環状線
ある工場に勤める壮年の男性が
つまらなそうに電車に乗っていた。
毎日、同じような景色、同じような人、同じような話題。
レールの通りに進み、逆走はできない人生。
環状線の窓から見える景色は、ほとんど記憶してしまった。
解体されてしまった建物もあるだろう。
新築のものもあるだろう。
しかし、そんなことはどうでも良いのだ。
だいたいは変わらない景色。
まるで人生のようなものだ。
一つ一つにはドラマがあったかもしれない出会い。
時間が経てば、そんなドラマは邪魔だといわんばかりの存在。
日々薄れる感動。
このまま無機的になるなら、いっそのこと環状線の気持ちになってみたい。
彼はそんな衝動を抑えきれず
市内をぐるぐるまわる環状線電車に乗りこんだ。
高まる一周目ではあったが、周回を重ねるごとに窓の外はただの景色になってしまった。
この電車は、すごいな。
こんな刺激のない日々を何年、何十年と送っているのか。
彼はこの電車に尊敬の念を抱きだした。
この電車にできることはなんだろう。
なんの変哲もない日常に、
規則正しいダイヤに
なにか変化を贈れないだろうか。
彼は、はたと気づき、行動することにした。
環状線のダイヤは乱れた。
しかし、次の日からは、また、いつもと変わらぬ日常を送り出した。
彼は環状線から降りることはできた。
もう、乗ることはできないだろうけれども。