324.『テイム』取得大作戦
従者はゴトフが訓練していた間、ずっとラーちゃんと居たのが『テイム』取得の要因だと思う。
目標の『テイム』を先に取得してしまった負い目で、ゴトフを目隠しして連れて行くことも許可が出た。
従者2人はチバラス家に雇われてはいるが、ゴトフの専属なので独立した場合も付いてくるくらい信頼があるみたいだ。
なので『テイム』を先に取得されたことは、悔しくはあるが嬉しいとのことだった。
俺はゴトフを目隠しして、デスヘルに連れて行った。
今回の目標は、危険地域にいるグリフォンだ。
グリフォンは時々群れで現れると報告を受けていた。
商会に素材も結構あるみたいで、ヒューズさんや獣人のフゾートはグリフォンの素材で鎧を使っていた。
さすがに貴族のゴトフが死んだら困る。
ミスリルの全身鎧を着せて、ゴーレと弟子をフル動員だ。
危険地域に入り、ゴトフの目隠しを外す。
「えっとここは?」
「ヤルクの近くだ」
「そ、そうなんだ」
さすがに騙せているとは思っていない。
だけどゴトフは追及してこなかった。
察してくれたのだろう。
「じゃあ目標を探しに散らばって!フリードとグーちゃん、それにマシューとロズは俺とゴトフの近くに居て!」
「「「「「「はい!」」」」」」
ゴーレと弟子達は危険地域に散らばっていった。
「ライル。目標って?」
「ああ。グリフォンだよ」
「グリフォン!?」
「うん。たぶんだけどゴトフなら懐かせることができると思うんだよね」
「『テイム』を取得してないのに?」
「うん」
俺はゴトフにハーマンの話をした。
「なるほど」
「テイム系のエクストラスキルを持ってたら、普通より『テイム』を取得するのが難しいんじゃないかなって思って」
俺は根拠のない仮説をゴトフに伝えた。
「わかった。やってみる」
ゴトフは決心したようだ。
▽ ▽ ▽
数分後、ノコが戻ってきた。
グリフォンを見つけたのだろう。
「見つけたみたい」
「わ、わかった」
俺達はノコに付いて行った。
少し歩くと、グリフォンの群れが見えた。
俺達は距離を取ったまま様子を見た。
「みんなが集まるのを待つか」
散らばっていた弟子達とはまだ合流できていない。
「ライル。あの大きいのって上位種?」
「え?」
俺はすぐに『鑑定』をした。
「キンググリフォンだ。あれはまずいかも。絶対弟子達を待とう」
キンググリフォンだけなら俺とフリード達なら倒せるかもしれない。
さすがに10頭以上のグリフォンも一緒で、ゴトフを守りながらだと少し心配だ。
ゴトフはグリフォンを見続けている。
怖がると思ったけど全くだ。
『天空の調教師』の恩恵なのだろうか。
「大丈夫か?」
「うん。グリフォンってかっこいいね」
「ははは。この状況でそう言えるのは凄いね」
「あっ!」
ゴトフが声をあげた。
「どうした?」
「キンググリフォンと目が合ってない?」
「え?」
キンググリフォンを見ると確かに目があっている。
そして少しずつこっちに近づいてきている。
「もうしょうがない。やるしかない。ゴトフ!」
「は、はい!」
「キンググリフォンにゆっくり近づいて!その装備なら1撃なら防げるから」
「わ、わかった」
ゴトフは焦ってはいるが恐れてはいない。
ゴトフは立ち上がり、少しずつ近づいて行く。
キンググリフォンもゴトフに近づく。
「フリード、ノコ。ゴトフが攻撃されたら、すぐに救出だ」
ヒヒーン!
ジジジジジ!
俺はすぐに動けるように身構えた。
『ワープ』で近寄って、『ワープ』で逃げる。
その間にフリードとノコが攻撃をして、俺も前線復帰。
問題ないだろう。
ギャロロロロロ!
