368.モンスターサーカス②
俺達はジェネッタ先生と別れて家に帰り、ヤルクに来ていた。
「なんかすごいものを預かってしまいました」
セフィーナさんは卵を大切そうに抱えていた。
「トサカに頼んで、温めてもらいましょう」
「そうですね」
「孵りそうになったら、ゴーレムの誰かが教えに来てくれると思うので」
「わかりました」
「じゃあ俺はモンスターサーカスを伝えるために孤児院に行きますので」
「はい。ではまた」
俺はセフィーナさんと別れ、教会に向かった。
教会に入ると、シスターユーアが掃除をしていた。
「シスターユーア」
「あ!ライルさん。どうなさいましたか?」
「王都でモンスターサーカスという興行があって、孤児院の子供達の分のチケットを買ってきたんです」
「え!そうなんですか!みんな喜ぶと思います」
「あ!シスター達の分もあるからね」
「私達もですか!」
シスターユーアは嬉しそうに笑った。
「2日後です。孤児院の子供達が『秘密の通路』を使うときは目隠ししてもらえると」
「あ!わかりました」
ライル商会から去っていく子もいると思うので、一応『秘密の通路』の存在は隠しておきたい。
俺はシスターユーアにチケットを渡す。
「じゃあ2日後。詳しくはチケットに書いてあるから。30分くらい前に王都の家に来て」
「わかりました」
「よろしくね」
俺はシスターユーアと別れ、王都に戻った。
▽ ▽ ▽
モンスターサーカス当日。
開園は昼過ぎからだ。
シスターと孤児院の子供達は到着していた。
「マスター」
「ん?」
「門の前に馬車が数台来ています」
「あー」
俺はゴーレと共に門へ向かった。
門の前には馬車が5台停まっていた。
自前の馬車で行くと厩舎が混んで大変らしく、ジェネッタ先生が子供達のためにと馬車を用意してくれた。
「えーっと?」
「君がライルくんかい?」
「はい」
御者台に座る男性に声をかけられた。
「母がいつも世話になってるね」
「母?ジェネッタ先生の息子さんですか?」
「そうだよ」
この人が馬や馬型のモンスターのレンタル業をやっているジェネッタ先生の長男みたいだ。
「もう準備はできているかい?」
「はい。すぐに乗ってもらいます」
「よろしく」
俺はシスター達に指示を出し、みんなを馬車に乗り込ませた。
「じゃあ俺達も乗るよ」
「「「「「「「はーい!」」」」」」」」
俺達も乗り込み、馬車はサーカスに向かって出発した。
▽ ▽ ▽
サーカスのテントの周りはとても賑わっていた。
客も多いし、屋台もこの前見た時よりも多く建っていた。
「開演まで自由行動で!お金はあるね?」
「「「「「「はーい!」」」」」」
「ちゃんと後で合流するから、迷わないようにね」
俺がそう言うと弟子達は散っていった。
「シスターユーア!」
「はい」
俺は小さなシモン布でできた巾着を渡す。
中身はお金だ。
「これは好きに使っていいんで、子供達をよろしくお願いしますね」
「いいのですか?」
「はい。ヤルクの街でやる屋台の参考にもなると思いますよ」
「そうですね!!色々見てみます」
シスター達は子供達を連れて屋台へ向かった。
俺もブラブラしようと思ったら、後ろにセフィーナさんが付いてきていることに気付いた。
「ライル様。お供しますよ」
「そうですか。じゃあ行きましょうか」
俺とセフィーナさんは歩き出した。
サーカスのテント周りには屋台のほかにモンスターと触れ合える場所もあった。
それに演奏隊もいるみたいで、軽快な音楽が流れ続けている。
演奏隊の方へ行くと、ネネが興味津々で見ていた。
「ネネ」
「あっ!ライル様」
「やっぱり演奏に興味あるの?」
「はい!音楽大好きです」
ネネは笑顔で答えた。
「今度、みんなの前で演奏会をしてもいいかもね。ミラーゴーストが居たら演奏できるでしょ?」
「出来ます!やりたいです!」
「じゃあ今度お願いするね」
ネネは嬉しいのか小さな尻尾が少しだけ動いていた。
俺達は演奏を聞きながら時間を潰した。
▽ ▽ ▽
開演の時間になった。
みんなと合流して席に座る。
テントの造りはかなりしっかりしていた。
明かりも大量に設置されているから、誰かのエクストラスキルで建てたのだろう。
「楽しみだな」
俺は少しワクワクしていた。
明かりが消え、スポットライトが動き出す。
演奏隊が音楽を奏で始めた。
スポットライトが宙を照らすと、女性がペガサスに乗って登場した。
「「「「「「うおおおおお!!!」」」」」」
観客は沸いた。
ステージ全体が明るくなって衣装を着た演者とモンスター達が登場し、サーカスは開演した。
▽ ▽ ▽
サーカスは思った以上に凄かった。
孤児院の子供達も喜んでいたから連れてきてよかった。
「ライル様、すごかったですね」
セフィーナさんも大興奮だ。
俺はみんなと合流して帰ろうとしたら、声をかけられた。
「サーカスはどうでしたか」
ジェネッタ先生だ。
「楽しかったですよ」
「それは良かったです。ライルさんは帰られるんですか?」
「そのつもりですが」
「もしよかったら、息子に挨拶でもどうです?」
「ぜひ」
俺はジェネッタ先生と楽屋に行くことになった。
ゴトフとセフィーナさんと弟子達も付いてきたいと言うので、一緒に行くことに。
孤児院の子供達はシスター達と共に先に帰ってもらった。
メインのテントの裏に、仮設住宅が並んでいる。
「開演前後の時期はここで暮らしているのよ」
「俺達が入っていいんですかね?」
「いいのよ。息子達も喜ぶわ」
ジェネッタ先生に付いて行くと、サーカス団員とモンスターが集まっていた。
「おー母さん!それに君達も」
ジェラルドンさんが俺達を見つけて、駆け寄ってきた。
「公演すごくよかったです」
「そうですか。ありがとうございます!」
ジェラルドンさんは嬉しそうに笑った。
「これからここで打ち上げをするんですが、皆さんも参加します?」
「え?俺達が参加していいんですか?」
「はい。ぜひ感想を団員に聞かせてほしいです。それに妻もお話がしたいと言ってましたので」
「そういうことなら、料理などは俺に用意させてください」
「え!いいんですか?」
「はい。素晴らしい演目を見せていただいたお礼です」
ジェラルドンさんは嬉しそうに微笑む。
「あのライル商会の料理が食えるなんて。おい!みんな!今日はライル商会さんが打ち上げの料理を用意してくれるぞ」
「まじかよ!!」
「あの話題の?」
「うおおおおお!」
ジェラルドさんの言葉を聞いた団員達は盛り上がっていた。
「チャールズ兄、材料ある?」
「うん。調理済みの料理もいっぱいあるよ」
「俺もあるから大丈夫そうだね」
俺は机や椅子を取り出し、設営を始める。
「お!私達も机を運ぶぞ」
団員達も机などを持ってきて並べ始めた。
俺はワインとおつまみを取り出し、ジェラルドンさんに渡す。
「先にこれで始めておいてください」
「ありがとうございます!」
ジェラルドンさんは酒を空け、打ち上げを開始した。




