354.シチール家と薬学
リリヤドをボコしてから2日後。
昨日はリリヤドが学園に来なかったが、取り巻きが視界に入ってきたので1発殴っておいた。
今日は午前から武術の授業だ。
第3演習場に行くと、オステオさんと騎士数名が待っていた。
「よし。今日もやるぞ」
「「「「「「はい!」」」」」」」
俺達はオステオさん達との戦闘訓練を始めた。
「ライル。リリヤドの件はもう動いた。国王からシチール家に注意が入った」
「本当ですか?」
「国王も違法奴隷を良く思っていない。それにソブラも違法奴隷を帝国に流していたという情報もあって、今後厳しく罰していく予定だ」
「ってことは今回も?」
「シチール家に関しては申し訳ないが、奴隷を解放することで今回はお咎めなしだ」
「は?」
「すまん。さすがにここ数年で、領主を務める貴族が2家も居なくなると国が回らない」
オステオさんは申し訳なさそうに言った。
「わかりました」
「国王はシチール家からライルに謝罪をするように言った。なので数日以内にシチール家が謝罪に来るはずだぞ」
「え?約束忘れてます?」
「ん?」
「俺は殴りますからね。リリヤドの関係者が視界に入ったら」
オステオさんの顔が引きつった。
「おーい。ライル!」
遠くからヤイダラール先生の声が聞こえた。
振り向くと、先生の後ろにリリヤドとおっさん2人が居た。
「あ!」
俺はオステオさんのリアクションを見て、核心した。
「ワープ!」
俺はリリヤドの後ろにワープして、鬼潰棒で殴りかかった。
ガキン!
俺の攻撃は何かに弾かれた。
これはオステオさんのスキルだ。
俺はひたすら殴り続ける。
「あああ!」
リリヤドは俺を見て怯えている。
「リリヤド、約束だよね?お前の関係者が視界に入ったら殴るって」
「あああ。いやそれは」
「貴族のお前が提示した条件だろうが!今更無しには出来ねーぞ。それにそこの2人もリリヤドの関係者なら覚悟を持ってここに来たんだよな?」
俺は弟子達を見る。
弟子達は武器を構えたり、魔法を発動してリリヤド達を囲んだ。
その様子を見て、おっさん2人は顔を青ざめさせた。
「おい、ライル!」
「俺を注意する前に、オステオさんにスキルを解くように言うべきじゃないですか?」
「話を聞け。シチール男爵達はお前に謝罪しに来たんだ」
「だから何です?視界に入ったらボコすって言いましたよね?貴族だったら許されるんですか?」
「そんなことは言ってないだろ。まずは話を聞け」
「話を聞く前に1回ボコられるべきだと思いますが」
俺と先生のやり取りを見て、シチール家は震えだした。
「違法奴隷なんか使ってるやつらは一回性根から叩き潰した方がいいんですよ」
俺は話しながら攻撃を続ける。
「ちなみにあの約束って、戦闘に参加した全員が当てはまりますからね」
俺はそう言って、弟子達を見る。
弟子達は頷き、一斉に攻撃を始める。
「うわああああああ!」
リリヤドは叫びだした。
「謝罪?違法奴隷の件がお咎めなしでやったーとか思ってるんだろ?自分達が非人道的なことをしていたんだから、されても文句ないだろ?」
俺がそういうと、おっさんの1人が悲しい目をした。
「それはその通りだ」
おっさんは俺を見ながら膝をついた。
「ワシはシチール男爵だ。ワシの管理不足で迷惑をかけた。申し訳ない」
シチール男爵は頭を地面に付けた。
「おじい様!」
「父上!」
リリヤドとおっさんはその様子を見て驚いていた。
「バカモノ!お前達も頭を下げろ!ワシが知らないところで違法奴隷なんて買いよって!」
「父上。相手は平民ですよ?」
「そうですよ」
「お前は本当に何を言ってる!貴族としてあるまじき行いをしたんだぞ!本当にお前達は!」
