313.戦場の毒花
「私がライルさんに会う前に保護した転移者です。当時17歳でした。日本では、まあそういうことをしていたみたいです」
「なるほど」
俺はアースからその転移者の話を聞いた。
夢野藤子、当時17歳。
現在はヴァイオレットという名前で19歳。
ゼネバース皇国で勇者召喚されたが脱走。
逃げているところをアースに保護される。
『妖艶戦姫』という戦闘向けのエクストラスキルと、本人の冒険者をしてみたいという意見を尊重してナハナに送った。
アースは定期的に様子を見に行っていたが、冒険者パーティを組んでいたり、Cランクになっていたり、娼館を経営していたり、会うたびにいろんなことが起きていたという。
最初は娼婦の知り合いのために店を作ったらしいが、元の世界で近いことをしていたので自分もすることになった。
娼婦という仕事にプライドがあり、日中は冒険者をやり、夜は娼婦をやっている。
ナハナからいろんな国に行き、様々な境遇の娼婦を雇っている。
娼婦は全員冒険者をしていて、パーティ名は【戦場の毒花】。
ある日、他国の貴族の相手をしたら惚れられてしまい、最初はアプローチだったが最近は営業妨害のようなことをしてくるようだ。
「うーん。どうしようか。他の仕事って感じじゃないんでしょ?」
「そうですね」
「これはセフィーナさんに相談。あと元々ヤルクに住んでた大人達にも相談だな」
俺は気が重かった。
親に娼館の話をしないといけないのか。
「出発は明後日!とりあえず明日はヤルクに行くよ」
「はい。すみません」
俺達はいったん寝ることにした。
▽ ▽ ▽
俺とアースはデスヘルに行き、セフィーナさんとヒューズさんを呼び出した。
「どうした?なんか落ち込んでんのか?」
俺の憂鬱な気持ちに気付いたようだ。
「すごく怖いんですが。ライル様がこのような状態なのが」
「いや色々ありまして。話を聞いてもらえたらわかります」
俺は2人に【戦場の毒花】について伝えた。
「あははは!なるほどな。これはライルには重い話だな」
ヒューズさんは爆笑していた。
「私もあまり話題にするのは恥ずかしいですが、領主の娘として多少は学んではいます。男性冒険者が多い街には必要な存在と聞いています。カラッカにもありますし」
「そうだな。娼婦に惚れた男はその街に留まるし、会うために仕事を頑張るぞ」
「ヤルクに作る必要はないとは思いますが、このデスヘルには必要かもですね」
セフィーナさんとヒューズさんが話を進めてくれている。
「ライル商会の従業員という形にはしたいので、ヤルクに元々住んでいた大人達には話をしなくちゃいけないんです」
「まあそうだな。ライルは娼婦達を仲間外れの様にはしたくないんだよな」
「はい。できるだけ。色々娼婦の方々にも気を付けてもらわないとはいけないですが」
「気を付ける?」
「子供と接するときは仕事の話をしないなど」
「なるほどな」
俺達は真剣に話し続けた。
「あー。なんか俺も染まったな。娼館をどうするか真剣に話し合ってるとか」
ヒューズさんは話し合いが終わると笑いながらつぶやいた。
とりあえず、納得させる案は作った。
これで戦うしかない。
▽ ▽ ▽
「連れてきました」
アースがヴァイオレットをナハナの家に連れてきた。
見た目は黒髪で幼い。
細身なので本当に冒険者なのか心配になった。
ヴァイオレットは俺をジロジロ見てきた。
「アースさん?この子が助けてくれるの?」
「助けようとは思ってるが、助けるかは決めてない」
「え?」
俺が子供っぽくない話し方をしたせいか戸惑っている。
「ライル商会商会長のライル。転生者だ」
「え?アースさん?マジ?」
「マジマジ。大マジだ。ちなみに年上な」
「先輩っすか?」
このタイプと久々に絡むせいで頭がくらくらしてきた。
「話し戻すぞ。ヴァイオレットはうちの土地に来て、娼館をやりたいのか?」
「あー。できるならやりたいっすね。うちの子みんな娼婦ですし」
「他の仕事だとダメなのか?」
「この仕事にみんな魅力を感じてるんすよねー。よくある嫌々やらされてる系ではないっす」
「わかった」
ヴァイオレットがこう答えるのはわかっていた。
「うちの商会では子供がたくさんいる。だからいろいろお互いに気遣わないといけないんだけど。それは協力できる?」
「娼婦は悪影響みたいな話っすか?」
