349.イモと栗と魔法学
俺達は無事に進級試験を合格し、明日から最終学年として学園に通うことになった。
俺は特にやることもないので、ヤルクに帰ってきている。
「ライル!」
街をブラブラしていたら、父さんに声をかけられた。
「どうしたの?」
「ドリーが品種改良したイモは量が必要か?」
父さんは手に3つのイモを持っていた。
「そんなに作ったの?」
「ドリーにアヤノちゃんが色々言ってたみたいだぞ」
「なるほど」
アヤノの指示なら問題ないだろ。
「一旦俺が預かるよ」
俺は父さんからイモを預かった。
▽ ▽ ▽
ケーキ屋に入ると、アヤノが何か混ぜていた。
「何作ってんの?」
「あ!ライルさん。いまマロンペーストを作ってます。これでモンブランや栗味のスイーツが作れます」
「おー!楽しみだ」
まさか異世界でモンブランが食べれるとは。
「これを父さんから預かったんだけど」
俺はイモを取り出した。
「あー!ドリーちゃんにお願いしてたやつですね!」
「これ3種類あるんだけど」
「はい!赤紫のは一般的なサツマイモ。薩摩じゃないんでヤルクイモですかね?濃い紫は中も紫色で甘味が強いもの。白いのは例のやつです」
「例のやつ?」
「はい。前に話してた芋焼酎の材料です」
「あー!」
『小屋作成』に蒸留酒酒造が出てきた時に、アースとアヤノに相談をしていた。
アース曰く、焼酎やウィスキーやブランデーやウォッカやジンが作れるかもしれないらしい。
「学園が落ち着いたら作ってみるか」
「そうですね。アースさんもそのタイミングでヤルクにいてもらいましょう」
「そうだね。イモの味見もそのときにしようか」
「はい。色々試しておきます」
俺はアヤノにヤルクイモを渡して、ケーキ屋を出た。
▽ ▽ ▽
翌朝、俺達は学園に来ていた。
「おはようライル」
「おはようございます」
「おはよう。2人共」
ゴトフとクラリが待っていてくれた。
「今日から授業です。これが皆さん時間割です」
クラリから紙を渡された。
月は魔法学・武術。
火は休み・魔物学。
水は武術・魔法学。
木は魔物学・魔法学。
石は武術・休み。
武術・魔法学・経営学を選択している弟子は俺よりも休みが少ない。
「今日は魔法学と武術か」
「うん。とりあえず教室で朝礼があるから移動しようか」
「わかった」
俺達はゴトフに案内されて、教室へ向かった。
教室には30人程の生徒がいた。
「こんないるんだ」
「そうだね。全部で50人くらい居たはずだよ」
想像以上に同級生は多いようだ。
次々生徒が教室に集まってくる。
その中にはザダ子爵の息子の姿もあった。
俺を見ると顔を青くして、すぐに目線を外した。
「ははは。怖がられてるね」
その様子を見たゴトフが笑っている。
「ラドニークさんにいじめるなって言われたから、圧だけにするよ」
「もう十分そうだけどね」
そんなことを話していると教室に男性が入ってきた。
「えー。この学年の担当になった、リゴベルト・ヤイダラールだ」
多分30代くらいの爽やかイケメン。
身体は筋肉質で、たぶん戦闘経験が豊富そう。
「あの先生って強い?」
「ヤイダラール先生は男子の武術の授業を担当してるから強いはずだよ。それにライルが2年前に会ったって言ってたオステオ様の弟だよ」
「え!黄盾騎士団の?」
「うん。ヤイダラール先生も黄盾騎士団所属だったはず」
ゴトフは本当に良く知っている。
貴族の情報はゴトフに聞くのが一番いい。
ヤイダラール先生は話しながら、ちらちら俺達のことを見ている。
その視線に悪い印象は持たなかったが、めんどくさいことが起きる気がした。
▽ ▽ ▽
俺達は魔法学の授業でだいぶやらかし、現在昼食を食べている。
「ライルさん達があんなに強かったなんて」
クラリは俺達をキラキラした目で見ていた。
魔法学の先生は若い男性と女性の2人だった。
まずはどれくらい魔法が扱えるか見るために、先生が用意した冒険者と模擬戦になった。
最初に冒険者と魔法で戦わせて、魔法の難しさを感じてもらおうとしたのだろう。
魔法の授業はベラを除いた獣人以外が選択していた。
ベラは『魔術』があるので、魔法学を選択した。
最初に模擬戦をすることになったのはカシムとニーナとルークとシャルとチャールズ。
1対1の模擬戦を5試合同時に行う。
初めての学園での授業ということで、カシム達は気合が入りまくっていた。
開始の合図とともに全員が魔法を放つ。
威力の差があるせいで、冒険者達の魔法がかき消される。
驚いた冒険者達に追加で発動した魔法が直撃、5人が戦闘不能になり模擬戦が終了した。
先生も生徒もみんな引いていた。
授業は冒険者達の回復待ちで一時中断になる。
再開し、模擬戦をすることになったのは俺とアメリアとベラとフィンとフォン。
先ほどと同じ結果になり、再び授業は一時中断になった。
その後残りの生徒との模擬戦を終わらせ、授業は終了した。
「クララもよかったんじゃない?」
「いやまだまだ全然です」
俺達以外の生徒の魔法の実力は微妙だった。
唯一見れる試合をしたのがクラリだった。
その他は本当に魔法を放つだけ。
模擬戦とは呼べないレベルだった。
正直、卒業までこのレベルの授業を受けるのは嫌だった。
魔法学は座学もあるらしいから、それに期待しよう。
「次は武術の授業か」
「そうですね。武術の授業も模擬戦をするって、朝礼でヤイダラール先生が言ってましたね」
「え?」
「武器と防具などの準備をして集合って言ってましたよ」
「全然聞いてなかった。みんなちゃんと準備してる?」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
弟子達は俺と違ってちゃんと朝礼を聞いていたみたいだ。




