302.報告会と撤退
食事を終え、ブライズさんと一緒に商人ギルドに向かっていた。
各部門の代表者を集めて、今回のラドニークさんとの謁見についての報告だ。
「はー商人ギルドもすごい変わったね」
「はい。1階は受付、2階は商談室と倉庫、3階が執務室と会議室になってます」
俺はブライズさんに説明をしながら、細かいところを修正していった。
会議室に入ると、みんな集まっているようだった。
ゴーレと父さんと母さん、疾風の斧とノヴァ。
アイザックさんとセフィーナさんとマリーナさん。
酪農部門のハーマンと鍛冶部門のガルスタンとマデリン。
マヌセラからイザッド。
そして村長のローファスさんだ。
俺が席に着くと、みんな席に着いた。
アイザックさんやセフィーナさんは俺を挟んで座った。
「えー。先日、カラッカ領主との謁見について話したいと思います。まずはライル商会についてですが、つまりアイザックさんとセフィーナさんの実家のカラッカ家が後ろ盾になることになりました」
「「「「「「おー」」」」」」
「めんどくさい貴族とかに無理を言われたときに名前を出してもいいみたいです。まあお礼として定期的にうちの商品を送ってあげようと思ってます。内容はアイザックさんとセフィーナさんに都度相談する方向で」
俺が話していると、みんなの表情が歪んでいる。
「ライル。領主様の話をしてるんだよね?」
「はい。領主のラドニークさんの話だよ」
母さんの顔は青ざめ、アイザックさんとセフィーナさんに助けを求めた。
「マイアさん。私も最初は驚いたんですが、お父様とライル様はなぜか仲良くなっていて」
「だ、大丈夫ですよね?」
「大丈夫です。名前もお父様が半ば強制的に呼ばせているみたいですし」
「そうですか・・・」
母さんもセフィーナさんに言われたので納得したようだ。
「あと村についてですが、これはセフィーナさんから言いますか?」
「わかりました。えーヤルク村はヤルクの街になることになりました。本日ライル様が大規模な改造を行ったのは、今後の街造りを考えての改造です」
「「「「「「おおお!!」」」」」
会議室が沸いた。
村長の喜びが物凄かった。
「それに伴って、ローファスさんにはヤルクの街の町長をやってもらいます」
「え!」
元村長は驚いていた。
全然想定内の内容なのに、街になった喜びで想像してなかったようだ。
「えー私じゃなく、ライルがやるべきなのでは」
元村長は申し訳なさそうに俺を見た。
「嫌です。めんどくさいです。村長が町長をやる以外無いです。これは決定事項です。納得してください。町長でライル商会から領主代行館に派遣されてるというややこしい立場は村長にしかできません」
「わ、わかった。やらせてもらいます」
俺は勢いで町長を納得させた。
「えーあと俺から2つあって、1つは危険地域の近辺に街を作ることになりました。それと王立学園に入学して、王様と謁見をすることになりました」
「「「「「「「ええええ!!!」」」」」」」
「詳しくは2人に聞いてください」
俺は喋るのがめんどくさくなり、2人に丸投げをした。
▽ ▽ ▽
結局、俺が最後まで話した。
新しい街の件、王様と謁見の件、王立学園に入学の件、教会にシスターと孤児が来る件。
ちょっとのどが痛い。
危険地域の街造りを考えていると、弟子達の状況か気になった。
「ヒューズさん」
「ん?」
「危険地域に行ってる弟子達はいつ帰ってくるんですか?」
「それなんだが、なかなか帰ってこれないんだ」
「なんでですか」
俺がヒューズさんに問いかけると、マリーナさんが申し訳なさそうな表情をした。
「冒険者が危険地域にあんまり行きたがらないんだ」
「え?」
「モンスターが多いから数日行くだけで、それなりに稼げる。だから懐が寂しくなったら行くところみたいになってる」
「はぁ?」
まさかの理由に俺は少しイラついた。
