344.ザダ子爵
「ワープ!」
俺は男の持っている剣を武鬼斧で弾き、手首を切り落とす。
魔装もまともに使えないのか。
「兄貴をよくも!」
槍持ちの男が突っ込んでくる。
「ワープ」
男の足元に行き、脚を引っかける。
倒れた男の背中に武鬼斧を投げる。
「ぎゃああああ!」
刺さった痛みで男は叫んでいた。
「あー回復お願い」
「「「はい」」」
ニーナとアメリアとカイリが全力で2人を回復する。
「ちゃんと手首がくっついてよかったね」
「はぁはぁ。うるせーガキ」
剣持ちの男は懲りずに突っ込んでくる。
「エアアーム!」
エアアームを出して、胸元を掴んで地面に叩きつけた。
「ぎゃっ!」
「気絶してる人もすぐ回復させて」
「「「はい」」」
俺は3人と会話をしながら、鬼潰棒で槍の攻撃をいなしていく。
「この!この!なんでこんなガキが」
「てか本当に貴族に頼まれたの?」
「ああ?関係ないだろ」
「はー。ワープ」
槍持ちの男後ろに回り込み、首筋に鬼潰棒を叩き込む。
この2人はDランク冒険者の【冥界兄弟】。
昨日の奴らと同じようにテイムモンスターを渡せと言ってきた。
やっぱり見せしめの時間が短すぎた。
なので今回は大通り側の石塀を消して、通行人に見えるようにしておいた。
スキルも取得したいから、俺のために犠牲になってくれ。
「回復したんだったらビビらずに来いよ」
「うるせー」
俺は『秘密基地』の『地面硬化』でものすごく地面を硬くした。
「エアアーム!」
2人を掴んでは地面に投げ飛ばすのを繰り返した。
回復が間に合わないのはまずいので、間隔はしっかり空けている。
「も、もう手を引くから。な!」
「ああ。も、もう手を出さないから」
冥界兄弟の心は折れてしまったようだが関係ない。
鬼鎖を振り回し、2人の顔面を叩き続ける。
歯や鼻は確実に折れてるだろう。
「あーやばそう。回復おねがい。足りなかったらポーションも使って」
「「「はい」」」
弟子達も慣れたもんだ。
こんなグロい現場、普通なら泣き出す。
冥界兄弟は回復したのに立ち上がらない。
「ゴーレ」
「はい」
ゴーレは2人を掴んで、無理やり立ち上がらせる。
「や、やめてくれ!本当に悪かった!!」
「やめろ!!」
冥界兄弟の叫びが響き渡る。
「なんでうちにちょっかいかけてきたの?」
鬼鎖を振り槍男の腕に当てる。
「ぐあっ!い、依頼で」
「誰からの?」
もう一度鬼鎖を振り、剣男の膝を砕く。
「があ!ざ、ザダ子爵のガキだ」
ザダって聞いたことある気がした。
「そんな依頼が冒険者ギルドから出てるの?」
俺は鬼潰棒で肘や膝などを殴り続ける。
「ぎゃあああ!ち、ちがう。直接の依頼だ」
「ふーん。俺達のことを殺してでもモンスターを奪って来いって言われたの?残念だったね、そんな依頼を受けたせいで今日は一日中この痛みが続くよ」
俺がそういうと2人の血だらけの顔が青ざめた。
「あああ!そ、そんな」
「ぐわあ!やめてくれ」
「俺達が止めてと言ったらやめたの?バカな依頼を受けた責任だよ。誰かを不幸にして利益を得ようとしたんだろ?」
俺は鬼潰棒で本気で連打を打ち込む。
2人は痛みで気絶している。
多分骨が折れているだろう。
「回復を」
「「「はい」」」
「ゴーレ、目が覚めたらすぐ立ち上がらせて」
「わかりました」
冥界兄弟は回復し、ゴーレに無理やり立たされる。
俺は2人の武器を投げた。
「ほら。俺を倒さないと地獄は続くよ」
2人は顔を見合わせて武器を拾った。
「「ああああああああ!!」」
2人は向かってきた。
俺は武鬼斧に切り替えて、2人の手首を切り落とした。
「魔装は使えるようになりな」
もう一度回復を指示しようとすると声がかかった。
「ライル。もういいだろ」
「え?」
大通りにはラドニークさんとセフィーナさん、それに知らない太ったおじさんと子供がいた。
「ラドニークさん!やっぱり見せしめが足りなかったですよ。あっ!死んじゃうから手首くっつけてあげて」
「「「はい」」」
3人はすぐに回復をする。
その様子を見ていたラドニークさんとセフィーナさんは頭を抱え、知らない2人は顔を青ざめさせてた。
何となくだが、この2人の正体の予想ができた。
ゴーレは回復した2人を立ち上がらせる。
「ラドニークさん。なんかザダ子爵?の子供の指示らしいんですけど。エアアーム!」
俺は冥界兄弟を再び地面に叩きつける。
「僕、物凄く怒ってるんですよ。ザダ子爵に会ったら同じことしちゃいそうなんで、ラドニークさんの方で対応してもらえます?」
