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第十五話「嵐を呼ぶ女」シャルツ・ホーフベルガー

「おーほっほっほっほ、ついに私の時代が来ましてよ。」


 シャルツ・ホーフベルガーは、十年間磨き上げた高笑いを上げた。

 10年に一人の才女と謳われ20年、ありとあらゆる手段を用いて作り上げられた美貌と、その美貌に勝るとも劣らない自信にあふれた、エネルギッシュな女性、それが彼女であった。


(く、ふふふふ。今ワタクシに風が来ているわ)


 フリードリヒ家は先の騒動で失墜、同じくモスカート家も青年王シグラス王への信頼を地の底まで落とした。

 フリードリヒ家に置き去りにされ、何もすることが無かったホーフベルガー家であったが、それが逆に功を奏し、ほぼ無傷で現存の貴族社会に君臨、今や敵なしといっても過言ではない。


 そしてそれは彼女にとってのまたとないチャンスでもあった。

 そう、シャルツの狙いは青年王の妃の座。

 あのイケメンの寵愛を一身に受け、わが身こそ最高の美であることを証明することであった。


 とはいえ、彼女にはライバルが多かった。

 一人目はフリードリヒ家のシャルドネ夫人。35歳と妙齢の女性だが、恐るべき美貌を持つ美魔女系の女性だ。

 だが、彼女は先の騒動で家ごと信用を失いあと30年は陛下にお目通りが叶うことはないだろう。結婚適齢期を確実に超え、さすがの美魔女も老いには逆らえないはずだ。よって争奪戦からはリタイヤしたと考えても良い。


 二人目は、モスカート家のミュスカ嬢。年齢が18歳と若く、彼女もまた恐るべき美貌の持ち主だ。

 だが、同様に先の騒動の責任を取るとのことで侍女にまでその位を落としたという。侍女は『おいた』とか『お戯れ』はあれど、それが切っ掛けで妃になることはできない。よって彼女も争奪戦からリタイヤと考えてよいだろう。どんなことがあろうと最後にワタクシの隣にイケメンが居ればいいのだ!


 三人目は、ロマネ・ドメーヌ。だが彼女も先日の会見でリザードマンになったという。

 同情はするが、それはそれ、これはこれ。リザードマンでは陛下と添い遂げるには不可能というもの。


(となると残りるべくして残ったのはこのワタクシ、来てる、来てるわ!)


 今は魔物の襲来もあって陛下とお話しができない状態ではあるが魔物の襲来が終わり、混乱も落ち着いた時がおそらくチャンスだ。

 改めて父を通し青年王へ婚約を取り付ける。


 きっとあの聡明な王は魔物の争乱で浮足立っている貴族たちに余計なことを考えさせない為にあのリザードマンとの婚約を破棄しないと言っているだけだろうと彼女はタカをくくっていた。

 もしあの場で婚約を破棄すれば、王妃を決めるために愚かな貴族たちは魔物の襲撃そっちのけで、血で血を洗う争いを始めるのは目に見えている。


「ああ、賢きイケメンなんて最高じゃない。おーっほっほっほ!」

「お嬢様! たたたた、大変でございます!」


 がたがたと貴族の館に仕えている者らしからぬ騒音を立てて、シャルツの部屋に執事長が飛び込んできた。


「騒々しいですわね、何事ですの?」

「王国軍が敗北しました」


 王国軍が負けた? それはつまり国内に魔物が大挙して押し寄せてきたということ。

 いやいやそんなことはありえない。

 あれだ。執事の全身全霊の冗談ではないだろうか。

 しかし冗談にしてはというかさすがにセンスがない。

 

「おーっほっほっほ、つまらない冗談ですわね」

「いいえ、冗談ではありませんお嬢様」


 執事長はたたずまいを直し、荒げた息を整えるべく、大きく息を吸った。

 しんと一瞬場の音が着せ失せる。

 無意識に手に力が入り、シャルツは執事長の言葉を待った。


「しかも旦那様が、その、ものすごい勢いで隣国に亡命しましたぁぁぁぁぁ!!」

「ごへっ、がは……なんですってーー! ワタクシはどうなるのよぉぉぉぉ!?」

「知りませんとも!! どうしましょうお嬢様!!」

「私こそ知らないわよ!! お母様は!?」

「愛人と、逃げ出しましたぁぁぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁぁぁん!?」


 シャルツ・ホーフベルガーには確かに風が吹いていた。

 しかしそれは逆風。この家にはシャルツ以外の子がいない。

 

 そうこの瞬間、あまりにも無責任に、彼女の細い双肩にホーフベルガー家の存亡が委ねられたのだった。



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