304. 2年ぶりの特訓と鬼合金
今日は学び舎だ。
ずっと修正祭。
2年間溜めていた仕事を処理中に、また新しい仕事が出てきた感覚だ。
学び舎の中ではフォーリアさんがシカの獣人のチェルサに勉強を教えているようだ。
名前は昨日のうちに確認しておいた。
「お疲れ、2人共」
「ライル様!お疲れ様です」
「お疲れ様です!」
「チェルサはどう?」
「覚えが早いので知識に関しては問題ないです。少し練習すれば授業もできるかと思いますよ」
「そう。それはよかった。頑張ってねチェルサ」
「はい!」
チェルサは嬉しそう答えた。
「もしかしたら既に聞いてるかもだけど、教会と孤児院ができたんだ。孤児も20人ほど来るらしいから、勉強を教えてあげてほしい」
「わかりました。今まで通りでいいですか?勉強と戦い方ですか?」
「うーん。悩んでる。ライル商会にはいろんな一流が居るからさ、料理とか鍛冶とかやりたいことを見つけてあげてもいいかなーって思ってる。2人には負担を増やしちゃうけど」
「いえ、素晴らしい考えです。そのようにできるようにしますよ」
「ありがとう」
フォーリアも優秀だ。
本当にライル商会は優秀な人が多い。
▽ ▽ ▽
学び舎を出て、鍛冶屋に向かった。
そこでゴーレ達と合流予定だ。
鍛冶屋の中ではエルデオ達が装備を着ていた。
「おお!いいじゃん」
「ありがとうございます!ガルスタンさんに作っていただけました」
エルデオはごつい鎧で金棒と盾を持っていた。
他のみんなもいい装備を持っている。
「ガルスタン、ありがと」
「いえいえ。ライル様、オラもダンジョンに行ってもいいですか?」
「え?」
「実際に動きを見たいのと、ライル様に装備の説明をしたくて」
「なるほどね。良いよ行こう!」
俺はゴーレにフィンとフォンを呼びに行ってもらい、ライルダンジョンへ向かった。
▽ ▽ ▽
ライルダンジョン地下2階。
俺は特訓用にミノタウロス300体が常にいるように設定した。
俺とゴーレとガルスタンは少し離れたところで座っている。
6人は必死になりながらミノタウロスと戦っている。
ミノタウロスもレベルが上がっているため、なかなか倒すのは大変だろう。
念のため、危なくなったとき用にショーグンには近くに居てもらっている。
フィンとフォンは短剣を2本持ってミノタウロスを攻撃している。
今回の特訓では2人のステータスを同じにした状態で戦うこと命じている。
特殊なスキルだからこそ、基礎能力を上げさせたかった。
「ライル様。あの短剣は熱牙剣と氷爪剣です。マグマタートルの牙とアイスドラゴンの爪で作りました」
「だから傷口がぐちゃぐちゃになってるのか」
ミノタウロスの体に付いた傷は火傷や凍傷になっていた。
「でもあの2人が鬼軍曹シリーズの[鬼熊]を選んだのは驚きましたね」
「[鬼熊]って何特化だっけ?」
「防御ですね。攻撃や魔法は自分達のスキルでどうにでもなるから防御にしたみたいです」
「いい考えだ」
フィンとフォンは頑張って戦っているが、やはり場慣れが足りていない。
もうすでに息が上がっている。
「ショーグン。フィンとフォンを休憩させて」
「承知しました!」
「ゴーレは水分を」
「わかりました」
2人はフィンとフォンの元へ向かった。
向かう途中にいるミノタウロス達を瞬殺していた。
オオカミの獣人ジャボはお酒を飲みながら戦っている。
「あのボトルはガルスタン製?」
「はい。マデリンと作りました。見た目より入る効果だけですが」
ジャボは斧をでたらめに振っているように見えたが、ミノタウロスの急所に的確に当たっている。
斧を投げたり、回転したり、拳をいれたり、不規則な攻撃を続けていた。
「装備はできるだけ軽くしてほしいというので、[鬼継]とミスリル加工したレッドワイバーンの革鎧です」
「武器は?」
