修業の始まり
祝福の儀が終わって家に帰った後、早速家族会議が始まった。
祝福の儀としては異例の速さで終わったのも、普段行政とかの仕事ばかりであまりかまってくれないお父さん、モーゼンタール領現当主、ベルモンド=モーゼンタールが普段よりもやつれた顔で家族会議を主催したのも、全部僕が祝福『超回復』『タンパク質生成』『摩擦力操作』とかいう、魔法使いの家系には有るまじき物を授かったせいだ。
「シーナイ…何故このような会議が行われているかは分かっているな?」
ベルモンドが数秒の沈黙を破って重々しく口を開く。これでも仕事の合間をぬって家族会議を開いているので、この数秒も惜しいのだろう。
「はい、僕が授かった祝福の件ですね…。」
シーナイはお父さんの早く終わりたいという意図を読み取って早速本題に入った。
「早速結論から入るが、お前には倉庫で三年間の修業期間を経てもらう事にした。」
「え…」
正直何らかの処置は覚悟はしていたが、三年間の修業は予想していなかったのでシーナイは思わず声が出てしまった。ちなみに倉庫というのは周りをぐるっと大岩の壁で囲まれた半径約50mの円形の闘技場の事で、倉庫と言っても物が置いてあるようなこともない、ただの邪魔な施設だ。昔は闘技場として使われていたらしいが、観客席がないので、正直闘技場として使われていたという噂すら怪しい。
「無論、食事は供給するし、雨風を凌げるよう屋根も設置する。望むものがあるならば可能な限り届けよう。何かあった時のために付き人も配備する。どうだ?」
ベルモンドが後付けした条件により、闘技場のような施設なだけあって、屋根もなく雨風にさらされる心配があったが、そうそうに解決した。食事の心配もなさそうだ。まぁ結構我慢しなければいけないこともまだまだ多そうだけど。それよりも…。
「お父様、その…今通わせてもらっている学び舎はどうすればいいのでしょうか?」
シーナイは一番大きな疑問をぶつけた。修行するとなれば三年間魔法修行ばっかりになるだろうから、その間の魔法以外の知識をどうするのかが気になっていたのだ。
「そのことだが、お前には悪いが今行ってる学び舎は辞めてもらい、付き人にそこら辺の事は任せようと思っている。」
「その付き人というのは…?」
先刻から話に出てきている付き人が誰かによって、知識の幅はずいぶんと違ってくる。魔法学の教授とかだったら断ろうかとシーナイは思っていた。正直魔法以外を学んでいる時の方が楽しいからだ。それに魔法の修業期間といっても、息抜きは必要だ。
「付き人にはポルカ翁を任ずる予定だ。」
それを聞いてシーナイは少し安堵した。ポルカ・スティングレイ、モーゼンタール家に長年努める住み込みの執事で、シーナイとも、シーナイが物心つく前からの付き合いだからだ。70歳越えのおじいちゃんではあるが、背も高く姿勢もしっかりしているので、まだまだ若い衆には負けませんぞといった雰囲気がシーナイでも感じ取れる。それに情報管理局の管理人に任命されていたこともあるので、その影響で今も情報収集とかをやっていて、いろいろな最新の知識を持っている。頼めばいろいろ教えてくれるはずだ。
「それで…その修業期間というのはいつからでしょうか?」
シーナイは修業をする覚悟を固めて聞いた。
「早速だが今日から取り組んでもらう。家族会議をしている間にもう荷物は運ばせてもらった。しばらく会えなくなるが、三年の修業の成果を楽しみにしているぞ。」
シーナイの固めたはずの覚悟が一瞬で砕かれた。数日後とか明日からとかじゃなくて今日から、しかも荷物はいつの間にか運び終わってて、それに…しばらく会えなくなるって?時々様子を見に来るとかじゃないの?
「よし、家族会議は終了だ、お前らもそれでいいな?」
ベルモンドが妻のレーデル、そして次男のサインに声をかけた。九歳のサインはまだよく分かっていないのか戸惑っていたが、レーデルは黙って頷いていた。
こうしてシーナイの三年間の魔法修行という名目の幽閉生活がスタートしたのであった…。