俺のイラつきに気付いたマリーナさんが口を出す。
「冒険者ギルドから促してはいるんだけど、なかなかうまくいかなくて」
「そうですか。まあいいです。このイラつきをぶつける方法は思いついたんで」
俺がそういうとヒューズさんとマリーナさんが顔を引きつらせた。
「とりあえずカラッカの街からライル商会は手を引きます」
「「「「え!?」」」」
「人員をヤルクと新しい街に使えるし、ビビッて危険地域に行かない冒険者にライル商会の飯や服を楽しませたくない。いくら強いからって、うちの弟子達だけにめんどくさい仕事を押し付けてるみたいな状態は許せない」
大体予想は付いている。
カラッカの街の冒険者は2年で腑抜けた。
大量発生が無くなり、きつい依頼も無いのだろう。
数十日に一度、危険地帯に行くだけで生活できている。
本当に気に食わない。
「アイザックさん!ゴーレ!行きますよ!」
俺は2人を連れて、カラッカに向かった。
▽ ▽ ▽
カラッカに到着した。
アイザックさんにはフィーゴさん達をゴーレにはアルゴット達を呼びに行ってもらった。
数十分経つと、全員が揃った。
「いきなりですが、ライル商会はカラッカの街から撤退します」
「え!」
アイザックさんが声をあげた。
「まず鬼将軍の調理場は移転です。移転先が出来上がるまではヤルクでブライズさんの手伝いをお願いします」
「「はい!」」
アルゴットとフィアダは何も聞かずに返事をした。
「他の店舗で働いている従業員はヤルク勤務に変わります。やることも変わらないと思うので、引き続き頑張って」
「「「はい」」」
人間に変装しているエルフの従業員達も動揺を見せず返事をした。
「じゃあ移動するものがあれば移動をお願いします」
そういうと従業員達は店舗に戻って行った。
「フィーゴさん達も引っ越してほしいんですが」
「え?」
フィーゴさんが一番動揺している。
「アイザックさん。危険地域に街が出来たら商人ギルドは作りますよね」
「作りたいと思ってます」
「そこの責任者は?」
「落ち着くまでは私がやります」
「そのあいだ、ヤルクを管理するのは?」
「なるほど」
アイザックさんは俺の意図を汲んだようだ。
「商人ギルドに確認しますが、ライルさんの考え通りになるようにします」
「ありがとうございます」
アイザックさんは本当に優秀だ。
「フィーゴさん。まだ確定ではないですが、ヤルクに来てください。そこでリーラさんと共に副ギルドマスターとして頑張ってほしいです」
「え!え!」
この家に来てからアルゴットさんは「え」しか言ってない。
「アイザックさん説明は任せました」
「やっておきます。今後、カラッカの商人ギルドに商品を卸すのはどうしますか?」
「ヤルクに来るように言ってください。撤退理由は伝えてもいいです。商会長が冒険者に腹を立てたと」
「わかりました」
俺と話し終わるとアイザックさんはフィーゴさんに説明をし始めた。
▽ ▽ ▽
無事にカラッカから撤退作業が済んだ。
土地も『秘密基地』でいう3マスになり、完全に『秘密の通路』用の家だ。
フィーゴさんも混乱していたが、納得してくれたようだ。
恋人のシェリィと変わらず暮らせるかどうかが心配なだけだったみたいだ。
久々にフィーゴさんと話したが、衝撃の事実が分かった。
フィーゴさんの元実家はソブラ領で暮らしていたようで、当主である父親がソブラの悪事に手を貸していたことが判明し、爵位を剥奪されて捕まったらしい。
兄達も悪事に関与していたことがわかって捕まった。
唯一まともな4男の兄だけは元々王都で仕事をしていて、平民になった今も職場を変えずに生活できているらしい。
その職場が王立学園らしい。
入学した際には話しかけてみようと思う。
「よし!こんなもんで今日は終わり!」
「お疲れさまでした」
「これで冒険者達の意識は変わるかな?」
「どうでしょうか」
俺はゴーレを連れて家へ向かった。




