375.卒業試験⑤
次はニーナと謎の人物の試合とカシムとビッツの試合だ。
好カードだ。
同時にやるのをやめてほしい。
ステージに4人が揃う。
ニーナの相手は双剣を持った女の子だ。
さっきの双剣使いの男と顔がそっくりだ。
双子なのか?
審判が掛け声をかける。
ビッツは四足歩行で走り出し、地面を触っていく。
カシムは素早く弓を引いて、ビッツが触れたところに矢を放つ。
矢が当たると爆発したり、火が出たりしている。
カシムはしっかりビッツの罠を警戒しているみたいだ。
ビッツはくじけず罠を設置していく。
カシムは中央に設置された罠を矢で射貫くと、大量の煙幕がステージを覆った。
煙幕の中に居るビッツの姿は見えないが、罠を設置しているのだろう。
設置する瞬間を見られなければ、簡単に壊すことはできない。
煙幕の中からナイフが飛んでくる。
カシムは矢で弾く。
さすが獣人だ。
ビッツは煙幕の中でもカシムの位置がしっかりわかるみたいだ。
なぜか劣勢のはずのカシムが全く焦っていない。
カシムは深く息を吐くと、空に矢を放った。
再び弓を引くとその状態で止まる。
目を瞑り、弓を引き続ける。
カシムに向かって煙幕の中からナイフが飛んできた瞬間、ナイフが出たところに向かって弓を放つ。
スパン!
弓から聞いたことのない音が響く。
矢の煙幕をかき消しながら、ものすごい勢いで飛んで行く。
「がああ!」
ビッツは矢を避けきれず、肩を掠る。
掠ったとは思えないほど勢いでビッツは吹き飛んでステージ上で倒れて動けなくなっていた。
カシムは動けないビッツを見て焦ったような表情をし、ステージの端に移動した。
「エアロボール!」
風の球が倒れたビッツに当たり、ビッツはステージ外に落とされる。
その瞬間、空から大量の矢が降ってきた。
ステージに大量の矢が刺さると罠が全て作動し、ステージ上はたくさんの爆発がおきて地獄のような状況になった。
カシムのさっきの攻撃は、ビッツが巻き込まれないようにするためだった。
ビッツの意識はあるが身体が動かないため、降参をして試合は終了した。
カシムの強さは異常だ。
ニーナとカシムは最初の弟子だ。
成長がえげつない。
これは俺も気合入れないとダメだ。
ニーナのことを思い出してステージを見ると、こちらも凄かった。
双剣使いは脚をアイアンソーンに取られ、バタリーキューカンバーから砲弾のような種をぶつけられ続けている。
ニーナが何かを唱えると。6本の太い蔓が地面から生えてくる。
蔓は鞭のように何度も双剣使いを地面に叩きつける。
もうこれは見てられない。
双剣使いは何もすることが出来ずに気絶した。
▽ ▽ ▽
本日最後の試合。
チャールズ兄とイタロの試合とララの試合だ。
イタロにはハンと同じようにアドバイスをあげたが、チャールズ兄に通用するか。
4人がステージに上がり、審判が掛け声をかける。
イタロはすぐに距離を取るが、チャールズ兄は全く動かない。
イタロはストーンボールを放つ。
チャールズ兄は盾も構えて動かない。
イタロが放つストーンボールやエアロボールがどんどんチャールズ兄に向かって飛んで行く。
だけどチャールズ兄は一切動かない。
そして何かを叫んでいる。
イタロはそれを聞いてひたすら攻撃を続ける。
ララは名も知らぬ生徒の周りをピョンピョン跳び回る。
相手は棍棒を振り回しているが、まったく当たる気配がない。
ララは飽きてしまったのか、棍棒を持っている手を蹴り飛ばした。
棍棒は飛んで行き、名も知らぬ生徒が戸惑った瞬間に腹に蹴りを入れて気絶させた。
ララの圧勝だ。
チャールズ兄とイタロの試合は様子が変わらない。
もう100回以上攻撃を食らっているチャールズ兄は一切動かない。
そして叫び続けている。なぜか目線は俺達が居る控室を見ている気がした。
