42.特訓開始
翌朝、自称弟子は5人ともうちにきていた。
親も乗り気なのか、ちゃんとお弁当を持参している。
ゴーレにヒューズさん達を呼びに行ってもらい、
俺らは4Bエリアに移動した。
そこには1階建ての広い建物と大きな庭があった。
「みんなの特訓する学び舎を昨日作っておきましたー」
昨日のうちに、広めの1Kに机と椅子を設置して、外を柵で囲って庭を作っておいた。
「師匠!すごーい!」
「すごいね!お兄ちゃん」
「本当にすごいね師匠」
「ラ、ライルく、師匠すごい」
「師匠!師匠!」
ニーナちゃんは無理に師匠って呼ばなくてもいいんだぞ。
そこに疾風の斧がやってきた。
「みんな、僕は師匠じゃないぞ。疾風の斧の皆さんがみんなの師匠だ」
▽ ▽ ▽
自己紹介もそこそこに、早速算術の授業が始まった。
「ジャガイモが袋の中に2つ入ってます。その中にジャガイモを3つ入れました。袋の中にはジャガイモは何個?」
リリアンさんの教え方はうまかった。
勉強というものをしたことがない子供達が、考えやすい題材で問題を作ってくれている。
自称弟子達は思ったよりも理解力が高いのか、生活で身についていたのか、簡単な足し算ひき算はできていた。
次はヒューズさんの授業だ。
「みんなはゴブリンと遭遇したらどうする?」
俺ならエアショットを打つ。
「戦う!」
「倒す」
「戦う?」
「ど、どうしよう」
「逃げる」
「シャル、正解だ!答えは逃げる」
するとルークくんとカシムが
「なんで逃げるんだよ。ゴブリンって弱いんだろ?」
「戦う方がかっこいい」
ヒューズさんは二人の意見をちゃんと聞き、優しく教えてくれる。
「二人とも、ゴブリン舐めたらダメだぞ。今の君達だったら、全員で戦ってもゴブリンにも勝てない。
もし戦ってる最中にゴブリンの仲間が来たらどうする?
もし大切な人と一緒にいるときに、ゴブリンと遭って戦うとしよう、ゴブリンの仲間が来て大切な人を守れなかったらどうする?それでも戦うのか?」
「でも」
「自分達がまだ弱いってことを忘れるな!モンスターに出会ったら、まず逃げる!
もし逃げられなくて戦わなきゃいけなくなった時、その時のために俺はみんなを鍛えて、知識を与えるからついてきてくれ」
「「「「はい!」」」」
ヒューズさんは熱血系だった。
でもやはりBランクの冒険者だ、最初に逃げることの大切さを教えるなんて、俺じゃ考えつかなかった。
そして初日の午前の授業は終わった。
▽ ▽ ▽
昼ご飯を食べながら、自称弟子のやりたいことを聞き、午後の授業の割り振りが決めた。
前半は、クララさんとフリード達と追いかけっこ。
後半は、ヒューズさんが剣術をルークくんとシャルちゃんに、リリアンさんが魔法をニーナちゃんとチャールズ兄に、クララさんが弓術をカシムに教えることになった。
クララさんはやはり精神年齢が近いのか、子供達と楽しく遊んでいた。
途中途中で走り方や疲れない方法などをアドバイスをしていた。
思ってた以上に疾風の斧って師匠として優秀だった。
後半の授業が始まった。
ヒューズさんとルークくん・シャルちゃんはちょっと不恰好な木剣を持っていた。
リリアンさんに聞いた話だが、昨日俺の話を聞いたあと、森に木を取りに行って作っていたみたいだ。
リリアンさんは魔法で水の玉を出して、宙に浮かしている。
それをニーナちゃんとチャールズ兄に見せている。
ニーナちゃんはまだ魔力適性検査を受けていないが、すでに受けているチャールズ兄は火の適性があったらしい。
クララさんはカシムにひたすら弓を射たせている。
クララさん曰く、呼吸をするレベルで弓を引けるようにするためらしい。
「あれ?なんか上手く行きそうじゃね?」
▽ ▽ ▽
授業が終わり、みんなは帰っていった。
明日もみんなは来るのだろうか。
「師匠の皆さん。どうでしたか?」
「やめろ、その呼び方!恥ずかしいぞ」
「私は気に入ってるわよ。授業に関してだけど、算術はみんな思ったよりできてびっくりしたわ。その中でもチャールズは年上だからそれなりにできていたわ。ニーナも理解力が高いわ、他の子はみんな同じくらいね。
魔法に関しては、やってみたけどためになってるかまだわからない。
チャールズが火の適性があるみたいだから、明日からちょっと工夫してみるわ」
リリアンさんの優秀すぎるコメントに感動した。
続いてヒューズさんが話し出す。
「えー冒険者の座学だが、教えられることは教えた。誰が物覚えがいいかとかの段階ではないからなんとも言えん!
剣術は、ルークは筋があるな。シャルはまだわからんが二人ともやる気がある」
ヒューズさんらしいコメントだった。
そしてクララさん。
「追いかけっこは楽しかった!チャールズは力はあるけど動くの苦手みたい!ニーナも体力が少ない!
カシムとシャルが頭一つ抜けてて、次点がルークかな?
弓はそれなりに射ってたけど、基本がなってなかったから、明日もひたすら射たせるよー」
思ったよりもちゃんとしたコメントだった。
「なんか、やってた?こういう仕事?」
「やってないが、後輩冒険者とか新人とかに教えてた経験がある」
「なるほどね、俺1人じゃできなかったよ。ありがとう!3人とも」