リリヤドとリリヤドの父はゴミみたいだが、シチール男爵は少しはまともなようだ。
シチール家が揉めている最中も弟子達の攻撃は続く。
オステオさんのスキルは本当に頑丈だ。
「ライルとやら」
「はい」
「どうにか今回の件を許してもらうことはできないだろうか?」
「リリヤドとそこのおっさんがだいぶクソだと思うんですが、それについては?」
「ワシがちゃんと教育し直そう」
「わかりました。じゃあ約束してほしいことが2つあります」
「何でも言ってくれ」
シチール男爵は俺の目を見た。
「まず違法奴隷は奴隷解放後、俺の所に寄越してください。希望者には仕事を斡旋します」
「わかった」
「それからリリヤドとそこのおっさんについてです。今後貴族としてあるまじき行動をした場合、俺はもう止まりません。逃げ隠れようが探し出します」
「ああ。わかった。必ず貴族として行動をさせよう」
「それを守ってくれるのであれば、もうリリヤドには何もしないです」
「感謝する」
シチール男爵は再び頭を下げた。
リリヤドとおっさんは気まずそうにその様子を見ていた。
俺は弟子に指示を出して、攻撃を止めさせる。
「オステオさん!もういいですよ」
「本当に手を出さないか?」
「はい」
俺がそういうとオステオさんがスキルを解除した。
「ワープ!」
俺はリリヤドの正面に行き、リリヤドとおっさんの顔面を鬼潰棒で殴り飛ばした。
本気で殴ったので、2人は吹き飛んだ。
「シチール男爵にだけ頭を下げさせてんじゃねーよ!」
シチール男爵は申し訳なさそうに口を開いた。
「本当にすまない」
「次はないですからね」
「わかった」
気絶したリリヤドとおっさんを黄盾騎士団の人が運び、シチール男爵は帰っていった。
「おい」
俺の後ろには怒ったオステオさんが居た。
「え?あれ?」
「手を出さないか聞いたよな?」
「あー。シチール男爵だけ謝罪するのおかしいと思いませんか?」
「それはそうだが」
「それに約束しましたもん。貴族としてあるまじき行為をしたらボコすって。親にだけ謝罪させるとか貴族あるまじきでしょ」
「本当にお前は」
オステオさんは呆れた表情で俺を見た。
▽ ▽ ▽
オステオさん達との訓練が終わり、学園を少しぶらついていた。
魔法学の授業を受けないことになったせいでだいぶ暇になってしまったので、何かやれることはないか探している。
武術の授業がある日はオステオさん達が長い時間付き合ってくれるのだけど、魔物学の授業しかない日が暇だ。
「うーん。経営学の授業を受けるか?」
「ライルには必要ないでしょ。話題の商会の商会長なんだから」
「帝王学は興味ないし、薬学?でもあの薬学の先生とは揉めそうなんだよな」
ゴトフとそんな話をしていると、ウラクグ先生が歩いていた。
「いいこと考えた。ウラクグ先生!」
俺はウラクグ先生を引き止めた。
「ん?あーこの前のライルさんでしたよね」
「はい。ウラクグ先生は木の日の午後って空いてます?」
「木の日は午後は空いていますが、どうしてですか?」
「俺達に薬学を教えてくれませんか?」
「え?私がですか?」
「はい」
ウラクグ先生は驚いていた。
「私は助手なのでちゃんと教えられるかどうか」
「全然問題ないです」
「私が知っている知識を教えるくらいならいいですが」
「本当ですか?ならお願いしたいです」
「わ、わかりました。ただあんまり目立ちたくないのですが」
ウラクグ先生はあの薬学の先生の目を気にしているのだろう。
「うーん。じゃあわかりました。うちに来てください」
「え?」
「ダメですか?」
「うーん。わかりました。その代わり、数回だけにしてください」
「わかりました」
俺はウラクグ先生に薬学を教わる約束をして、学園を出た。