「あれはゴーレさんから預かった罪人の首斬り斧をミスリル加工したものです」
ガチャで手に入れた物がしっかり利用されていてよかった。
ロブはみんなとは違うグローブを付けていた。
ミノタウロスを殴ると、拳が当たったところがただれていた。
「ロブは危険地域で弟子が倒したボスバレットアルマジロの革鎧とビッグマグマタートルとキングフレイムベアの革を使った獄熱のグローブを装備してます。ロブのスキルを有効活用できるように作りました」
「いいね。戦いやすそう」
俺がそういうとガルスタンは満足そうにしていた。
エルデオとフゾートの戦いは圧巻だった。
エルデオが盾で攻撃を防いだと思ったら、振り降ろされる巨大な金棒。
フゾートは持っているハンマーを振り回すと、ミノタウロスが吹っ飛んで行った。
ガタイの良さから力は強いと思っていたが、これほどとは思わなかった。
ヒューズさんやガッツさんといい勝負するんじゃないだろうか。
「フゾートの鎧は強度があって薄いのを求めていたのでグリフォンの革で作りました。逆にエルデオが着ている岩漿甲冑は強度を求められたので、ビッグマグマタートルの甲羅で作りました。そして盾はアイスドラゴンの鱗を使っているので強度もあるが軽くて振り回しやすい仕様です」
「武器が気になるなー」
「2人の武器は一番力が入ってます」
ガルスタンは自慢げに言った。
「ライル商会にはライル糸や布のような上質なものがあります。ですが上質な金属がないんです。ミスリルを超える金属がなかったんです」
「それはそうかも」
「なのでオラは過去に使った素材の端材を粉末状にしてミスリルに混ぜ込んでみたんです。するとミスリルより硬い金属ができました。その名も鬼合金です」
「もう鬼は諦めるしかないみたいだね」
俺はつぶやいたが、ガルスタンは話し続ける。
「あまりにも硬くなったためミスリルのように糸状にしたりはできないですが、今回の武器のように硬さを求めた武器にはぴったりの素材です」
「なるほど。2人の武器は鬼合金でできてるってことね」
「はい!エルデオの龍砕棒とフゾートの龍壊の一撃はライル商会にあるどの武器よりも硬いです」
話し終えたガルスタンは満足げにしていた。
▽ ▽ ▽
ミノタウロス狩りは、特訓だけが目的ではなかった。
ブライズさんから聞いたホルモンの在庫切れ、俺もホルモンは好きだ。
なので特訓でミノタウロスを倒しまくってホルモンを出そう。
ついでにタンも。
6人は休憩を取りながら戦い続けてる。
「どう?ゴーレ」
「残念ながらいつものミノタウロス肉と角と皮しかドロップしません」
「そっかーじゃあ上位種か」
俺はコアのある階層に行き、ボスミノタウロスが常に50体出るようにした。
▽ ▽ ▽
ボスミノタウロスとの戦いは劣勢だった。
ショーグンに頼んで、リビングアーマーを呼んで6人のフォローを頼んでいる。
なぜかガルスタンも参戦している。
ゴーレには母さんとナノンを呼びに行ってもらった。
意外と忘れがちだが、母さんは冒険者じゃない従業員で回復能力を持っている唯一の人だった。
最近来たナノンも回復能力があるので今は2人だ。
2人が来るまでは俺の『癒しの風』で対応している。
エルデオ達は大変そうだが何とか戦えているが、フィンとフォンはそろそろ限界みたいだ。
「久々にやってみるか」
俺は集中した。
「ウィンドアロー!ウィンドアロー!ウィンドアロー!ウィンドアロー!ウィンドアロー!ウィンドアロー!ウィンドアロー!ウィンドアロー!ウィンドアロー!ウィンドアロー!」
風の矢がボスミノタウロスを貫いて行く。
威力が上がっている気がする。
複数同時も今のところ大丈夫そうだ。
2年前の戦いで少しは鍛えられたみたいだ。
風魔法で6人とガルスタンのフォローをしつつ、母さん達の到着を待った。
▽ ▽ ▽
