308.シスターvs鬼将軍
俺は今日も朝からゴーレと孤児院に来ていた。
長旅で疲れたのか、シスターと孤児達はまだ寝ているみたいだ。
俺はゆっくりみんなが起きてくるのを待った。
数分すると、ナノンとミジュマナに連れられてシスター3人がやってきた。
昨日は馬車の中に居たので見れなかったが、3人共若い。
修道服も髪もボロボロだ。
「ゴーレ。母さんに頼んで温泉施設に連れて行ってあげて。あと服もお願いと伝えて」
「わかりました」
ゴーレは返事をした。
「じゃあシスターの3人はゴーレについていって。詳しい話はこのあとで」
「「「は、はい」」」
3人はゴーレついていった。
「子供達が起きたら、温泉施設に連れて行ってあげて。男の子は父さんに頼んでいいから」
「「わかりました」」
ナノンとミジュマナは頷いた。
▽ ▽ ▽
俺はシスター達と教会で話をすることになった。
3人のシスターは温泉施設とシモンキリーの服で綺麗になっていた。
「あのー今回は受け入れていただきありがとうございます」
シスター達が頭を下げた。
「いえいえ。まずはお互い自己紹介をしましょう。俺はライルです。ライル商会の商会長で冒険者もやってます」
「えー私はユーアと申します。前の教会では責任者をしていました。そしてこっちの2人はミアナとカモーエです」
シスターユーアがそういうと、シスターミアナとシスターカモーエは頭を下げた。
「若いのに責任者だったんですね」
「はい。司祭をしていた祖父が亡くなったので、私が責任者になりました。女の私が代表しているせいか、領からの支援金は少なくなり、子供達に苦しい思いをさせてしまいました」
シスターユーアは申し訳なさそうにしていた。
「うーん、まあソブラがクソだったってことですね」
「まあ!」
俺の口の悪さにシスター達は驚いていた。
「それでこの街で生活する上でいくつか聞きたいことがあって、返答次第では街を出て行ってもらう可能性があります」
「「「え!」」」
厳しいようだが、差別思想を持っている人間のせいで問題が起きるのはめんどい。
「まずこの街には獣人やエルフやドワーフがいますが大丈夫ですか?」
「大丈夫とはどういうことでしょうか?」
「率直に聞くと、他種族に嫌悪感を持ってたりする人だと困るって話です」
「いえ。私達にそんな感情はありません」
「ならよかったです」
とりあえず第一関門は突破だ。
「次に、この街には元奴隷が多く働いています。元奴隷に対しても嫌悪感などはないですか?」
俺が質問をすると、シスターユーア達は不機嫌になった。
「あまりにも馬鹿げた質問ではないですか?聖職者である私達がそんな愚かな考えを持っていると思っているんですか?」
「いえ。そんなことはないですが、俺はあなた達を知らない。今回だって孤児を助けるための受け入れなのでシスター達は正直おまけです。この街では種族関係なく生活をしている。そんな生活の中に不純物が入るのを警戒するのは当然ではないですか?」
「「「・・・」」」
言いすぎだとは思うが問題ない。
シスターという肩書きを持つ自分達が、差別などをしていないという薄っぺらい反論をしてきたんだ。
まだ人としての中身を知らないのに、シスターってだけで信用されると思っているのだろうか。
俺がまだ子供だからそんな薄っぺらい反論をしてきたのだろう。
「俺からしたら、みなさんはシスターという職に就いているだけです。僕が不純物だと思う人がシスターには絶対になれないのなら肩書きだけで信用します。ですがそんなことないですよね?思想なんてたくさんあるし、俺の思想が少数派の可能性もある。それなのにシスターという肩書きだけで信用はできません。シスターユーアがおっしゃっていた、「そんな愚かな考えを持っていると思っているのですか?」という質問ですが、答えはわかりません。だから聞いてるんです」
なんか喋っていたら止まらなくなってきた。
「質問内容で不快にしてしまったのなら謝罪します。ですがこちらがこういう質問をする理由も理解していただきたい。別に喧嘩をしたいわけではないです」
俺はもっと吐き出せるはずの言葉を一旦飲み込んだ。
生活ができなくなって、受け入れてくれた街の人間に普通はあのような反論をしない。
多分だがソブラ領で女性だからという理由で軽視されていたりしたんだろう。
「失礼しました。私達が浅はかでした」
シスターメーアは頭を下げた。
「いえ。俺も口が悪く申し訳ないです」
俺も頭を下げた。
「3人共、俺が不安に思っているような思想はないということで大丈夫ですか?」
「「「はい」」」
「それではみなさんをこの街で受け入れます」
「ありがとうございます」
3人は再び頭を下げた。
「えーきつく言いましたが、そんなかしこまらないでください。まああれだけ言った俺が悪いんですが」
「いえ。私は反省しました。助けてもらって当然。シスターだから信用される。そういう甘い考えが確かにありました」
「まあすぐに自然に戻ってといっても無理だと思うので、徐々にお願いします」
俺はシスター達との関係修復を図ったが、すぐには無理そうだった。
「えーまず教会は問題ないですか?」
