第二十二話「出立の前」sideレブレサンド
「というわけで……事情を説明してもらおうか」
青年王シグラスとの打ち合わせも終わり、レブレサンドは休む間もなく、広めの会議室でドメーヌ領の住人達から聞き取りを行っていた。
彼らはふてぶてしくも胸を張り、悪びれもせずレブレサンドに向き合った。
「事情といっても何が聞きたいのか」
「そう、我らはロマネ様をおもんばかって領地を飛び出し、武勲を立てようとした次第」
「そうして、ラスボスとやらを討ち取り」
「同士ラブロッソ殿の犠牲を得て、この地に舞い戻った次第あと領主様や、奥方君も」
「ポイヤック君なんて……おっとこれは秘密だった」
がやがやと雑談交じりに重要な情報が飛び交う会議室で、レブレサンドは握りこぶしを握った。
(どうして俺の地元はこういう変な方向にばかり思い切りが良いんだよ)
レブレサンドは自分もロマネに命を救われたから、騎士になったことを、棚に上げた。
同郷のよしみがとんでもないことをしていた事実に、彼らを片っ端から殴り飛ばしてやりたい衝動に襲われながらも耐えつつ、レブレサンドは聞き取りを続けた。
いわく、農作業をほっぽり出して、ロマネを取り戻すために、魔界に武勲を立てに行っていたこと。
いわく、ロマネの家族と一緒にラストダンジョンに潜り、ラスボスを討伐。
その時トドメを刺したラブロッソが呪われ、血縁皆がラスボスの呪いを受けてしまったこと。
いわく、王都に戻ってみたらロマネがドラゴニュートに変貌していたこと。
その一切合切を聴き、レブレサンドは改めて彼らに言った。
「お前たち、たぶん首すっ飛ばされる」
「「「それは困る! 私たちの命はロマネ様に捧げるためにあるんだ」」」
「怖ぇぇよ! それ!!」
引き続き自分のことは棚に上げっぱしでレブレサンドはツッコンだ。
(さて、どうしたものか)
彼らのことはシグラス王にはやんわりとしか伝えていない。
あの戦場で自分とミュスカを助けてもらった恩もある。
それに何分、こいつらが全員斬首刑になったら、ドメーヌ領の働き手の半数以上は消え、地元が亡ぶ。
(……だとして、思いつく案が、こいつらと同じレベルの物しか思いつかねぇ)
しばらく考えてみたもののほかに妙案もあるわけではなく、時間をかけられるかも分からない。
レブレサンドは改めて地元のよしみを見渡した。
聞いた話が全てうそじゃないかと疑いたくなるほど、元気で健康、ケガもない。
自分もそうだが、もしかして自分の地元結構やばいのではないだろうか。
ドメーヌ領では畑を荒らす魔物がちょくちょく現れる。
中には大型の魔物が徒党を組んで襲撃してくることもあり、その都度、農具を片手に魔物を撃退し、美味しいお肉としておいしくいただいてきた。
(その結果がこれか? いや、うーん、何か考えれば考えるだけ、自分を追い詰めそうだ)
腹を決めたレブレサンドは彼らに告げた。
「さすがに俺だって、地元のやつらの首が飛ぶのを見たくない。だからあんたたち、ロマネ様を探してくれないか」
「ほう……我々にロマネ様を」
「ラスボスを倒し、ロマネ様をあんな目に合わせて、マイナス。
俺たちを助けて、あと、もう一つ、何かプラスになる手柄があるなら何とか首はつながるよう俺が陛下に進言できる」
「おお、そうか! ならば我らはロマネ様を捜索しよう。そういうのは得意だ」
「は、はは、そうかー」
自分で提案しておいて本当にこれで大丈夫なのか、レブレサンドは不安に駆られたが、今まともにかつ気軽に動かせる人員が彼らしかいないのだ。
(託すしかないよなー……)
ロマネのことをどうするにせよ。彼女の居場所が分からなければそれ以上は何もできない。
シグラスに暴走されても困るし、もし暴走しても、ある程度予想が立てられれば対応ができるというもの。
「よし、鼻の良い会員を集めて部隊を編成するんだ! ロマネ様を絶対に見つけ出すぞ!」
「「「おお、至高のお方! 必ずや!」」」
(ああ、やっぱり言わなきゃよかった)
おかしな方向にテンションを上げている地元のよしみたちにレブレサンドは頭が痛くなるのを感じた。