394.新酒と会議
朝起きて遅めの朝食を食べていると、ゴーレがやってきた。
「マスター」
「どうしたの?誰か来た?」
「アースさんがいらしております」
「ちょうどいいじゃん。中に案内して」
「わかりました」
ゴーレはそう言ってアースを呼びに行った。
「ライルさん。帰りました!!」
アース。
本当に昔の喋り方をしてくれ。
「おかえり。アースに話しておきたかったことがあったんだ」
俺はペパイドのこと、倒したときにヒューズさんが見た映像のこと、神様の加護のこと、サンタと恐竜のことを話した。
「私が居ない間に!」
アースはなぜか悔しがっていた。
「まあそういうことだからさ。サンタには気を付けて。確実に転移者だから」
「転移者と敵対はしたくなかったんですけどね」
アースは渋い顔をした。
「まあ敵だろうね。あの感じだと。俺が転生者だとは思ってないだろうけど」
「少し調べてみますね」
アースはこういう面は頼りになる。
「そうだ。アースは朝からお酒いける?」
「いけるにはいけますけど」
「これ飲んでみて」
俺は昨日マジックドリンク製造タンクで作った日本酒を出した。
「まさか!」
「日本酒。前世で数えるくらいしか飲んだことないから、変なものを作ってないか呑んでほしくて。一応有名な日本酒をイメージしたんだけどね」
「飲んでみます」
アースは日本酒を1口呑んだ。
「『鑑定』だと純米大吟醸酒ってやつの辛口みたい」
「はああああああ」
アースはため息をついた。
「え?ダメだった?」
「うまい!!」
「よかったー」
「これは売れますよ」
アースに日本酒を何本か容器に入れて渡してあげた。
▽ ▽ ▽
工場エリアは今回の改造で間取りを変えた。
ライル商会で会議するときにいつも商人ギルドの会議室を使っていたので、工場エリアに会議室をいくつか作った。
中会議室には各飲食店から代表者が集まっていた。
レストランライルからブライズさん。
鬼将軍の調理場からアルゴットとフィアダ。
海鬼の調理場からポレット。
鬼乃屋からモズド。
鬼火亭からエーダとヨウラ。
チャールズのパン屋からチャールズ兄とガートンさん。
ケーキ屋からはアヤノ。
そして商人ギルドマスターアイザックさんとリーラさんも来ている。
「えっと今回は飲食店で使えるマジックアイテムが何個か手に入ったので、どの店に配置するか相談したくて」
「なるほどね。それでなにがあるんだい?」
「まずはマジック食器洗浄乾燥機、マジック製氷機が2つ、マジックジューサーが2つをどこに置くか決めたい」
みんなは遠慮して発言をしない。
ブライズさんは気を使って話し始める。
「マジック食器洗浄乾燥機は客数が多い、鬼将軍の調理場か海鬼の調理場がいいんじゃない?」
「そうだね。俺的にはどっちでもいいんだけど」
俺がそういうとポレットが口を開く。
「お皿洗いも娘と息子の修行の一環なのでうちは大丈夫です。なので鬼将軍の調理場に置いてください」
「うん。そう言うならそうしようか」
「「ありがと!」」
アルゴットとフィアダはポレットにお礼を言った。
「氷はうちから持って行く頻度が高い店に置きたいね。海鬼の調理場と鬼乃屋でいいんじゃない」
「助かります!」
「ありがとうございます」
「うん。じゃあマジック製氷機はそこで決定」
するとチャールズ兄が手をあげた。
「ライル。マジックジューサーはパン屋じゃダメかな?最近パンをお店で食べる人も増えたから、ジュースも出したいんだけど」
「いいよ。じゃあ1つはパン屋で」
「もう1つは年齢や性別がバラバラな冒険者が主な客層の鬼将軍の調理場でいいんじゃない?お客さんから聞いた話だと、アルゴット目当ての女性冒険者のお客も多いって聞くし。うちからジュースを持って行く頻度もマヌセラの店よりはるかに多いしね」
ブライズさんにからかわれて、アルゴットさんは少し恥ずかしそうにしていた。
フィアダが口を開く。
「それについて相談があるんですが」
「いいよ。どうしたの?」
「女性のお客さんが多いので、できればアヤノさんのケーキなどを出せたら嬉しいんですが」
「大丈夫ですよ。ケーキは何個か常に渡せるようにしておきます。他にも出しやすい物を考えますしレシピも共有しますね」
「ありがとうございます」
フィアダは嬉しそうに頭を下げた。
「ライルくん。とりあえず以上かな?」
「違いますよ」
「「「「「え?」」」」」
みんなは驚いていた。
「アイザックさん達も来てるんですから。新作のお酒です」
「「「「おおおお!」」」」」
「まずは割りモノから」
俺はマジックドリンク製造タンクを出す。
「このまま1回飲んでください。焼酎などをこれで割って飲むんです」
俺は炭酸水が入ったコップをみんなに渡す。
みんなが炭酸水を飲んだ。
「なるほど。強いお酒が飲みやすくなりそうだね」
「甘くないコーラですね」