キンググリフォンが鳴いて羽根を羽ばたかせた。
地面を勢いよく蹴り、ゴトフに向かって行く。
ゴトフは怯えずにキンググリフォンを見ていた。
ヒューズさんとガッツさんにボコされ続けた成果が出てるみたいだ。
キンググリフォンはゴトフの目の前で止まり、嘴を広げてゴトフの頭に噛みついた。
「ワープ!」
俺はすぐにゴトフの横へワープした。
「すぐ助けるから!」
俺がもう一度『ワープ』しようとすると、ゴトフが叫んだ。
「大丈夫!!!」
「え?」
「たぶん成功!噛まれてるけど痛くない」
「本当?」
キンググリフォンを見ると穏やかな表情をしていた。
▽ ▽ ▽
ゴトフは無事に『テイム』を取得していた。
そして懐いたキンググリフォンをテイムした。
「やったよ!ライル!」
「いやーマジでよかった」
ハーマンとゴトフがこの方法でうまくいった。
良いデータを取れたと言っていいだろう。
ゴトフはキンググリフォンだけでなく、グリフォン10頭もテイムした。
なぜか2頭だけテイムしなかったが理由はわかっていた。
従者の2人にテイムさせたいのだろう。
俺はテイムが成功した場合の帰宅方法を全く考えていなかった。
行きと同じように『秘密の通路』を目隠し?
テイムしてないグリフォンも居るから少し不安だ。
従者を目隠しで連れてきて、帰りの『秘密の通路』で目隠し?
さすがに追及してくるよな。
従者を目隠しで連れてきて、乗って帰ってもらう?
なんでデスヘルにいるんだって話。
俺は『テイム』を取得させることに必死で、色々詰めが甘かった。
詰めが甘い時はだいたい丸め込むしかない。
俺はゴトフを説得することにした。
「ゴトフ」
「ん?」
ゴトフはキンググリフォンと戯れていた。
「あのさ、モンスターと一緒に仕事をしたいって言ってたよね」
「うん」
「ライル商会でやらない?家のこともあると思うからそこら辺は家有利に進めていいからさ」
「わかった」
「ん?」
ゴトフの即答に俺は驚いた。
「けど何も思いついてないけどいいの?」
「あー。それはこれから考えるんだけどさ。本当にいいの?」
「いいよ。『テイム』も取得させてくれたし。ライル商会に入れば、ここが本当はどこか教えてくれるんでしょ?」
ゴトフはバカではなかった。
俺はゴトフに従者の口止めを頼んだ。
ゴトフは了承してくれた。
▽ ▽ ▽
ゴーレが従者2人を目隠ししたまま担いできた。
「ゴーレありがと」
「いえいえ」
ゴーレは2人を降ろし、目隠しを外す。
「あ!ゴトフ様」
「え?グリフォン!!!」
従者2人はいきなりの状況に驚いている。
ギャロロロロロ!
キンググリフォンが鳴くと、テイムされていないグリフォンが2人の前に出てくる。
「2人共、このグリフォンを『テイム』して」
「「え?」」
ゴトフの指示に戸惑いながらも、2人はグリフォンをテイムした。
野生のグリフォン問題はとりあえず解決した。
ここからの説明が大変だ。
「えー今から色々説明しますので、他言無用でお願いします」
俺がそういうと3人は無言で頷いた。
▽ ▽ ▽
ゴトフはギリギリ意識を保っていたが、従者のサジュムとターティーは完全に放心状態だった。
「ここは元帝国の危険地域ってことなんだね。なんか今更怖くなってきたよ」
ゴトフは少し顔色が悪くなった。
「ごめん。『テイム』を取得させるのに必死で」
「取得できたのは嬉しいからいいんだけどね。それでこれから『秘密の通路』?ってやつで帰るの?」
「いや従魔登録しないといけないかー。一旦冒険者登録する?」
「え?僕が?」
「サジュムとターティーも」
「「え!」」
放心状態でもちゃんと会話は聞いていたようだ。




