322.極楽花
今日はゴトフの訓練はガッツさんとヒューズさんに任せて、俺はデスヘルに来ていた。
ヤルクの冒険者ギルドでギルドマスター代理をさせられているカリムさんから、デスヘルに行くためにヤルクに来た冒険者が数パーティいたと聞いた。
なので、娼館を動かす準備にやってきた。
「ヴァイオレット。生活はどう?」
「最高っす!今は冒険者がメインですけどね!」
「そろそろデスヘルに冒険者が来そうだから、娼館もオープンしようか」
「マジっすか!お願いします」
ヴァイオレットは嬉しそうだった。
俺はヴァイオレットと一緒に冒険者ギルドへ向かった。
マリーナさんは珍しく受付に居た。
「あーライルくんにヴァイオレットちゃん。どうしたの?」
「娼館をそろそろ開店させようと思って」
「じゃああのコインを使う?」
「もうできてるんですか?」
「うん。ヴァイオレットちゃんに言われて、すぐにガルスタンさんに頼んだわよ」
そう言ってマリーナさんは鉄製の花が描かれている硬貨を出した。
「いい感じですね」
「でしょ。金額とかはヴァイオレットちゃんと話したから、すぐに導入できるわよ」
「じゃあ明日からお願いします」
「了解!」
マリーナさんも本当に優秀だ。
「店の名前は決めたの?」
「【極楽花】にしました!」
「いいね。なんか沼の中心に生えてそう」
「そのイメージっす!てか先輩、うちの戦闘も見てくださいよ」
「え?」
前々から言われていたが、大人数の戦闘なんて見れるか不安だった。
「いいアドバイスできないかもだけど、それでもいいなら」
「お願いします!」
俺は戦場の毒花と共に危険地域に行くことになった。
▽ ▽ ▽
初めての危険地域。
俺も気合を入れないといけない。
戦場の毒花は16人。
みんな細身なのに戦えるのだろうか。
「えーっと1回戦闘を見てみてもいい?」
「了解っす!」
俺達は危険地域を進んでいく。
するとストーングリズリーの群れが居た。
「じゃあいける?」
「はい!」
みんなが一斉にストーングリズリーに向かった。
武器がいきなり現れたが、鬼何とかシリーズのグローブを装備しているのだろう。
大盾持ちが4人、弓が2人、剣が3人、斧が3人、杖が3人。
そしてヴァイオレットは大きな槍を持っていた。
あれは突撃槍っていうんだっけ?
ヴァイオレットの身体より大きな槍は他の武器とは違い、機械みたいだった。
ヴァイオレットの槍が動き出し、煙が噴き出した。
煙がみんなを一瞬覆うと、人数が増えた。
「ん?何?どういうこと?」
全員が分身をしたみたいだ。
16人だった戦場の毒花は32人になってストーングリズリーの群れに突っ込んでいく。
ストーングリズリーが先頭の大盾持ちを薙ぎ払うが当たらない。
偽物を攻撃したようだ。
矢が偽物の身体を通過して、ストーングリズリーに刺さる。
偽物の影から剣が飛び出して来たり、矢が飛んできたりしてストーングリズリーは訳も分からないまま防戦一方になっていた。
バイオレットは槍をストーングリズリーに突き刺す。
すると槍が動き出し、ストーングリズリーの背中から槍の先端が飛び出してきた。
可動式の大槍のようだ。
過剰戦力すぎて言えることが無いかもしれない。
ストーングリズリーの群れを殲滅して、ヴァイオレットは俺の元へやってきた。
「先輩!どうでした?」
「てかヴァイオレットの武器はなに?」
「これは転移した時に持ってた私専用の武器っす」
「あー。それがヴァイオレットのチートなのかな」
「たぶんそうっすね。他のみんなはダンジョンで手に入れた武器です」
俺は色々納得がいった。
「なんでランクが低いの?」
「マリーナさんから聞いたんですけど、ダンジョンばっかりだとランクが上がりにくいらしいっす」
「あーそうなんだ。いまでも十分強いけど、改善点が一応あったよ」
「まじっすか?」
「うん。その武器封印した方がいいと思う」
「え!」
ヴァイオレットは驚いていた。
実際、ヴァイオレットの武器が強い。
幻影みたいなのもヴァイオレットの武器から出ていた。
個々の能力を上げるには、武器の封印が一番だろう。
ヴァイオレットに俺の考えを伝えた。
「なるほど」
「強いから良いんだけどね。もっと強くってなったときは、基礎能力を上げておいた方がいいと思う」
「わかったっす!代わりの武器がないので今日は無理ですけど、今度試してみます」
「うん。まあ無理しない程度で」
さすが転移者だ。
弟子達とはやっぱりレベルが違った。
あの武器を使ったら、疾風の斧やガッツさんとかと同等だろう。
俺はその後も戦場の毒花と共に危険地域を周った。
▽ ▽ ▽
デスヘルの街に戻るとジェイクが居た。
「どう?家は」
「ああ。最高だよ。お礼をお前にずっと言いたかったんだ」
「いいよ。気にすんな」
照れくさそうなジェイクには興味がなかった。
「えーっと何とかの牙も一緒に住んでるのか?」
「大獅子の牙な」
「そうそれ」
「あいつらは宿だぞ。なんか家は自分達の力で手に入れるってさ」
「いいじゃん」
何とかの牙はちゃんと更生したみたいだ。
「うちの冒険者とは会ったか?」
「鬼将軍の重鎧か?」
「そうそう」
「あれはすげえな」
「だろ?模擬戦する?」
「するか!お前の息がかかった奴とは敵対しないって決めてんだ」
ジェイクもしっかり学んでいた。
「前にササントの近くで鍛えてやったろ?またやるか?」
「本当か?」
思っていた反応と違う。
「やりたいなら今度やってやるけど」
「ならパーティで頼めるか?」
「ああ」
嫌がるのを期待していたが想定外だった。
「Bランクには戻ったんだけど、なかなか強くなれなくてな」
「あー行き詰ってるから手伝ってほしいのか」
「・・・そうだな」
本当にジェイクの照れてる姿は興味がない。
「あーわかったよ!近いうちにやってやるよ」
「助かる」
ジェイクは嬉しそうにしていた。
「あと娼館に行きすぎるなよ!ほどほどにな」
「ガキが何言ってんだよ」
叫ぶジェイクを無視して、俺はヤルクへ帰った。
▽ ▽ ▽
レストランライルに行くと、ゴトフが懸命に野菜を炒めていた。
従者の執事とメイドが心配そうに見ている。
メイドさんの腕にはラーちゃんが抱えられていた。
「ゴトフ。今日はどうだった?」
「ライルか。地獄だったけど、少しは動けるようになったと言われた」
「よかったな!」
「ああ。明日は何をするんだ?別のことか?」
「明日も同じだぞ」
「え!」
ゴトフの目がまた曇ってしまった。
俺はそれを見なかったことにしてレストランライルを後にした。




