310.危険地域
今日、やっと危険地域に行くことができる。
早朝出発だ。
目をこすりながらセフィーナさんと合流した。
「おはようございます」
「おはようございます。アース様は?」
「なんか気合入っていて、昨日からマヌセラにいます」
「そうですか。じゃあ向かいますか」
「そうですね」
俺とセフィーナさんは工場エリアから『秘密の通路』を使った。
ヤルクには心配事を残している。
教会に関しては対応した。
孤児院も問題ない。
気になるのは井出綾乃だ。
目覚めるようにはなったみたいだが、喋らないらしい。
ミジュマナ頼りにはなってしまってるが、頑張ってもらおう。
▽ ▽ ▽
危険地域近辺には3日で到着した。
あとは数時間、陸を進めば目的地に到着する。
シキの背中は思ったよりも快適で、俺とセフィーナさんはほとんど寝ていた。
食事の時などはシキが身体を巻いて、そのうえで食事をした。
シキとアースの『認識阻害』は高レベルのようで、モンスターと接敵することはほとんどなかった。
今いる所は危険地域とカラッカ領の境だ。
危険地域は土から栄養が無くなり、植物も全くない。
荒れ果てている大地が広がっている。
モンスターが居るのが肉眼でもわかった。
原因は大規模魔法らしいけど、どんな魔法を使ったらこんなことになるんだ?
危険地域の中心部は大きな穴が開いているらしい。
まじでどんな魔法だよ。
「すごいですね」
「ですね。シキに乗ってなかったら、結構な数の戦闘が起きていたはずですね」
陸もシキに乗って移動している。
海の方が速く動けるらしいが、陸でも十分速い。
カラッカ領側は自然があるように見えるが、人が行き来してできた道のようなものがなかった。
帝国時代から頻繁に人が行き来するような場所じゃなかったのだろう。
聞いた話では元帝国民の村がいくつかあるらしいが、生活は厳しいみたいだ。
色んな事を考えていると廃れた街が見えてきた。
どっからどう見てもあれは廃墟だ。
「セフィーナさん。あれですかね?」
「たぶんそうです」
廃墟になった街で生活をさせられている弟子達のことを思うと怒りがこみ上げてきた。
カラッカの冒険者には一発かまさないといけない。
崩れた門を通ると、人だかりがあった。
「「「え!」」」
数人が俺達に気付いて声をあげた。
「ラ、ライルくん!!」
「「師匠!!」」
「「「ライル様―!!」」」
俺だと認識したのだろう。
弟子達は俺達に駆け寄ってきた。
▽ ▽ ▽
「みんな久しぶり!」
「ライルくん!!」
「ライル!!」
ニーナとルークが抱き着いてきた。
2人共少し背が伸びていた。
「よかったよおおお!」
「ライルー!!」
2人はびっくりするほど泣いている。
俺も勢いにやられて泣きそうになったが我慢した。
俺は二人の頭を撫でた。
「ごめんね。心配させちゃったね。みんなもごめんね」
俺達を微笑ましく見ているみんなにも謝った。
ヒヒーン!
フリードが俺の頭を咥えて、甘噛みしてきている。
ジジジジジジ!
ノコが俺の脛を突いてくる。
なんか懐かしさを感じた。
ノコ虫軍は俺の周りをくるくる飛び回っていた。
ライムはなぜか服の中に入り込もうとしてきた。
「あーこれはすぐ作業するのは無理かな。よし。みんなで少しはなそう」
俺が地面に座るとみんなも円を描くように座った。
▽ ▽ ▽
いろんな話を聞いた。
2年間のことを。
こんなスキルを取得した。
ランクアップした。
依頼でこんな所に行った。
装備をガルスタンに作ってもらった。
元奴隷達も最初は遠慮していたが、徐々に話をしてくれた。
完全に報告会だった。
「よし。みんな頑張ってくれていたみたいだし、ここに街を作るか」
「はい。準備はできてます」
俺はセフィーナさんから土地を購入した。
「秘密基地!」
▽ ▽ ▽
結構土地が余ってしまった。
今回の上振れは物見櫓だ。
[城壁と合体しますか]とディスプレイに表示されたので合体させた。
そうしたらなんと4マス分の巨大物見櫓になった。
櫓櫓壁門壁壁壁門壁櫓櫓 L
櫓櫓倉▢冒冒冒▢倉櫓櫓 K
壁宿宿▢冒冒冒▢商商壁 J
壁宿宿▢冒冒冒▢商商壁 I
壁宿宿▢▢▢▢▢商商壁 H
櫓櫓従食食▢光光庭櫓櫓 G
櫓櫓従食食▢芝芝芝櫓櫓 F
壁従従店店▢芝芝芝芝壁 E
壁領領領領▢芝芝芝芝壁 D