俺が喋るたびに知らない2人は青ざめている。
「わかった。ライル商会から求めるものはなんだ?謝罪に来られたら、そこにいるやつらにしてることをしてしまいそうなんだろ?」
「「ぎゃああああ!」」
俺は冥界兄弟への攻撃を止めずにしゃべり続ける。
「そうですね。謝罪の気持ちをお金でもらうのと、僕がボコした冒険者達は社会復帰するまで時間が掛かると思うので、社会復帰するまでの支援をすること」
「それだけでいいのか?」
「うーん。逆恨みとか嫌なので、会ったら問答無用で殺すとお伝えください。あと支援をしてないことが判明でもしたら全勢力で領に行きますとお伝えください。うちのテイムモンスターの数をお伝えしてもいいんで」
「「ぎゃあああああ!!」」
「わかった。そろそろそれをやめろ」
「はい」
俺は攻撃をやめた。
セフィーナさんは飽きれていて、ラドニークさんはドン引きしている。
そしてたぶんザダ子爵とその息子は放心状態になっていた。
「ラドニークさん。そちらの方は?」
「おい!やめておけ」
ラドニークさんは俺が気付いていると分かっているようだ。
冥界兄弟をラドニークさんに引き渡し、俺達は家に戻った。
▽ ▽ ▽
「はぁー」
俺は頭を抱えていた。
今回の件でザダ子爵が大人しくなるだろう。
色々と良くない噂を聞いていたから、まあよかっただろう。
だがライルは危険だ。
転生者だから頭や心は大人のはずだ。
なぜあそこまでできるんだ?
そんなことを考えていると、セフィーナが部屋に入ってきた。
「お父様。何か聞きたいんじゃないですか?」
セフィーナは優秀だ。
私がライルを不安視していると気付いたようだ。
「ライルはあんな狂暴な人間なのか?」
「いえ。そんなことないですよ」
「だが昨日今日の冒険者に対する態度は、あまりにも非人道的じゃなかったか?」
「まあそうですね」
セフィーナは思い出しているのか、呆れた表情をしている。
「ライル様は自分の立場を知ってるんです。平民の子供。大人や貴族に大切なものを簡単に奪われてしまうと」
セフィーナは続けた。
「ライル様は守る物が多いんですよ。そして守るために必要ならば心を鬼にする」
「ライル商会やお前達か」
「はい」
たぶんライルはセフィーナやアイザックの為なら同じことをするだろう。
「それに今回のは1番ダメな事案でした」
「それは?」
「まずは冒険者達です。人の不幸で自分が利益を得る。そして反撃をされる想定をしていない頭の悪さ。ライル様が一番怒る事案です」
「なるほど」
「それに今日のザダ子爵は悪手です。あの場で殴られてでも謝罪をすべきでした。殺しはしないと思いますが、ライル様は会ったら半殺しにはすると思います。しかも会うたびにです。謝罪をして終わらせるべきでした」
私はそれ聞いて頭を抱えた。
「それにザダ子爵は知らないんです。ライル様達が学園に入学することを。ベンクトール・ザダは最悪な学園生活を送ることになります。休学して卒業する時期をずらすことをお勧めします」
セフィーナは淡々としゃべる。
「ライルにそれをやめさせることはできないのか?」
「それがあの場で謝罪することだったんです。お父様が言えばライル様はやめますが、少しでも何かあったら本当にザダ領は終わりますね。領の未来を考えるのなら、半殺しされ続けるのが一番安全です」
「セフィーナ。なんでお前はそんなに淡々と」
「え?だってザダ子爵が撒いた種ですよ?ドラゴンの巣にわざわざ侵入して、ドラゴンを刺して怒らせた人をかばえないですよ」
「だが・・・」
私が喋ろうとすると、セフィーナは呆れた表情をした。
「お父様。よく考えてください。標的がライル商会じゃなかった場合、平民が殺されてテイムモンスターを奪われていたんですよ。しかも冒険者は依頼に疑問を持っていなかった。ということはこのような依頼は割とあると考えることができます」
セフィーナに言われて私が見過ごしていたことに気付いた。
あのような依頼で被害にあっている者もいるかもしれない。
ザダ子爵の子息が冒険者に直接依頼をする伝手があったのもおかしい。
ライルの異常さを見たせいで完全に抜けていた。
娘に言われるまで気付かないとは。
「セフィーナすまなかった。ライルの異常さに目がいって、問題の部分を気付けていなかった」
「いえお父様。ライル様は異常なんです。だから気にしないことが1番です。どうせ巻き込まれるので」
セフィーナはヤルクに行っている間にだいぶ強くなっていたようだ。




