350.ヤイダラール先生
第1演習場に来た。
生徒は魔法学よりも多く、40人くらいいる。
「ライル。クラリから聞いたけど、魔法学の授業でやりすぎたの?」
「ああ。ちょっとね」
ゴトフは呆れた表情をしている。
「模擬戦ってなると、みんな気合入っちゃうんだよね」
「はぁー。武術の授業ではやりすぎないでよ」
「わかってるよ。模擬戦の相手次第では武器無しでやるつもり」
ゴトフと喋っているとヤイダラール先生がやってきた。
「武術の授業を始める。まずは全員の実力を見ようと思う」
そういうと鎧を着た騎士が5人現れた。
「この者達は、今年黄盾騎士団に入団した新人騎士だ。まだ若いが実力はある。胸を借りるつもりで戦ってくれ」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
正直微妙なラインの相手だ。
「どうしよう」
俺が悩んでいるとヤイダラール先生が口を開いた。
「名前を呼ぶものは前に!ライル」
「は、はい!」
ヤイダラール先生は次々名前を呼ぶ。
俺が前に出るとヤイダラール先生はニヤッと笑った。
「ライルは私とだ」
「え?は?先生とですか?」
「兄貴からソブラの件を聞いている。本当に兄貴が言っていることが正しいかこの目で見てみたくてな」
「ソブラと戦ったのは、うちのテイムモンスターなんですけどね」
「まあ模擬戦だ。別に弱くても構わないからやるぞ」
「は、はい。ちょっとその前に」
俺は弟子達の所へ行く。
「みんな武器なしで頑張れる?」
「「「「「「「はい」」」」」」」
俺はヤイダラール先生の元に戻り、[武鬼]に着替えた。
「直接攻撃する魔法じゃなければ使っていいからな」
「わかりました」
「じゃあ準備ができたところから始めなさい」
ヤイダラール先生がそういうと、新人騎士と生徒達が模擬戦を始めた。
「じゃあ俺達も始めようか」
「よろしくお願いします」
ヤイダラール先生は盾と剣を構えた。
俺は鬼潰棒を握る。
「ワープ!ワープ!」
目の前に1度ワープし、そのまま背後にワープする。
そのまま後頭部に向かって鬼潰棒を振る。
ヤイダラール先生はすぐに振り返り、盾で攻撃を受ける。
「おい!いきなりだな」
「奇襲じゃないと勝てなそうなんで」
武鬼斧に切り替え、正面から斬りかかる。
しかしヤイダラール先生の盾と剣にうまく防がれてしまう。
「正面からやりあうか?」
「出来ればそれはしたくないんですけどね」
ヤイダラール先生は剣で攻撃をしてくる。
俺はそれを弾く。
この模擬戦面白い。
言い方が悪くなるが、ヤイダラール先生はそんなに強くない。
どうにか頑張れば勝てそうという状況が面白い。
いつもヒューズさんやガッツさんに圧倒的にやられているからか、これくらいの実力者とやれるのが面白すぎる。
面白いが気になることがあった。
ヤイダラール先生の武器と鎧はガルスタンの武器でも全く傷がつかない。
「先生。その武器と防具は特別なものですか?」
「そんなことないぞ」
「硬すぎません?」
「ははは。それは俺のエクストラスキルだ」
「それありですか?」
「騎士団からの支給品を壊されたくないからな。お前の武器は厄介そうだ」
ヤイダラール先生は盾で殴ってきて、俺は吹き飛ばされた。
「痛ー」
攻撃魔法が禁止なだけだが、回復もしないでおいた。
「ワープ!」
距離を取って鬼鎖を振り回して攻撃を続けるが、まったくダメージが入らない。
鬼合金よりも硬い防具はさすがにきつい。
鬼潰棒に持ち替えて、詰める。
とりあえず手数を多くして、防御が薄い箇所を狙っていくしかない。
俺は攻撃を防ぎながら、攻撃を続ける。
「ははは。兄貴の言っていたことは本当かもな」
「違いますよ」
「まあそういうことにしておいてやるよ。魔法学も選択してたよな」
「はい」
「模擬戦はどうだった?魔法も使えるんだろ?」
「楽しかったですよ。反省点も多かったので。ワープ!」
俺は首筋に鬼潰棒を振り降ろすが、防がれる。
「喋ってる途中にそういう攻撃をするのか」
「こういうことをしないと勝てないので。ワープ!」
再び後ろに回り、鬼潰棒を打ち込む。
ガキッ!
盾に攻撃を防がれた瞬間
今までしなかった音がした。
「おいおい。まじか」
盾が少し凹んでいた。
ヤイダラール先生のスキル攻撃を完全に防ぐ系じゃなく、強度を増す系みたいだ。
「あれ?長引かせるのが勝ち筋みたいですね」
「勝つつもりみたいだな。じゃあ本気を出さないとな」
ヤイダラール先生は攻撃のスピードを上げてきた。
「くっ!まじかよ」
さっきよりも手数が多くなり、防戦一方になった。
「ワ、ワープ!」
俺は距離を取るが、瞬時に詰め寄ってくる。
「ワープ!ワープ!」
完全に逃げの姿勢にされてしまった。
「さすがにそろそろ終わらせないとな」
「ヤイダラール様!」
ヤイダラール先生がそういうと新人騎士の1人が声をあげた。
「ん?どうした?」
俺達は戦闘を止めた。
「模擬戦ができる者が私だけになってしまったのですが」
「どういうことだ?」
報告をしている新人騎士の後ろで、4人の新人騎士が倒れていた。
「生徒にやられたのか?」
「は、はい。そのようです」
ヤイダラール先生は頭を抱えた。
「ライル。お前との模擬戦はここで終わりだ」
「は、はい」
「またやろう」
「わかりました」
俺は武器をしまい、[?」
「「「「はい」」」」
手を挙げたのは、カシムとルークとシャルとチャールズだった。
▽ ▽ ▽
武術の授業が終わり、俺達はヤイダラール先生に呼び出されていた。
「ライル。こいつらはお前の弟子なのか?」
「そうですね。一応。たぶん俺より強いかもですけど」
「どうなってるんだ今年は」
ヤイダラール先生は頭を抱えた。
そんな先生をみたゴトフが口を開く。
「ヤイダラール先生。カシムくん達は冒険者なので強いのはしょうがないです」
「はあ。ゴトフもおかしいからな?」
「え?」
「新人騎士を倒すほどではないが、互角の強さをしてるぞ」
「僕がですか?」
「わかってないのか」
ヤイダラール先生は再び頭を抱えた。
「はあ。あいつらだって、学園を卒業して騎士学校も卒業した優秀なやつらなのに」
「なんかすみません」
ヤイダラール先生は少し引いているように感じた。
「ヤイダラール先生いらっしゃいますか?」
部屋の外から声が聞こえる。
「いますよ。入ってください」
「失礼します。え!」
入ってきたのは魔法学の男の先生だった。
俺達を見て驚いている。
「どうしましたか?」
「先生の生徒の相談に来たのですが」
「相談?」
魔法学の先生は俺達をジロジロ見ている。
「数名の生徒があまりにも強く、魔法学は次の卒業試験を受けさせてもいいと判断したんです」
「誰です?そんな優秀な者は」
魔法学の先生は再びジロジロと俺達を見てくる。
「ライルですか?」
「はい。ライルくんを含めた10人です」
「ライル。お前の所の者で、魔法学を選択しているのは?」
「俺含めて10人です」
「はあー。どうなってるんだ」
ヤイダラール先生は再び頭を抱えた。




