347.様子がおかしい
久々にヤルクに行こうと思ったが、なぜか弟子達に止められた。
「ん?なんで?」
「えーっと」
弟子達は返答に困っていた。
「行って大丈夫だよね?何か王都で用事あったけ?」
俺はゴーレに問いかけた。
「えーゴトフ様が来られると言っていました」
「そうだったっけ?忘れてたわ」
俺はゴトフが家に来るのを待った。
1時間ほど待つと、ゴトフが弟子達と共に来た。
「あれ?」
「あーごめんライル」
「今日は何の予定だったっけ?俺完全に忘れてて」
「えーっと。訓練!訓練をしよう」
ゴトフの様子がおかしい。
「あーじゃあライルダンジョンに行く?」
「いやここでいいよ。ここがいい」
「わかった。じゃあやろう」
俺とゴトフは王都に庭で組み手を始めた。
冥界兄弟との戦闘でエアアームを使った投げ技をしたからか、何となく投げ方が分かった気がした。
俺はゴトフと組みあって、投げ技中心で戦った。
『体術』を取得しているゴトフと組みあうのは大変だったがだいぶ練習になった。
▽ ▽ ▽
結構な時間組み手をした。
「あー腹減ったな」
「そうだね」
「鬼火亭に行く?」
「「「「「「ダメダメダメ!」」」」」」
組み手を見学してた鋭牙がなぜか口を挟んだ。
「え?なんで?」
俺が聞くとジョシュが口を開く。
「ライル様。鬼火亭はお客さんがいっぱいみたいです」
「そうなの?」
「はい。なので食べれないです」
「えー。じゃあレストランライルにする?」
「「あーダメです!」」
次はベラとララが口を挟んできた。
「なんで?」
「冒険者がたくさんいるのでダメです」
「え?だって従業員とお客さんは食べる場所が違うから平気じゃない?」
「えーっと。ダメなんです」
「ん?」
鋭牙もゴトフも様子がおかしい。
「じゃあそんな言うなら、こっちで何か作るか」
「はい、そうしましょう」
ベラとララは俺の手を引いて、厨房に連れて行った。
▽ ▽ ▽
ゴトフと鋭牙と昼食を食べていると、セフィーナさんとカレンさんがやってきた。
「ライル様。稽古をお願いしたくて」
「あ!いいですよ。ゴトフも居るしちょうどいいかも」
「はい。夕方過ぎまでやりましょう」
「え?まあいいけど」
なぜか時間指定された。
今までそんなことはなかったが、何か予定があるんだろう。
俺達は再び庭に出た。
ゴトフにはセフィーナさんとカレンさんの2人と戦ってもらう。
俺は暇をしてそうな鋭牙の6人と投げ技のみで戦う。
「ごめんね。付き合ってもらうね」
「「「「「「はい」」」」」」
俺はひたすら投げ技の練習をした。
日が陰り始めた。
「そろそろいいですかね?」
「「「「「「はい」」」」」」
セフィーナさんの問いかけに、なぜか鋭牙が答える。
「ん?どういうこと?」
「まあまあ。気にしなくていいんじゃない?」
「みんな様子がおかしいくない?」
「ははは。まあまあ。とりあえずヤルクに行こうか?」
「は?」
ゴトフが急にヤルクに行くことを提案してきた。
「え?なんで?」
「行けばわかるよ」
「そうです!行きましょう!」
ジョシュは俺の背中を押す。
「なになになに?」
俺はよくわからない状況に混乱した。
▽ ▽ ▽
ヤルクに到着した。
久々のヤルクだ。
冒険者は前より多くなったが、店に入れないほどか?
俺は鋭牙に囲まれながら移動している。
「え?どこに行くの?」
「レストランライルです」
ジョシュが答えた。
俺は訳が分かんないが、とりあえず言う通りにした。
レストランライルに到着。
扉を開けて中に入ると、従業員がいっぱいいた。
全員がこっちを見ている。
「え?えーっと」
「「「「「「「「「「ライル様!誕生日おめでとうございます!!」」」」」」」」」
みんなが一斉に言ったが、俺は頭が追い付かなかった。
「あれ?今日って俺の誕生日?」
「そうだぞ」
俺が戸惑っていると、父さんがやってきた。
「8年前の今日お前が生まれた。去年と一昨年は祝えなかっからな。今年は盛大にやることになった」
「ありがとう、父さん」
2年眠っていたせいで感覚がズレていたが、確かに誕生日みたいだ。
それに3年前の今日、俺は元の世界の記憶を思い出した。
俺は席に案内された。
今日は珍しく父さんが立ち上がる。
「えー今日は息子のライルのために集まってくれてありがとう。そして協力してくれたみんなありがとう」
「「「「いえーい!!」」」」
「こういう時くらいしか親らしいことはしてやれないから助かった。みんな今日はライルをたくさん祝ってやってくれ!」
「「「「「「「「おめでとー!!」」」」」」」
父さんの挨拶で俺の誕生日会がスタートした。
▽ ▽ ▽
みんなが代わる代わる俺の席にやってくる。
元奴隷の従業員はたくさんの感謝の言葉を言ってくれた。
俺は少し照れ臭かった。
運び込まれる料理。
サラダにはゴマドレッシングが掛かっていた。
多分アヤノがアドバイスしたのだろう。
そんなことを思っていると、アヤノとブライズさんがやってきた。
「ライルさん。お誕生日おめでとうございます」
「ライルくん。おめでとう」
「ありがとうございます。ところでこれは?」
俺はゴマドレッシングを指差した。
「それはアヤノちゃんと作ったよ。ゴマの使い方も色々案をもらったから、今後試してみるよ」
「それにこれも作りました」
アヤノはそう言ってボトルを3本取り出した。
「ゴマ油とナタネ油とラー油です。ライルさんが作りたがってると思って」
「助かるよ、本当に」
アヤノは嬉しそうに笑った。
「あとあれ、トリュフ?あれも色々試せそう」
「マシューに頼んだら、量産できましたよ。まあ量産できちゃうと価値が下がる気がしますけどね」
「そうね。希少性がね」
トリュフとかマツタケは確か希少性が売りだった気がする。
「今後も色々よろしくおねがいします!」
「はい!頑張ります」
「うん。よろしくね。今日はおめでとう」
そう言って2人は自分の席に戻った。
次はガルスタン夫妻とイルデンがやってきた。
「「「ライル様。おめでとうございます」」」
「ありがとう。そういえば、国王様が商品を喜んでいたよ。イルデンに頼んだアクセサリーは特に反応良かったよ」
「本当ですか!?よかったです」
イルデンは嬉しそうだ。
「アヤノちゃんからこれを作っておけば、ライル様が喜ぶと言われたのですが」
そう言って取り出したのは、今まであったおろし器よりも細かい目のものだ。
「ん?あー!」
ワサビ用だろう。
「うん!ありがとう。今後絶対使うことになるから、何個か作っておいて」
「わかりました」
ガルスタン達は席に戻った。
今日は珍しく、俺の席には両親が居た。
「ライル。誕生日に報告するのはあれだが、ドリーがイモを品種改良していた。アヤノちゃんが色々言って3種類になってて、一応全部育ててるぞ」
「わかったよ。今度見てみるね」
「ああ。頼んだ」
俺はみんなとの会話を楽しみ、最高の誕生日パーティーを楽しんだ。




