330.案内役の成長
ゴトフの様子を見にデスヘルに来た。
街には本当に冒険者が増えた。
2年前のカラッカの街を彷彿とさせる。
危険地域に向かっていると、鬼将軍の重鎧がいた。
「「「「ライル様!」」」」
俺の姿を見つけると、すぐに走ってやってきた。
「おーおつかれ」
「「「「お疲れ様です」」」」
「調子はどう?」
「はい。今は1位を目指して頑張っています」
「1位?」
俺は首を傾げた。
「冒険者ギルドに張り出されている貢献度の順位表です。ライル様の発案と聞いたのですが」
「え?もう始まったの?」
マリーナさんに言ったのは2日前だ。
あまりの早さに驚いた。
「みんなは今何位?」
「2位です。1位は【光剣の輝き】で3位は僅差で【大獅子の牙】です」
「ほーすごいじゃん」
エルデオ達の強さは危険地域でもしっかり通用したみたいだ。
「大獅子の牙とはよく話すのですが、優秀な冒険者なので負けたくないです」
「いい関係だね」
大獅子の牙の昔の話はわざわざしなくていいだろう。
「マリーナさんからもそろそろランクが上がると言われています」
「案外遅いね。あ!全然嫌味じゃないよ。2位になるくらいなのにまだ上がってないのが不思議で」
「ライル商会は通常の冒険者よりも厳しくしていただいているみたいです」
「なるほどね」
ライル商会は大量発生を経験しているため、倒す量が尋常じゃないと聞いたことがある。
「ヴァイオレット達とは仲良くできてる?」
「はい。『体術』の取得のために武器無しで危険地域に行ったりしています。ですが他の冒険者からの目が痛くて」
ロブは気まずそうに言った。
「戦場の毒花の皆さんもひどいんです。そういう視線を感じると、わざとくっついてくるんです」
「ははは!それは災難だね。後ろから襲われないように鍛えとかないと」
「危険地域にいる時より、街にいる時の方が気を張っています」
エルデオ達もだいぶ馴染んだ。
最初に出会った時より、会話が弾んだ。
「そろそろゴトフの様子を見てくるよ」
「止めてしまってすみません」
「いいよ。話せて楽しかった」
俺はエルデオ達と別れ、危険地域に向かった。
街の門を出ると、すぐにゴトフ達の場所が分かった。
俺はグリフォンの群れが居る方向へ向かう。
「ゴトフ!」
「あっ!ライル」
ゴトフはグリリに乗って槍を手に持っていた。
「ちょうど話したいことがあったんです」
「ん?どうしたの?」
「学園にグリフォン達を全員連れて行けなくてチバラス領で留守番をしてもらうんだけど、実家だと騒ぎになるからどこか土地をもらえないか父上に頼もうと思って」
「あーなるほどね」
さすがに合計13頭は王都にも連れて行けないし、実家に置いて行くのも厳しいだろう。
「ついでにライルと事業を始めるって伝えようとね。まだグリリ達をテイムした報告もしてないしね」
「あ!ラドニークさんがなんか言ってたな」
「カラッカ辺境伯が?」
「うん。確か後ろ盾にカラッカ家が居ることを伝えてほしいっていうのと、金関係は手を出さないからライル商会とチバラス領で好きにやってくれって言ってた気がする」
「え?本当に?」
「うん」
ゴトフは驚いていた。
「普通は売り上げの何割かを献上したりするんだけど、それをうちとだけでいいなんて」
「新規事業だからね。まだ何するかも決まってないし。何となく考えてることはあるけど」
「どんなこと?」
「グリフォン運輸。マジックバックがあるから量や鮮度はあんまり気にしなくていいけど、馬車だと到着するまでに時間がかかる。だから速さに特化した荷物や手紙を運ぶ仕事。個人的な荷物は貴族や商人とかに限定して、手紙は商人ギルドに預けてもらって、回収日にまとめて運ぶとかかな」
「すごいいい!」
ゴトフは目を輝かせた。
「現状の問題点はグリフォンに乗る人が少ない。貴族にこの事業を宣伝しないといけない。平民に手紙を簡単に出せると感じさせる。とかかな?グリフォンに乗る人はちゃんと決めないと、荷物や手紙を盗んだりされたら信用にかかわるからね」
「わかった。僕の方でも少し考える。ライル、相談なんだけど」
「ん?」
「父上にライルが家を作れるエクストラスキルって伝えてもいい?」
「いいよ。ただし自分が所有する土地だけね」
「ありがとう。もし土地をもらえたら、スキルを使ってくれる?」
「問題ないよ。むしろその土地をグリフォン運輸の本部にできるくらい立派にするよ」
俺がそういうとゴトフは嬉しそうに笑った。
「訓練は今日を最後にして、明日は色々案内するよ」
「本当?でもターティーがまだ『騎乗』を取得してなくて」
「『騎乗』ならチバラスでも試せるじゃん」
「そうだね」
「それに忘れてるけど、ゴトフ達はヤルクに馬車で来たんだよ?ゴトフはグリリに乗って帰るつもりなら、サジュム達は馬車で早めに出てもらわないと」
「そうだった。完全に忘れてた!」
その後ゴトフ達と話して、ゴトフの出発は3日後になった。
▽ ▽ ▽
ヤルクの学び舎に行くとクラリ様とクララさんが弓の訓練をしていた。
「どうです調子は?」
「ライルさん!お姉様とこんなに一緒に居られるのも嬉しいですし、スキルを取得できたのが本当に感動です」
「クラリは優秀だねー」
クララさんはクラリ様の頭を撫でた。
クララ姉妹はだいぶ仲がいいみたいだ。
「ライルさん。気になっていたんですが」
「ん?最近ゴトフ様を見ていません」
「あー俺の仕事についてきてたんです」
「そうなのですね。私も行きたかったです」
クラリ様が落ち込んでいると、クララさんが口を開いた。
「もう少し訓練したらだねー。ライルくんは強いんだから、足引っ張っちゃうよー」
「それは嫌です」
「じゃあいっぱい頑張ろうねー」
クララさんは妹の扱いが上手い。
「そういえばゴトフが3日後にチバラスに帰るそうですが、クラリ様はどうしますか?」
「学園の準備がありますもんね。私も久しぶりの学園なんで、準備に時間がかかってしまうかもしれないです。お姉様!エサトス領まで送ってください」
「え!」
クララさんは少し嫌そうにした。
「ダメですか?」
クラリ様は目を潤ませた。
「うーん。わかったよ。でも送るだけだよー」
「お姉ちゃん!大好き!」
クラリ様はクララさんを「お姉様」と呼んでいるが、時々「お姉ちゃん」と言ってる。
貴族として意識しているのだろう。
クラリ様と話し、ゴトフと同じく3日後に出発することになった。
▽ ▽ ▽
今夜も訓練だ。
ガッツさんと戦う前に、瞑想をして魔力を身体に送る実験をする。
魔力での身体強化が出来れば、やれることが増えるはず。
目を瞑って魔力を感じ取る。
その魔力を身体に循環させるように広げていく。
「はぁーはぁー」
集中しているせいか意外と体力を使う。
それに2年前の戦いから、魔力の量が多くなった。
魔力をまだうまく動かせない。
俺はガッツさんに声を掛けられるまで、瞑想を続けた。




