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306.黒髪の来訪者

「マスター!起きてください」

「え?」

ゴーレに起こされ、外を見るとまだ暗かった。


「ん?どうしたの?」

「アースさんが帰ってきました」

「え?明日会うじゃダメ?」

「いえ。緊急事態だそうです」

「わ、わかった」

俺は[鬼速]を着て、外に出た。


外に出るとアースが居た。

2年前と変わらず渋いおじさんだ。

ただ違うところがあった。

アースは黒髪の女性を抱きかかえていた。


「アース」

「ライルさん!!目覚めたんですね!!」

2年前変わらず、見た目と合わないテンションだった。


「うん。心配かけたね。それでその人は?」

「たぶん私達と同じ世界から来た人です」

「え!?」

黒髪だったので予想は付いていたが、当たっているなんて。


「ポーションなどで回復はさせたのですが、心が少しやられているみたいで」

「わかった。すぐに孤児院に連れて行こう」


俺はゴーレとアースと急いで孤児院に向かった。


▽ ▽ ▽


ナノンとミジュマナに黒髪の女性を任せ、俺とゴーレはアースから話を聞くことにした。


「だいぶヤルク村が変わっていてびっくりしましたよ。それに教会まで出来てるなんて」

「あー街になった」

「え!」

アースは驚いていた。


「そういう話はあとで誰かから聞いてくれ。それであの人はどうしたの?」

「そうでしたね。ちょっと長くなりますが話します」

そう言ってアースは話始めた。


▽ ▽ ▽


アースの話を聞いたが胸糞な内容だった。


アースはタラモーラ共和国を拠点にしていた。

主な活動は人族以外の種族の保護。

隣国のゼネバース皇国はエルフの国を侵略し、獣人の国にちょっかいをかけている。

人族至上主義を掲げ、他種族の違法奴隷を他国に売ったりしている。


アースはこの2年、タラモーラ共和国で活動していた。

エルフや獣人の奴隷を奴隷商人から奪い、奴隷解放を望む者は元の国に帰したり、奴隷のまま暮らしたい者には、タラモーラ共和国の信頼できる奴隷商に預けたり、ライル商会で働きたい人は馬車で何十日もかけてヤルクに連れて行ったりしていたらしい。