ダンジョンの設定をボスミノタウロス50体リスポーンなしにした。
残念ながら違う部位の肉がドロップしない。
「うーん。やっぱりダンジョンじゃドロップしないのか」
ボスミノタウロスが徐々に少なくなっていく。
母さんとナノンは特訓の過酷さに目の当たりにして、心配そうにしていた。
「ライル。大丈夫なのよね?」
「うん。大丈夫。ボスミノタウロスぐらいならショーグンとゴーレが瞬殺するから。それに俺もこの数なら余裕だから」
「ライルってそんなに強いのね」
母さんは俺の戦闘を見たことがなく、みんなの話しか聞いたことがない。
みんながお世辞を言っているとちょっと思っていたらしい。
「そろそろ終わりそうなので、回復をお願い」
「わかったわ」
「わかりました」
母さんとナノンは頷いた。
▽ ▽ ▽
休憩中のフィンとフォンの元へ行く。
「どう?」
「「全然ダメです」」
「まあそうだね。ダメだね」
俺は特訓モードで答えた。
「ヒューズさんとか鬼将軍の強弓に教えてもらってたんじゃないの?スキルを上手く使うのも重要だけど、基礎能力が全然ダメ。鬼将軍の弟子達はもっと多くのモンスターを倒してたよ。生きるために必死だった人が多かったからね」
「「はい・・・」」
「暮らしやすい環境を作ったのが間違いだったかな?」
「「・・・」」
2人は黙ってしまった。
その様子を見た母さんとガルスタンが少し引いてた。
基本的に従業員には優しくする。
だけど特訓の時は厳しくするって決めてる。
何故なら命が掛かっているから。
どれだけ引かれようと俺は貫く。
次はエルデオ達の元に行く。
4人の戦闘に少し気になるところがあった。
「ねー。何してんの?」
「「「「え?」」」」
「俺は君達を買って、奴隷解放して、雇ったんだけど。損させたいの?」
「いえ。そんなつもりは。もう少し早く殲滅できるようにします」
「違う。なんで危険な選択をするの?」
エルデオ達は接近戦メインだが、それにしても自分を犠牲にして敵を倒そうとする感じが見受けられた。
「何なの?まだ奴隷気分なの?それとも嫌がらせ?この街に来て、いろんな人に親切にしてもらったよね?その人達を悲しませたいの?」
「いや、そんなことは・・・」
「冒険者だから自分を犠牲に何かを守ることもあると思う。だけどそれは最終手段だから。その最終手段を使わないための特訓なんだけど、わかってる?」
「「「「はい」」」」
「奴隷気分が抜けないんだったら、全然ライル商会やめてもいいし、獣人の国に帰ってもいいから」
4人はまた黙ってしまった。
でもこれはちゃんと伝えないといけない。
フィンとフォンは死ぬ気が無さすぎる。
エルデオ達は死ぬ気が強すぎる。
これは難しい問題だ。
厳しい言葉をわざと選んだが伝わっただろうか。
まあほぼパワハラ発言だ。
▽ ▽ ▽
クイーンミノタウロスとの戦いはなかなか良かった。
フィンとフォンで1体、エルデオ達は各1体。
俺が厳しくいったところを意識してくれたみたいでよかった。
この方法は一部の人には逆効果になる。
「えーっとフィンとフォンはヤルクダンジョンに挑戦。目標を決めて挑戦すること。目標内容を相談するならマリーナさんかヒューズさんね。最後の戦いは良かったよ。これからも頑張って」
「「はい!頑張ります!」」
フィンとフォンは嬉しそうに返事をした。
「エルデオ達は、個々の強さは問題ない。だけど連携が微妙。まあ連携無くても強いからいいんだけど、やっぱり何があるかわからないからお互いの戦い方をしっかり理解しあって。冒険者登録はしてもらうけど時期は考える。パーティ名は考えておいて!あと、リーダーはエルデオね」
「わかりました」
「「「ありがとうございます!」」」
4人は頭を下げた。
「よーし。もう結構遅い時間だから帰ろう」
俺はみんなを連れて、ダンジョンを出た。