「うん。なんか料理にも使えそう」
料理人達は感想を言い始めた。
「ライルさん。これは売れないですよね」
「はい」
「ではなぜ」
アイザックさんは自分が呼ばれた理由を知りたいようだ。
「これですよ。ヤルク酒と名付けたお酒です。これは辛口です」
「辛口!?甘口もあるんですか?」
「あっ!いえ。今はないです。頑張って提供できるようにしますのでお待ちください」
アイザックさんを変に期待させてしまった。
俺はみんなに日本酒ことヤルク酒を配った。
「おおおおお」
「香りが凄い!」
「強い。でもスッキリしてるし飲みやすい」
「甘みもありますよ」
「これはうちで出したい!!」
料理人達は盛り上がり始めた。
「ライルさん!これは売れるんですか!」
「たぶん売れると思いますよ」
「あああ!最高です」
「これは人気出ますよ!」
アイザックさんとリーラさんはテンションが上がってた。
「ここでみんなに相談をしたい。このマジックドリンク製造タンクが合計6個あって、この炭酸水とヤルク酒はライルレストランに置くつもり。残り4つをどうしようかなと」
「なるほど」
「みんながビールをヤルクに取りに来るのがそろそろきついかなって」
俺がそういうとマヌセラ組は頷いていたが、アルゴットとフィアダは首を傾げていた。
アルゴットとフィアダはお店を始めてからずっとビールを取りに行ってたから苦痛に感じなかったのだろう。
モズドが手をあげた。
「どうしたの?」
「鬼乃屋は酒を楽しむ客が多いので、ビールはなしでいいのでヤルク酒をいただくことはできますか?ビールを飲みたい人は海鬼の調理場に行けばいい。これで差別化することもできると思うんです」
「うん。いいね。マヌセラ組は料理で差別化してるしね」
するとポレットが口を開く。
「それならヤルク酒無しで、ビールだけで平気です。炭酸水は将来的に興味ありますが」
「わかった。渡せるようになったら渡すよ」
次はアルゴットが話し出す。
「デスヘルの冒険者はゆっくりお酒を呑むタイプは少ないので、ビールか炭酸水だと嬉しいです」
エーダも遠慮しながら話し出す。
「うちはビールがあるので大丈夫です。ポレットさんと同じく、炭酸水は興味があります!」
料理人達は希望を言い、最終的には俺とブライズさんが決めた。
レストランライルはビール・コーラ・炭酸水・ヤルク酒。
鬼将軍の調理場はビールと炭酸水。
海鬼の調理場はビール。
鬼乃屋はヤルク酒。
鬼火亭は元々あったビールのみ。
鬼将軍の調理場に炭酸水が入った理由はアルゴットとフィアダが頑張っているからだ。
カラッカに店を出したのに、俺の思い付きでデスヘルに移転させたからね。
そういう経緯も含めての贔屓だった。
みんなも認めていたから、問題ないだろう
「ライルさん」
「どうしたの?」
アヤノが不満そうな表情をしている。
「ケーキ屋は何かありますか?」
「あー小豆・ブルーベリー・ラズベリーを育ててるよ」
「え!それを早く言ってくださいよ!」
アヤノはさっきまでと打って変わってニコニコになった。
「あと調べてほしい植物があって」
「はい」
「モチムチっていう植物なんだけど」
「え?」
「餅だったらいいなと」
「異世界の植物ってことですね。調べてみます!」
アヤノはやる気に満ち溢れていた。
「あ!あとカンミちゃんとシューちゃんをケーキ屋で働かせてくれてありがとうございます」
「うん。仲良く働いてね」
アヤノはミニゴーレムにも名前をつけたみたいだ。
俺はチャールズ兄の元に向かう。
「チャールズのパン屋は、イタロの国でコーヒーが手に入れられたら色々できそうだね」
「わかった!パンの売り上げも増えたから、飲み物も一緒に売れるように頑張るよ。ブレド達が手伝ってくれるからできるはず!」
「うん。頑張って」
「あ、ライル!」
「ん?」
「パン屋の名前を変えていい?」
「え?」
パン屋は[チャールズのパン屋]がいいんじゃないか。
俺は結構気に入っていた。
「何にするの?まさか…」
「うん。ブライズさんと話したんだけど、鬼とかライルって名前が入るだけで客が安心してくれるらしい」
「え?まじ?」
「うん」
まさか自分の名前と鬼という言葉に影響力が出てしまうとは。
商売だから我慢しなくちゃいけないところだ。
「名前の変更はしていいよ」
「うん、ありがとう。[鬼将軍のパン屋]にするね」
「う、うん。わかった」
俺は諦めた。
「あのー」
チャールズ兄と話しているとアヤノが話しかけてきた。
すごく嫌な予感がする。
「ケーキ屋も名前に鬼を付けても?」
「ちなみに候補は?」
「鬼将軍の楽園です」
「うーん。どうしても?」
「はい。どうしても」
「いいよ」
俺は再び諦めた
みんなは嬉しそうに帰っていった。
俺は中会議室を出て、各飲食店にマジックアイテムを設置しに向かった。