ある日ゼネバース皇国が勇者召喚を行ったという情報を得たアースは、現地にいって転移者を保護しようとしていた。

転移者数名が森でモンスター討伐の訓練をすると聞いたアースは森へ入り、転移者を探した。

するとモンスターに殺された兵士と数人の転移者の死体を見つけた。

近くに黒髪の女性が倒れていたため保護をした。


目が覚めたが、何かに怯えて気絶を繰り返す女性。

転移者だし安全に保護できるのはヤルクだと思い、シキを巨大化させて海を渡り12日かけてヤルクに来たとのことだった。


アースはストレスか目の前で人が死んだ影響だと思っていたので、ミジュマナを頼ることにした。


「とりあえず様子見だね」

「ありがとうございます。ライルさん」

アースは頭を下げた。


「でもあの子は本当に転移者?」

「はい。名前が井出綾乃だったので」

「あー完全に日本人だ。まあ今できることもないし、ここは任せて一旦休もう。アースの家もあるし」

「え?家があるんですか?」

「うん。一応ね。年に数回しか来ないって聞いてはいたけど、ライル商会の従業員だしね」

「ライルさん!!」

アースは喜んでいた。


俺はヒューズさんにアースが違う国でいろいろやっているとざっくり聞いていた。

本当はネーミングについて説教するつもりだったが、さすがに後回しだ。


俺はゴーレにアースの案内を頼んで、家に帰った。



▽ ▽ ▽



翌日、俺は起きてすぐ孤児院へ向かった。


庭にナノンが居た。

「昨夜はごめんね。あの子の様子は?」

「何度か目を覚ましたんですが、発狂して気絶を繰り返してました。いまはミジュマナが診てます」

「そうか」

井出綾乃の心の状態は極めて良くないようだ。

何が原因かは確信がないが、たぶん人の死は関係しているだろう。

元の世界も死は当然ある。

だが目の前で人の死を見ることなんて早々ない。

日本なら尚更だ。


「2人には負担をかけちゃうけど、あの子のこと見てあげて」

「はい。任せてください」

ナノンは真剣な表情で言った。


ナノンと話していたらアースがやってきた。

「ライルさん。おはようございます」

「おはよう。アースも彼女が気になって?」

「はい。まあ連れてきた責任もありますしね」

「あの子はこっちに任せてよ。アースには話さないといけないことがあるからさ」

「話すこと?」

俺はアースを連れて、レストランライルに向かった。


▽ ▽ ▽


俺は食事をしながら、アースに目覚めてからのことを話した。

ラドニークさんと会ったこと、危険地域の街を作ること、教会ができてシスターが来ること、国王に謁見すること、王立学園に入学すること。

そして現在、アースは俺の横で正座してる。


「ライルさんが鬼将軍に誇りを持っていると思っていたんです!!!」

アースの悲痛な叫びは朝食を食べに来た従業員達の注目の的だ。


「みんな気にしなくていいからね」

「「「は、はい」」」

俺がそういうとみんなはアースから目を逸らした。


「アースのアドバイスは本当に助かってるんだよ。各部門が嬉しそうに報告をしに来てくれたし」

「ですよね!ライルさんのためにと頑張ったんです」

「だけどさ。こんな幼い俺に鬼って言葉が似合うと思う?」

「はい!いや、その」

俺はアースを睨んだ。


「俺も自分を天使とか思ってはないよ。だけど鬼ではなくない?」

「・・・」

「アースをそんなにビビらせてんだから鬼だろ」

ヒューズさんがやってきた。


「は?」

「なんだ?鬼将軍は鬼将軍だろ?」

「どこがですか?」

「どこがって全部だろ!」

俺はヒューズさんの言ってることが理解できない。


「もう鬼将軍に関しては諦めろよ。俺やガッツやノヴァの雇い主。他の冒険者もランクに合ってない強さ。テイムモンスターは配下を含めたら100を超える。自分を殺しかけた暗殺者を仲間に引き入れる。街はリビングアーマーが警備。これだけで十分だろ」

「いやじゃあライル将軍でしょ!」

「性格」

「は?」

「性格」

「は?ちょっとヒューズさん表出れます?」

「やるか?」

「さすがにイラッと来ました」

「よーし。やろう!」

俺とヒューズさんが立ち上がろうとするとリリアンさんとクララさんがやってきた。


「はいはい。バカなことしないの」

「リーダー!ダメだよー。ご飯抜きにされるよー」

「それにヒューズはライルくんに話があるんでしょ?」

「そうだった!」

「じゃあ一時休戦ですか?」

「そうだな」

ヒューズさんと休戦をし、話を聞くことに。


「危険地域にはいつ行くんだ?」

「シスターと孤児を受け入れた後ですかね」

「そうか。今回は俺達も行く。そろそろガッツと交代してやらないとな」

「なるほど。てか危険地域に行くのは何日かかるんですか?」

「うーん。十数日だな」

「じゃあフリードの本気でも7とか8日か」

出来るだけ街を長い日数離れたくなかった。


「ライルさん!」

いきなりアースが声を出した。

「何!?どうした」

「シキなら4日、いや3日で行けます」

「え?本当?」

「はい。マヌセラから海を移動します。ただ乗れる人数は私を入れて3名でギリギリです。それ以上になると海路は難しくなります」

「なるほどね。ありだな」

俺はアースの案を上手く使えるように考えた。


「よし。シスターと孤児を受け入れたら、俺とアースとセフィーナさんで行こう。到着したら『秘密基地』を使って街を作って、ヒューズさん達が『秘密の通路』で来る!完璧!」

「おお。それは楽でいい!」

「ただ楽に待ってもらうのは腹立つんで、フィンとフォンとエルデオ達を危険地域で戦えるようにしといてもらおうかな」

「当然それくらいはやるけど、腹立つからってやらせんな」

ヒューズさんは笑っていた。


俺はアースさんの正座をやめさせ、食事を続けた。




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