラブロッソが魔力の紐を引く。
その紐はピンと張りつめ、ゆっくりと父スケルトンの体から丸いエネルギーの塊を引きぬいた。
おそらくあれがラスボスの呪いが伴った魔力の塊だ。ポイヤックは魔法成功を確信し、ホッと一息つく。
「おお、これは……」
ラブロッソの感嘆の声を上げたので、ポイヤックは父スケルトンを見ると、骨からズブズブと魔力があふれ、人の形を作り出していく。
魔力は一瞬ゼロになるが、魂が無事なら、再び湧き出た魔力が湧き出るはずとポイヤックは予想していた。
再び湧き出た魔力は変質していないので「自分が何者なのか」覚えてさえいれば、自動的に元の姿に戻ろうとする。傷の出来た体が無意識で治っていくのと同じ原理だとポイヤックは自分の予想が正しかったとぼんやりその光景を眺めていた。
「うまくいったみたいだね」
ややあって、父スケルトンは、本来の中年領主の姿を取り戻していた。
「そのようだ……ぐぅ」
しかしそれで終わりではなかった。
引き抜いた魔力の塊はラブロッソに取り込まれ、変質した魔力を吸収したラブロッソは膝をつき、めまいを押さえるように顔を押さえた。
「兄様、腕が……!」
「いや、これしきの事、大丈夫だ……」
父を救う代償に兄ラブロッソの肩から腕がもう一本増えていた。
呪いの総量が増したのだ。変化が起きるのは予想できていた。
「この技術、私が使えるようにできるか?」
「できるよ。何ならスクロールにして誰でも使えるようにしようか?」
ポイヤックはまだ未熟で様々なことは分からない。
しかし、それでも兄のケツイは分かる。
だからこそこの技術を確立させ、兄の想いに報いることにした。
「頼む。私はこの事態の責任を取らないといけない。
ラスボスとして討たれるべきは――俺だけでいい」
「分かったよ。準備を進めるね。一日頂戴」
母と自分、あとロマネの分、ポイヤックはスクロール作成の準備を始めることにした。