「まあそうだね。子供が多い街ではなく、冒険者が多い街に娼館を作ろうと思っているが、商会の従業員として子供と会わないというのは俺の選択肢にない。商会に入ったからにはみんなとも仲良くしてほしい」
「うーん」
ヴァイオレットは悩んでいた。
「お互いがうまく歩み寄ることが俺にはできると思っている」
「うん。私もそうなってくれるならうれしいけど、できるかな?」
「例えば、店の外を出るときは露出度を少し抑えるとか、子供と接するときは仕事の話をしないとか」
「あー。それはできるかも」
「俺自身娼婦に少し偏見はあるが、それをなくしたい。だから協力してほしい」
「ライル先輩の事あんま知らんけど、ここまで言うなら乗っかってみてもいいかな。私達がやれることはやるし」
「ありがとう」
俺はひとまず安堵した。
「ここからが問題だ」
「何がっすか?」
「俺の親や他の大人達に娼館が必要だということをプレゼンする。ヴァイオレットには当然ついてきてもらうからな」
「わ、わかったっす!」
俺はゴーレに頼んで招集を指示した。
▽ ▽ ▽
俺はヤルク商人ギルドの会議室に大人達を集めた。
ヤルクに元々住んでいた、父さん、母さん、町長夫妻、ブライズさん夫妻、ガートンさん夫妻、カリム夫妻。
そしてガルスタン夫妻と学び舎のフォーリア、シスターユーアとアイザックさんだ。
「えーと。今から話す内容はとても重要なことです。俺が話していることに違和感を感じても最後まで聞いてください」
俺は熱心に喋った。
戦場の毒花を保護したいということ。
娼婦を商会にいれることのメリットとデメリット。
冒険者の街には必要なこと。
ライル商会の差別や軽視をしないという理念。
子供達との関わり方。
俺が話し終わると、母さんが答えた。
「もう。ライルの成長には驚かされるわ」
「ごめん」
「それで、ヴァイオレットさんの所の人達は綺麗なの?」
「え?」
母さんはヴァイオレットを見た。
「み、みんな可愛いです。綺麗系もいます!」
「いいじゃない。綺麗な服をいっぱい作ってあげますからね」
「え?」
俺は母さんの反応に理解が追い付かなかった。
「ライルがヤルクになかったものをどんどん作るのはもう慣れたわよ。母として息子が必要だというなら止めないわ。それに娼婦が子供に悪影響?子供達への伝え方さえ間違えなければいいわけじゃない。まあ濁す必要がありますが。ねえあなた」
「ああ。俺はライルを信じているし、偏見は持たない」
さすが父さんと母さんだ。
俺は舐めていたのかもしれない。
「そうですね。伝え方さえ間違わなければいいですよね」
「そうだね。これは僕達の課題だね」
ブライズ夫妻も理解してくれたみたいだ。
他の人達も認めてくれるみたいだ。
「ただヴァイオレットさん達にも協力はしてもらいますよ」
「当然です。私達のせいでなんて言われないように努力します」
ヴァイオレットは力強く答えた。
▽ ▽ ▽
無事、話し合いは終わった。
俺はヴァイオレットを連れてデスヘルの街に来ていた。
「ライル先輩あざす!」
「よかったよ。うまくいって」
「なんかみんな良い人っぽいっすね」
ヴァイオレットはなぜかちょっと嬉しそうにしていた。
「今から何するんすか?」
「ああ。娼館とみんなの家を作ろうと。秘密基地!」
バッフン!バッフン!
「えーまじっすか!」
ヴァイオレットは声をあげた。
櫓櫓壁門壁壁壁門壁櫓櫓 L
櫓櫓倉▢冒冒冒▢倉櫓櫓 K
壁毒娼▢冒冒冒▢商商壁 J
壁毒娼▢冒冒冒▢商商壁 I
壁従従▢▢▢▢▢商商壁 H
櫓櫓従食食▢宿宿宿櫓櫓 G
櫓櫓従食食▢宿宿宿櫓櫓 F
壁従従店店▢光光庭庭壁 E
壁領領領領▢芝芝芝芝壁 D
壁家家庭庭▢芝芝芝芝壁 C
櫓櫓家厩庭▢芝芝芝芝櫓 B
櫓櫓壁壁壁門壁壁壁櫓櫓 A
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娼館と戦場の毒花の家を作った。
それによって宿屋と光剣の輝きの家もずらした。
「ヤルクの街も先輩が作ったんすか?」
「そうだね」
「すご!チートじゃないっすか」
「まあそうかもね。商品もいろいろ作ってるから使ってみて」
「あざす!」
ヴァイオレットは頭を下げた。
「娼館の経営は大丈夫なの?」
「はい?」
「金額設定とかサービス内容とか」
「大丈夫っす!本番無し系なんで」
「おい。子供にやめろ」
「先輩は別でしょ」
俺は先行きが不安になった。
ヴァイオレットにヤルクとデスヘルを案内してナハナに戻った。