「まだ見れていなくて、見せていただけますか?」
「ん?」
「ん?」
「あーここは執務室ですからね!」
孤児院から繋がっている通路から教会に入ったので、今いる場所が教会内だと気付いていないようだ。
「教会と孤児院は繋がってるんですよ。こっちです」
俺は3人を案内するが、なんか空気がおかしい。
「えーと。ライル様。孤児院も見ていないのですが、昨日の宿屋とも繋がっているのですか?」
「ん?昨日泊まったところは孤児院ですよ」
「「「え!!」」」
シスター達は声をあげた。
「では隣にあった豪華な建物が」
「教会です。てか今いるここも教会ですよ?」
「え!!」
「えーっとここが聖堂です」
扉を開いて中に案内するとシスター達は固まった。
「大丈夫ですかね?一応九神教の教会を作ったんですが」
「「「・・・」」」
「あれ?もしもーし」
3人は聖堂を見たまま動かなくなってしまった。
▽ ▽ ▽
「大丈夫ですか?」
「はい。失礼しました」
3人に飲み物を飲ませたら、やっと動き出してくれた。
「こ、こんな素晴らしい教会で働かせてもらえるんですか?」
「そのつもりで作りました。さっき話していた執務室側にみなさんの住む部屋もあります」
「えーっとユーア様。わ、私達は何をすれば」
シスターカモーエが混乱し始めている。
「えーっとどうしましょう。ミアナ、どうすればいいでしょうか」
「ユーア様。私にもわかりませんよ」
混乱が混乱を呼んでいる。
「落ち着いてください。いろいろ確認したいんですがいいですか!!」
「「「は、はい」」」
3人は黙ってくれた。
「まず建物自体に問題はありませんか?俺は九神教に疎くて」
「問題ありません。本当に素晴らしい聖堂です」
「よかったです。それと教会の経営ってどうなってます?」
「経営ですか。寄付金やお布施ですね。領から支援金がもらえる場合があります」
「なるほど」
意外と大変そうだ。
この街で宗教に熱心な人は見たことがない。
「教会は何かに所属しているんですか?」
「はい。九神教会に所属しています。本部に登録をすることで、正式に教会として認められます」
「なるほど。本部にお金を払ったりは?」
「します。寄付やお布施の一部を本部にお渡しすることになってます」
「うーん」
なんか穴がありそうなシステムだ。
「詐欺とかできませんかそれ」
「いえできません。まず登録の際に嘘の情報を伝えると聖女様と大司教様に気付かれます。そのようなエクストラスキルを持っていると聞いております」
「なるほど。寄付金やお布施を少なく言ってもバレてしまうということか」
「はい。なので前の教会のようにほとんどお金がない場合は免除していただけることが多かったです」
「ほー。なるほど」
この街にとって、教会をどのポジションにするか俺は迷っていた。
「孤児院はライル商会で経営します」
「本当ですか!」
「ただ教会を商会に所属させていいのか悩んでいて。たぶんですが教会で儲けを出すようなことをしなければ問題ないのかなと思うんですが、どう思います?」
「ん?商会に所属ですか?」
「はい。孤児院で子供達の面倒も見てほしいですし、教会として滞りなく活動してほしいですし。そのためには資金面をライル商会で賄うのが一番だと思うんですよ」
「えーっとどうでしょうか。私達では判断ができないですね」
「本部にはどうやって連絡を取るんですか?ここの教会を登録しなきゃですよね」
「はい。手紙で連絡します。初めての登録の場合は手紙をお送りして返事を待つのですが、今回は移転という形なので、これを使用して手紙を送ります」
ユーアさんは巾着型のマジックバックから、魔石が付いた木の板のようなものを取り出した。
「これは?」
「教会本部に手紙を送ることができるマジックアイテムです」
「なるほど。ここを登録するついでに聞けます?商会に所属してもいいのか」
「わ、わかりました」
「内容はライル商会が教会と孤児院の経営を支援。寄付やお布施はすべて本部に渡す、ライル商会からは今年から10年は大金貨5枚を毎年寄付する。孤児院の子供達が行える商売を考え、その利益の一部も寄付する。こんな感じでお願いできます?」
「いいんですか?ライル様!虚偽の報告をしてもダメですよ」
ユーアさんはなぜか焦っていた。
「え?本当のことしか言ってないよ」
「え?」
「だって、家あるでしょ。服も今着ているシモンキリーの服をあげるし、食事もうちから提供する。だから寄付とかお布施とか全部渡しても平気なんだよ。それにうちって結構儲けてるから、うちからの寄付も問題ない。孤児院の子供にはいろんな職業を体験してもらうつもりだったし、冒険者向けに屋台とかやっても面白そうだなって今思いついた」
「・・・」
ユーアさんは喋らなくなってしまった。
まあこのシステムが許されれば、孤児の受け入れをもっとしてもいいだろう。
教会本部に多めに資金提供するのも、なんかあったときにシスターユーア達を助けてもらうためだ。
「本当にその内容で平気でしょうか」
「うん。問題ないよ」
「わ、わかりました。すぐに手紙を書いて送ります」
ユーアさんはそういうと紙とペンを出して手紙を書き始めた。




