348.入学式
誕生日から数日後。
ついに入学式だ。
誕生日の翌日、裁縫部から制服が配られた。
防御特化の[鬼学]という服らしい。
学園内で襲われることはないだろうが、これは助かる。
そして昨日はクラリとクララさんが家にやってきた。
クララさんは結局王都までの護衛をしたそうだ。
やっぱり妹には弱いみたいだ。
冥界兄弟以降、変な冒険者は絡んで来なかった。
やっぱり見せしめは大事みたいだ。
「よし。そろそろ出発しようか」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
俺達は入学式に行くために、馬車に乗り込んだ。
馬車は3台。
フリードとグーちゃんとライドンが馬車を引きながら動き出した。
▽ ▽ ▽
学園に到着すると、制服を着たゴトフとクラリが待っていた。
「ようこそ。王立学園へ」
「みなさん、制服お似合いです」
「ありがとう」
「「「「「「ありがとうございます!」」」」」
弟子達は嬉しそうに答えた。
「馬車置き場の場所はゴーレさんに伝えればいい?」
「うん。おねがい」
「わかったよ」
ゴトフがそういうと、サジュムがゴーレの元へ走って行く。
「それじゃあ、みなさんは講堂に案内するよ」
俺達は2人に連れられて歩き出した。
講堂の中には50人ほど座っていて、俺よりも年下の子が多かった。
「やっぱり年下が多いね」
「平民の方は幼いうちに入学して、最終学年にならずに辞めていくみたいです」
「基礎知識だけ学びに来るのか」
「はい。王都に住む平民の方は入学に掛かるお金を支援してもらえるので、気軽に入れるんです」
「なるほどね」
王都内の平民の学力向上を考えているのだろう。
「僕達は後ろで見てるから、ライル達はここで座ってて」
「わかった。ありがとう」
俺達は座って入学式が始まるのを待った。
▽ ▽ ▽
入学式は無事に終わった。
学園長の話の後、まさか国王様が登壇するとは思っていなかった。
みんな驚いていなかったから、たぶん毎年登壇しているのだろう。
講堂から出て、ゴトフとクラリと合流した。
「ライル。進級試験の受付に行こう」
「受付?」
「うん。明日進級試験を受けられるんだけど、事前に受付を済ませる必要があるんだ」
「へー」
「最終学年の授業は5日後からだから、飛び級をしたい人はこの時期に試験を受けるんだ」
「なるほど。わかった。じゃあみんな行くよ」
俺達はゴトフに連れられて、受付を済ませた。
「ライル。この後どうする?」
「うーん」
「学園内の案内はどうです?」
「いいね。お願いできる?」
俺はクラリの案に賛成し、学園を見て回ることにした。
「校舎は大きく分けて2つあります。1-5年の教室がある第1校舎。6年の教室がある第2校舎。帝王学と経営学と薬学は第2校舎で授業を受けます」
「他の授業は?」
「第1演習場で武術の授業。第2演習場では魔法学の授業が行われます。第3演習場もありますが、今は使われてないみたいです」
「ほー。魔物学は?」
「魔物学だけは特別棟と呼ばれるところでの授業になります」
「なるほどね」
俺達はクラリの説明を聞きながら、園内を歩く。
「最終学年の授業の日程はどんな感じなの?」
「授業は午前と午後の2回行われます。ライルさんが選択する授業だと、武術が週3回、魔法学が週3回・魔物学が週2回になると思います」
「そんな感じなんだ。休み多くない?」
「帝王学や経営学などの座学系の授業が週4回なので、それを選択しない限りは厳しい日程にはならないです」
「なるほど」
武術と魔法学と経営学を選択する予定の弟子もいる。
その子達は週10回の授業をすることになるのか。
学び舎で慣れているし、頑張ってもらうしかないな。
クラリとゴトフの説明を聞きながら歩いていると、大量の本を持った人が前から歩いてきた。
「あ!ライル。あの方がウラクグ先生だよ」
「ウラクグ?」
俺は記憶にない名前を言われて困惑した。
「フィーゴさんのお兄さんだよ」
「あー!」
そういえばフィーゴさんのお兄さんが学園で働いているって言っていた。
貴族ではなくなったとかだったような。
俺がそんなことを考えていると、ゴトフがウラクグさんに話しかけた。
「ウラクグ先生」
「ん?あーこれはゴトフさんにクラリさん。どうされましたか?」
「先生に会わせたい人がいて」
「私にですか?」
「はい」
ゴトフはそう言って俺を見た。
「えーライルです」
「ライルさん?どこかでお会いしましたか?」
ウラクグさんは首を傾げた。
「えーっと。フィーゴさんにお世話になってまして」
「弟にですか!!」
「は、はい。うちの商会はだいぶお世話になってます」
「商会?」
「あのフィーゴさんが商人ギルドで働いているのは知ってますか?」
「え?そうなんですか?」
ウラクグさんはフィーゴさんのことを何も知らないみたいだ。
「はい。学園に入学する話をしたら、お兄さんが働いていると聞いたので挨拶をしようと・・・」
「そうなんですね。わざわざありがとうございます。弟は元気にしてますか?」
俺が答えようとした瞬間、怒鳴り声が聞こえた。
「おい!ウラクグ!何をサボっているんだ!」
声の主は、いかにも貴族という身なりをしている深緑色で長髪の男性だった。
男はウラクグさんと俺達を睨んでいる。
「すみません。いますぐに行きます」
「早くしろ。本当にお前は使えない。いつまでも自分が貴族だと思ってるなよ!」
「決してそんなことは」
ウラクグさんは申し訳なさそうに言った。
「すみません。仕事があるので、私はこれで」
そう言ってウラクグさんは去っていった。
「何あれ?」
俺が聞くとゴトフが口を開いた。
「薬学のペパイド先生」
「え?あれで先生なの?」
「うん。あの人について忠告するのを完全に忘れてたよ」
ゴトフは申し訳なさそうに言った。
べパイド伯爵の次男、ドーグラン・ペパイド。
ペパイド領はポーションの材料の生産とポーション作りをしていた。
ドーグラン・ペパイドは王国の薬師や錬金術師などを集め、ポーション事業の規模を拡大。
いままで以上にポーションの流通が増え、王都の騎士団や兵士が使うポーションのほとんどがペパイド産になった。
その功績もあり、王立学園の薬学の先生に就任したらしい。
平民に対しての態度や性格に難があることは周知されてはいるが、ポーションの需要が高いため誰も声をあげないみたいだ。
「だいぶクソじゃない?」
「うん。同級生の貴族より、ライルと相性が悪い人を伝えるのを忘れてたよ」
ゴトフは申し訳なさそうに言った。
「薬学の授業は取らないから、関わらないようにするよ」
「そうだね。そうしてもらえると」
「はい。お願いします」
ゴトフもクラリもできるだけ巻き込まれたくないようだ。
「そろそろ帰る?」
「そうだね。気分も悪いし」
不快なものを見せられた俺達は、学園案内を中断して家に帰ることにした。




