40.ヒューズの決断
「ライル、ちょっと模擬戦やってみないか?」
唐突にヒューズさんが言ってくる。
「私もやりたい!」
「私もライルくんの魔法見てみたいわね」
5歳と模擬戦をしようとする疾風の斧にあきれた俺は、
「皆さんはバカなんですか?この村にそんなことができる場所はありません」
「言葉がきついぞ。お前肩だけでもいいから猫かぶれ!」
「森ならできるじゃん!」
「森ならいいわね」
「だからマジでバカなんですか?モンスターがいる森で模擬戦?皆さんからしたら、モンスターと戦いながら5歳と戯れ合うようなものかもしれないけど、俺からしてみたらモンスターとBランク冒険者と同時に戦うなんて地獄でしかない」
「じゃあ、俺達の家を作ってくれる時に広めの訓練所も作ってくれよ」
「それは考えてましたよ。さすがに冒険者ギルドまで馬車で2日のこの村を疾風の斧の拠点にしてもらうことはできないけど、設備が充実してて、疾風の斧が来たくなる家にするつもりですよ。まあその前に問題はあるんですが」
「問題?」
「俺のエクストラスキルは、自分の土地か親族の土地じゃないとダメみたいで。今お父さんが持ってる土地は全部畑にする予定だから、土地を買わないとなんですよねー」
「そんなことかよ。カラッカの街で家を建てるってなると土地代が大金貨2枚と建築で大金貨2枚はかかる。王都ならその5~10倍はかかる。でもこの村なら金貨5~6枚あれば、それなりに広い土地を買えるぞ!」
「金貨5~6枚って、この村の人からしたら大金なんですから!!」
「でもカインさんはこの土地を買ってるじゃねーか」
「それはお父さんとおじいちゃんが村の発展を願って、野菜を売ったお金をためていつかのためにこの土地を買ったんです」
「なるほどなー」
「だからカラッカの街に行って、野菜を売ったお金とスライムとゴブリンの報酬の半分を使って土地を買ってもらうようにお父さんに頼みます」
「ライル、ちょっとまってくれ。リリアンとクララと相談したいことがある」
そういうと、疾風の斧が相談を始めた。
「っていうつもりでいるんだがどうだ?」
「私は賛成よ。私の勘も同じ意見」
「私もいいよー!リーダーについてくだけだから」
「貯蓄はだいたい大金貨数枚はあるから、乗る馬を間違えたとしてもどうにかできるし、ライルは今後すげぇことをすると思う。よし決めた。ライル!」
「はい!」
「こっからは俺らからの提案と交渉だ。まず俺らに作る家だが、この家と同じくらい高性能のものを作ってくれ。そして、訓練所・厩舎・倉庫を作ってくれ。追加で要望が出た場合は、出来るだけ対応して欲しい」
「わ、わかりました」
「そのかわり土地は大金貨2枚分を俺が買って、カインさんに格安で売ってやる。魔力適性検査のために、冒険者を雇うつもりだったんだろ?その金額で売ってやる。俺達の家に使わなかった土地は好きに使え」
「え?それじゃあヒューズさん達がだいぶ損しますよ」
「先行投資だ。疾風の斧はこの村をメイン拠点にし、長期依頼とギルドからの直接依頼しか当分受けるつもりはない。
ライル、村を発展させて、俺らが得したと思わせられるか?」
「はい!必ずこの村を発展させて、ヒューズさん達に勝ち馬に乗ったって思わせます」
▽ ▽ ▽
ゴーレにお父さんを呼んで来てもらった。
「ん?なんか色々決まり終わってないか?」
「お父さん、相談というよりかは報告になります」
「護衛については、ライルへの謝罪と感謝だと思ってくれ。土地については俺らも色々考えて決断した」
「えーっと。なんか得しかしてないと思うんだが、ヒューズさんはそれでいいのか?」
「問題ない。昨日出会ったばっかの子供を信用するなんて普通ならしない。
でも昨日さまざまな能力を見せられ、今日色々真剣に話した。カインさんも知っての通り、ライルは天才というか異常だ。その天才が村を発展させるって言ってるんだ、面白くなりそうだろ?この村がどう進化するか近くで見たくなったんだよ」
「まあそうですよね、普通は息子を異常と言われたら怒るべきなんですが、納得してしまう。でもヒューズさんと同じように俺も期待してるんです。ヒューズさん!護衛の件と土地の件、そしてこれからライルをよろしくお願いします」
「よろしく!」
お父さんとヒューズさんは握手を交わした。
▽ ▽ ▽
それから色々決まった。
・土地は3日後に村長宅で購入。
ヒューズさんが大金貨2枚で購入したものをお父さんが大銀貨8枚で購入する。
・それまでに、パーティの拠点に欲しいもののリストアップ。
・購入した土地は疾風の斧の拠点を作った後は俺の自由にしていい。
・10日後までに全ての土地をある程度整理する。
・10日後、カラッカの街に向けて出発。
(移動2日・カラッカの街に宿泊3日・移動2日)
「よし、これでいいか?」
「問題ない。楽しみだ」
「問題ありません。何かありましたら早急にお伝え致します」
「大丈夫。色々やらなきゃだけど」
▽ ▽ ▽
俺達は家に帰っていた。
「そういえば、友達が何人か遊びに来てたぞ」
「え?だれ?」
「ニーナちゃん・ルークくん・カシムくん・シャルちゃん・チャールズくんがいらしております。真剣な打ち合わせをしていましたので、ご報告が遅れて申し訳ありません」
「問題ないよ。ありがとう。っで、みんなはどこに?」
「厩舎で遊んでおります」
俺達はお父さんと別れ、厩舎に向かった。