壁家家庭庭▢芝芝芝芝壁 C
櫓櫓家厩庭▢芝芝芝櫓櫓 B
櫓櫓壁壁壁門壁壁壁櫓櫓 A
012345678910
危険地域側は門を2つ設置。
冒険者ギルドと商人ギルドは1階建てで宿屋は三階建て。
鬼将軍の酒場は冒険者の利用を考え、前よりも大きくした。
従業員の居住スペースはアパートで作ったが、ほとんどみんなヤルクに帰ってくるだろう。
宿屋などの夜中に仕事がある人達が朝寝る用の家になりそうだ。
領主代行館も常駐する人はほとんどいないとのことで小さめにした。
光剣の輝きの家は大きめに作った。
ここに住み込んでほしいし、余ってて芝にした土地を貢献した冒険者に家付きで売るということにすればいい。
「どうです?」
「いいと思います」
「余ってる土地は、貢献した冒険者に家付きで格安で売るってことにしましょう」
「いいですね。そういえば決めてなかったのですが、この街の名前はどうします」
「え?それも俺の仕事?」
「えーっと。はいそうです」
絶対に嘘だった。
「第一印象でいいですか?」
「大丈夫です」
「デスヘルで」
危険地域の街はデスヘルに決定した。
▽ ▽ ▽
すぐに『秘密の通路』を各所と繋いだ。
俺の家から家。
宿屋からヤルクの宿屋。
鬼将軍の調理場と店舗はヤルクの工場エリア。
領主代行館から領主代行館。
冒険者ギルドと冒険者ギルド。
商人ギルドと商人ギルド。
ヒューズさん達をヤルクに呼びに行こうとしたら、ガッツさんが口を開いた。
「ヒューズ達と誰が来るんだ?」
「フィンとフォンと新しくきた獣人の冒険者です」
「ほー。また増えたのか」
「はい。ちなみに街に行ったらびっくりしますよ」
「マジかよ。また改造したのか?」
「はい。教会と孤児院が出来ました」
「変な宗教じゃないだろうな」
「九神教ですよ」
「ならまあいいか。俺は無宗教だが、神には感謝している。1度は行ってみるか」
「ちなみに教会と孤児院はライル商会所属なんですが、お布施とか寄付は本部に全部送ることになってるので、ガンガンお布施しちゃってください」
「なんだそれ。聞いたことないぞ」
「商会所属にするために、かなり本部が潤う提案をしたんですよ」
「なるほどな」
「他にもまあまあ変わってるので、身体を休ませがてら見てみてください」
「おう。楽しみにしておく」
俺はガッツさんと別れ、秘密の通路でヒューズさん達を呼びに行った。
▽ ▽ ▽
海獣の高波以外のライル商会所属の冒険者が揃った。
円になって、俺が話そうとしているのにフリード達が離してくれない。
しょうがないからそのまま話すことにした。
「えーっとフィンとフォンは無事冒険者になりました。経験を積ませるために、このデスヘルで疾風の斧とモンスターの討伐をしてもらいます」
「おお!おめでとう!」
「よかったな!」
弟子達はフィンとファンに声をかけた。
「将来的には強弓に入ってもらうつもり」
「「「わかりました」」」
強弓は頷いた。
「あと元奴隷の獣人パーティです。戦う力はあるんだけど、まだ冒険者登録はしてない。フィンとファンと同じくデスヘルで経験を積ませようと思う」
「「「「よろしくお願いします」」」」
エルデオ達は弟子達に頭を下げた。
「十数日後には光剣の輝きとなんとかの牙もこの街に来て、ここを拠点にするみたいなんでそれまでは頑張って」
「おう。びっちり鍛えておく」
ヒューズさんは笑顔で答えた。
「弟子のみんな、秘密の通路を通って帰ろう。数日は休んでいいからね!あとカラッカの街からライル商会は撤退したので、カラッカに行くとめんどくさいので気を付けて」
「「「「「「「「はーい」」」」」」」」
弟子達は元気よく返事をしてヤルクに戻って行った。
「よし。やるか」
俺はデスヘルの店舗に行った。
「うーん。必要なものは衣類系と武器系か」
「既に手配しております」
「え!」
いきなりのゴーレに俺は驚いた。
「工場エリアに裁縫部門と鍛冶部門が売り物を用意しております。この街で働くエルフの皆さんも準備ができています」
「さすがゴーレ」
本当にゴーレは優秀だ。
「アルゴットとフィアダも鬼将軍の調理場にもういるはずです」
「まじか!助かる!」
「あとやることは?」
「マリーナさんとアイザック殿を呼ぶことですかね」
「おけ!じゃあ行こう」
俺はゴーレと共にヤルクに向かった。




