366.卒業試験決定
反骨騎士団との出会いから数日経った。
最初に捕まえていた3人もラドニークさんに説明をして解放してもらった。
ラドニークさんも元ソブラ領民には思うところがあるみたいだった。
休み明け、卒業試験のトーナメント表が配られた。
男子のトーナメントは参加者32人。
女子のトーナメントは参加者16人。
男子は1回戦は弟子達同士で戦うことはなかったので少し安心した。
女子はルサンナとアメリアが1回戦で戦う。
ルサンナには申し訳ないがアメリアには勝てないだろう。
俺の一回戦の相手はベンクトールだった。
正直、期待外れ過ぎる。
同じグループにはリリヤドがいる。
仕組まれたのかと少し思ったが、別に問題はない。
「ライル」
「ん?」
トーナメント表を見ているゴトフが話しかけてきた。
「卒業試験、なんか意図的に操作されてるかも」
「ああ。あるかもね。俺に1回戦の相手ベンクトールだし」
「それもあるけど、知らない名前が結構ある」
「知らない名前?」
「うん」
ゴトフが言うには、男子にも女子にも聞いたことの名前が数人入っているみたいだ。
「たまたまじゃなくて?」
「うーん。さすがに同級生は覚えてるんだけどな」
俺は全然覚えていないから、ゴトフの勘違いだと思ってしまう。
「まあ知らない人が入ってても勝てばいいだけだし」
「そうだね。勝ち進んだらルークかハンに当たる可能性があるからがんばらないと」
ゴトフは気合が入っていた。
▽ ▽ ▽
授業が終わり、今日の夕食はハンの家でいただくことになった。
ハンの家もイタロの家と同じように大きかった。
さすが他国のトップの息子だ。
「よく来たね、ライル」
「今日はありがとう」
ハンの家には使用人やメイドも多かったが、兵士っぽい人も数名いた。
たぶんハンがうちに来た時に、外で護衛してきた人だろう。
「今日はうちの国の料理を食べてもらいたくて」
「ハンの国はガト王国だっけ?」
「そう。多分食べたことのない料理もあると思うが、無理せずに言ってくれ」
「わかった。ありがとう」
俺達はハンに広間に案内された。
席に着くと料理が運ばれてくる。
驚いたことに、米が出た。
俺が知っている米ではなく、赤い米だ。
炊いた赤い米の横には肉のソテーと野菜が添えられている。
「これは?」
「紅米というガト王国で食べられる主食の穀物の1つだ。肉はトライデントホーンヤクというモンスターの肉を唐辛子などで炒めたものだ」
「美味そう」
俺は紅米を食べる。
玄米っぽく、すこしパサパサしていた。
トライデントホーンヤクの肉は赤身で身がしまっている。
添えられている野菜と肉と一緒に紅米を食べるとちょうどよかった。
「うん!美味しい」
「よかった。もう1つ主食の穀物があるんだけど食べてみるか?」
「うん。ぜひ」
俺がそういうと運ばれてきたのは、黄土色のパンケーキのようなものだ。
「これはソバという穀物で作ったものだ。唐辛子と野菜を混ぜたソースをつけて食べる」
「ソバ!!」
まさかソバに会えるとは。
俺は唐辛子のソースを付けて、口へ運ぶ。
ソバの香りがしっかりしている。
小麦粉じゃないから、すこしパサパサしているような感じもするが普通に美味しい。
「辛いけどうまい!」
「それはよかった」
その他にもシュウマイのようなものや、チーズみたいなものと肉を一緒に煮込んだような料理もあった。
ソバに出会えたことは大収穫と言っていいだろう。
紅米は美味しかったが、さすがにタラン米には勝てなかった。
「ハン。ソバって分けてもらうことはできる?」
「構わないが」
「ありがと!」
「ライルは商会をやっていたな。もしライルが良ければ、夏の長期休みにガト王国に遊びに来るか?」
「え?いいの」
「ああ」
俺はガト王国に行く約束も取り付けることができた。
▽ ▽ ▽
食事も終わり、家へ帰ってきた。
弟子達は庭で身体を動かすようだ。
だいぶ気合が入ってる。
俺はヤルクに戻り、ライルダンジョンで修行だ。
今日はショーグンに手伝ってもらう。
ショーグンは強いが、ヒューズさんやガッツさんほどではない。
だからちょうどいい。
俺は森帝のロッドを掴み、魔力循環を試す。
オステオさんとの模擬戦で一瞬上手くいって、脚力が物凄く上がった。
あの時を思い出して、何度も試してみる。
将軍は木の大剣で攻撃を仕掛けてくる。
俺は避けながら魔力循環を試すが、やはり上手くいかない。
魔力循環に集中すると攻撃を食らってしまうし、避けるのに集中すると魔力循環が上手くいかない。
数分やって、模擬戦をやめた。
この方法だと難しいかもしれない。
ショーグンにお礼を言い、俺はダンジョンの真ん中で座禅を組む。
ひたすら集中して、魔力循環を試した。
▽ ▽ ▽
昨日の座禅のおかげで、何となくだが魔力循環がしやすくなった。
「今日は魔物学の授業だけか」
俺は前回の授業でジェネッタ先生にお願いしていることがあった。
ノコ達を授業に連れてくる許可だ。
ジェネッタ先生は快く了承してくれた。
フリード達は魔物学の授業が大好きだ。
何故なら、ジェネッタ先生の助手をしている娘さんのスキルで、好みの餌を作ってもらえるからだ。
それにブラシや遊ぶものも大量にあるため、モンスター達の息抜きにはちょうどいい。
特別棟に到着すると、既に何人か生徒が来ていた。
その中にはベンクトールの姿もあるが、モンスターが寄りついていない。
前にベンクトールが暴れた時に、モンスターが寄りつかない理由についてジェネッタ先生と話した。
ジェネッタ先生の考え方は単純だった。
人に嫌われるような人は、モンスターにも嫌われる。
『テイム』を取得できても、モンスターに嫌われる人間はテイムができないことが多いらしい。
だが例外はあり、テイム系のエクストラスキルの場合は嫌われててもテイムできるみたいだ。
モンスターに嫌われているベンクトールを見ると、少しかわいそうになってきた。
たぶんモンスターに好かれない悲しさよりも、自分だけ嫌われているという状況にむなしさを感じているんだろう。
性格を治すのは大変だろう。
貴族ならなおさらだ。
まあ俺の知らないところで頑張ってくれ。
俺はノコにノコ虫軍を呼び出してもらい、全力で遊んであげた。
▽ ▽ ▽
授業の最後に、ジェネッタ先生がみんなを集めた。
「次の休みに、うちの次男夫婦がやっているモンスターサーカスが王都に来ます。見に行きたい人はチケットをあげるので言ってくださいね」
モンスターサーカス。
物凄い気になった。
俺は先生に言って、弟子達のチケットをもらった。