チャールズ兄の周りには砕けたストーンボールが散らばっていた。
イタロは目を瞑り、何かを唱えるとチャールズ兄の足元の破片が浮かび上がった。
そして円を描くように宙を舞い始めた。
その様子は砂嵐や竜巻のようだった。
竜巻で勢いが付いた破片がチャールズ兄の肌を斬りつける。
だけどチャールズ兄は顔すらゆがめない。
イタロは魔力切れなのかふらついている。
するとチャールズ兄は初めて動き出した。
イタロに近づき、メイスを首元に添えた。
チャールズ兄の勝利だ。
▽ ▽ ▽
残りの試合は明日だ。
男子はルークと双剣使い、フォンとジョシュ、俺とリリヤド、カシムとチャールズ兄。
女子はベラとカイリ、シャルとアメリア、ネネと魔法使い幼女、ニーナとララ。
明日はステージを1つしか使わないらしい。
帰ろうとしたら鬼将軍の剱に、明日は本気を出したいから回復をできる人を増やしてほしいとお願いをされた。
俺は確認をしにヤイダラール先生の元に来ていた。
「は?」
「ですので、本気を出したいみたいで」
「おいおい。あれは本気じゃないのか?」
「うーん。違うみたいです」
「はぁ」
ヤイダラール先生は頭を抱えた。
「うちからも数人出せますし、ポーションも用意するんで」
「わかった。生徒のわがままくらいはどうにか聞いてやる。だけど明日は国王様も来るから、バカなことをするなよ」
「は?」
国王が来るなんて聞いていない。
俺が動揺していると、オステオさんがやってきた。
「ライルも居たのか」
「はい」
「私はリゴベルトに報告をしに来たんだが、お前も聞いていけ」
「え?」
「お前達を襲った冒険者達の雇い主が分かった」
「え?」
「だがまだ確定できる証拠がない」
「それで誰なんです?」
「ドーグラン・ペパイドだ」
「なるほど。ドラゴンシュガーも?」
「ああ」
薬学の先生だし知識はあるだろう。
ポーションの件では恨みを買っている気はしていたし、あの思想の人なら恨んでくるだろうな。
「そういえばライル」
「なんですか?」
「チャールズが成人したらうちに入れろ」
「無理です」
オステオさんはいきなり何言ってんだ。
「最後の試合のあいつは凄かったぞ」
「ですね」
「試合中「鬼将軍の剱の盾を舐めるな!」「矢でも風の矢でも何でも防いで見せる!」「本気で攻撃して来い!」って叫んでいたぞ」
「なるほど」
チャールズ兄が控室を見ていた理由が分かった。
俺とカシムを挑発してたってことね。
やるじゃん。
「まああげませんよ。本人も言ってたんですよね?鬼将軍の剱の盾だと」
「本人が興味あったらいいだろ?」
「ダメです。俺の弟子はあげません。大切な家族を奪うなら・・・」
「冗談だ!あんな試合を見せられて、お前達とヒューズやガッツと戦う気は起きない」
オステオさんは苦笑いをしていた。
俺はオステオさんに釘を刺して家に帰った。
▽ ▽ ▽
「言わなくてよかったのか?」
兄貴は心配そうに聞いてきた。
「いいんです。あれくらいじゃあの子達の邪魔はできませんよ」
「だけど最後の魔法使いは」
「まあ予想外ですが大丈夫でしょう。あの子達の担任は俺です。兄貴みたいに強くないですけど、人を見る目はあるんです」
俺はドラゴンシュガーの件でだいぶ前からペパイドを疑っていた。
卒業試験を取り仕切ることになり、生徒の実力を見るために助っ人が必要とか言い出した時よりも以前から怪しい行動は見受けられていた。
ライル達や生徒達には申し訳ないが、助っ人はペパイド逮捕のために泳がすと決めた。
「それで行くのか?」
「はい。傭兵のドルビダ一家の居場所は掴んでいます。まあ負けまくっていたんで、依頼がおかしいと気付いているかもですね」
「用心に越したことない。完全武装で行くぞ」
「はい。兄貴」
俺は兄と黄盾騎士団と共に傭兵達の元に向かった。




