第二十話「間接キス」sideロマネファンクラブ
「「「ロマネ様――――!! いまいくぞ――――!!」」」
久方ぶりの匂いにロマネファンクラブ一同は奮起していた。
忘れるはずもない、あのすれ違った時にふわっと漂う優しい香り、ちょっとストレス臭も感じるがそれはそれオノレ、シグラス許スマジ。
彼らはついに成し遂げたのだ。
感無量を飛び越え、涙腺崩壊、大爆発。
もうむせび泣く様さえ隠そうとせず、彼らは魔物の一団に突貫し、ロマネへの道を切り開こうと武器を構えた。
「消えてしまえ!!」
そんな中、ロマネファンクラブを襲ったのは、アッツアツのロマネの吐息であった。
「「「ぬわあ――――――!」」」
ロマネファンクラブ一同はジュっと燃えた。
盛大に黒焦げになった。もちろん生物的には即死である。
ロマネファンクラブ40人は秋の終わりの銀杏のようにぼとぼとと地面に倒れていった。
だが、それでも、彼らは手にしていた。
(あれ、これはもしや―――)
推しと空間を共有し、ふと息がかかった。
むずがゆいような、こそばゆい感覚。
(これは、間接キスなのでは!!?)
暴論である。
だが、暴論であるがゆえに、誰にも分からない理由で、彼らの細胞が生きるための鼓動を再開した。
皮膚が内側から細胞分裂を行い、ぽろぽろと表面のコゲがこそげ落ちていく。
生きるべくして生きる。生きていればまたこんなラッキーもあるだろう。
「う、う、うおおおおおおお!!!」
彼らの体が活動を再開する。
普通の人間ならば、奇跡としか言えない現象。
しかし彼らは成し遂げ、息を吹き返した。
一同は立ち上がり、その眼に、ついにロマネの姿を捉えた。
それはまごうことなき邪悪、人類の敵として姿を変えたリザードマン、いや、ドラゴンの特徴を色濃く残すドラゴニュートの姿であった。
「……う、美しい」
ロマネファンクラブの一人が彼女の姿を見てそうつぶやいた。
彼の言葉を呼び水に会員一同がそれぞれ感想を呟く。
「素晴らしい」
「まるで芸術品ではないか」
「さすがロマネ様……!」
もはや彼らにとって彼女がロマネであれば姿形はどうでもよかった。
偶像崇拝のし過ぎで、頭の中で、ウェディングドレスを着せたり、猫耳を生やしたり、獣人化をしたり、スライム化をしたりとしていたのだ。
中にはロマネの弟のポイヤックがドラゴンになってしまった時点でロマネが何になっていたのかワクワクしていた邪悪なものもいる。
そんな彼らには邪悪なラスボスの姿は芸術品、あるいは完璧なる答えにしか映っていなかった。
「どうして……あなたたち……」
圧倒的な圧力を伴った、低く重い声がロマネから響きわたった。
歴戦の猛者でも恐怖で涙を流し、膝を折るであろう強烈なプレッシャー。
ロマネファンクラブ一同も例外でなく、久しぶりにロマネから声を掛けられてドキドキした。
付け加えると根っこが奥手な彼らは何と返せばいいか、ロマネを目の前に全員が全員、声をのどに詰まってしまった。
「あなたたちは、私を殺せますか」
「……!!」
武器を手にしたロマネファンクラブをどう思ったのか、ロマネからファンクラブに問いが投げられる。
答えられないながらも彼らは武器を手放し、争うつもりはないと意思を示す。
「そう……だめ、なのね」
ゴウと突風が彼らを襲った。
ロマネから生えた大きな翼が動き、ゆるりと彼女を浮き上がらせる。
「ろ、ロマネ様!?」
「あなたたちは来てはいけません。殺してしまうから」
そう言葉を残し、ロマネは高く飛び上がり、どこかへと飛び去ってしまった。
つられるように、ロマネを襲おうとしていた残りの魔物たちも彼女を追い、その場から離れていく。
取り残された会員一同は言葉を失ってしまっていた。
何かの敵対勢力が居たとき、ロマネの盾となり、槍となるべく、彼らはロマネとの合流を急いでいた。
だが、それはもう必要ではない。
なら我々の存在意義はなんなのだろうか。
これではただの道化ではないか。
「いや、我らは同士ラブロッソから、ロマネ様を助けてほしいと言われたのだ」
「だが、今のロマネ様はもう我々の助けなど、不要であろう」
「違う、このままではロマネ様は自ら命を絶ってしまうかもしれない」
「……我々ではだめだな。悔しいがあの邪知暴虐の王に頼らざるを得ないか」
「クチオシヤシグラス……我々ではトキメキが強すぎてロマネ様と話すことができない!」
「なら、まずは――あいつらを回収して、一度王都へ向かい、王への謁見を求めるほかないな」
ロマネファンクラブ一同は前々から会員の素養があると見込んでいた赤髪の男レブレサンドと、
同じ場所に転がっていた侍女を担ぎ上げ、王都へと向かうことにした。