297.カラッカ領主との謁見①
俺はアイザックさんとセフィーナさんと共に領主の館に来ていた。
「はぁー」
「ため息つかないでください。ここが踏ん張りどころですよ」
セフィーナさんは俺を励ますように言った。
「大丈夫です。父は優しいですし、騎士上がりの人なのでライルさんが思っているような話の通じない貴族じゃないですから」
「なんか無理難題を言われたら助けてくださいよ」
「任せてください」
俺はアイザックさんの言葉に少し救われた。
門を通り、メイドに応接間に案内された。
少し待つと部屋にガタイの良い渋めなおじさんがやってきた。
この人がカラッカ辺境伯だろう。
俺は立ち上がり、頭を下げる。
アイザックさんとセフィーナさんが口を開いた。
「お父様。お久し振りです」
「父上、お久し振りです」
「2人共、わざわざすまないな。それでそこのが?」
「はい。ヤルク村、ライル商会の商会長ライルさんです」
俺はアイザックさんに紹介をされ、口を開いた。
「ライル商会商会長のライルです」
「私がカラッカ辺境伯、ラドニーク・カラッカだ。ライル商会の商会長は本当に子供なんだな」
カラッカ辺境伯は俺をじろじろ見ている。
「まあいい。まずお前達を呼んだのは2年前のソブラの件だ」
「はい」
「ソブラは死んだのか?」
カラッカ辺境伯は俺の目をじっと見ていた。
「はい。私のテイムモンスターとの戦闘中に身体が爆発しました」
「ほーう。身体が爆発したか。他の貴族達のように」
俺達は事前に打ち合わせをしていた。
ソブラと戦ったが、倒したのではなく自滅。
俺が率先して戦ったのではなく、フリードが戦ったことにする。
俺の返答にあまり納得してないのか、カラッカ辺境伯は少し機嫌が悪そうだ。
「まあいい。お前達の暗殺を利用した作戦、そして各街での防衛戦。これは評価に値する。これが褒賞だ、受け取っておけ」
辺境伯がそう言うと、メイドが金貨が入った麻袋を持ってきて俺に渡した。
「ありがとうございます」
俺は褒賞を受け取った。
「話は変わるが、ヤルクの村は街にする。セフィーナ、今後とも頼むな」
「本当ですか!ありがとうございます!」
セフィーナさんは嬉しそうに頭を下げた。
まさかヤルク村が街になるなんて、努力が実ったな。
これからもどんどん発展させるしかないな。
「それとカラッカ家はライル商会の後ろ盾になる」
「後ろ盾?」
「ああ。お前の所の冒険者の力も素晴らしいし、商品も素晴らしいからな。私が求めた時に求めた行動をとるように」
ん?
「今後、商品の販売は当家を必ず通すように」
ん?俺は何を言われてるんだ?
俺が理解に時間がかかっていると、アイザックさんとセフィーナさんが口を挟んだ。
「お父様!そうれはあまりにも!!」
「ライル商会のやり取りは商人ギルドで管理しています。そのようなご命令がなくとも問題ありません」
「子供がやっている商会だ。誰に騙されるかわからない。それに素晴らしい商品、ダンジョンを攻略する武力、お前達だけでは力が足りん!!」
辺境伯は怒鳴るような声でそう言った。
ん?なんだこれ。
こいつ利用しようとしてる?
てか、舐められてる?
俺がそんなことを考えている間、辺境伯と2人は言い争いを続けていた。
「うるさい!商会の話はライルと話す!お前達は退室して一度頭を冷やせ!!」
辺境伯にそう言われ、2人は申し訳なさそうに俺を見た。
「すみません。ライル様」
「申し訳ないです」
さすがに家族だといっても、領主の命令を無視することはできないみたいだ。
2人は俺を心配そうに皆が部屋を出て行った。
うーん。
正直、キレそう。
うちの冒険者の武力が欲しいのか?
それとも商品が欲しいのか?
こいつの本心がまだはっきり見えてこない。
何が狙いだ?
「すまなかったな。まだ2人共未熟でな」
「そんなことはないと思いますけど。あの2人は優秀です。それを見抜けないのはとても残念です」
俺は怒りに任せて返答してしまった。
「ほう。本性はそっちか。その歳で商会長をやってるだけあるな」
「失礼しました」
「ははは。気にするな。お前も大変なんだろ。ここは日本とだいぶ違うらしいからな」
え?何?日本?
俺は辺境伯の本心を探ろうとしていたのに、思わぬ単語に動揺してしまった。
「なんのことでしょうか?」
「誤魔化さんでいい!お前が転生者なのはわかってる。それにソブラはお前が倒したんだろ?」
やばい。やばい。
俺は辺境伯の目を見ることができなかった。
何を知ってるんだ?どこまで知ってるんだ。
「ヤルク村のライル。エクストラスキルを取得後、村が大きく発展。見たことない料理や質の高い服の販売。奴隷制度を好まない性格。人間性はやられたらやり返す性格だが、誠実で優しく従業員にも信頼されている。それで間違いないかヤリネ」
「え?」
辺境伯がそう言うと、部屋の端にヤリネが現れた。
認識阻害か透明になるマジックアイテムでも使ってたみたいだ。
「そうですね。ライル様は元奴隷に信頼されており、ラドニークさんの御子息達にも好かれております」
「だからなんで?」
俺は状況が理解できなかった。
辺境伯は混乱している俺に近づき、肩を掴んだ。
「落ち着けライル」
「ラドニークさん。ふざけすぎです」
▽ ▽ ▽
おかしい。
辺境伯に水分補給を進められ、水分をとっている間にヤリネさんが俺の隣に座っている。
「落ち着きましたか?」
「は、はい」
ヤリネさんは優しい雰囲気で話し出す。
「えーっとですね。まず最初に、私達にも話せないことがあります。そこについては聞かないでもらえると助かります」
「わかりました」
俺は頷いた。
「私とラドニークさんはこの街に転生者が現れることを知っていました。誰だかまではわかっていなかったのですが、私は最初にお会いした時から疑っておりました」
ヤリネさんの話に俺は驚いた。
「決定打になったのは料理です」
「料理?」
「はい。私とラドニークさんは異世界の料理を食べたことがあります」
「え!?」
衝撃の事実だった。
「ラドニークさんはギョウザがお好きでしたよね?」
「ああ。自ら作るぞ」
「私は牛肉が好きです。牛丼も食べたことありますし、ケーキも食べたことあります」
「えーっとそれは、俺以外の転生者がいるってことですか?」
ヤリネさんは首を横に振った。
「転生者は私が知っている限りいません」
「それならなんで料理を?」
「それは私達が信頼している方が転移者なんです」
「転移者!」
アースさんと同じような人がいるのか。
「その方については詳しくはお伝え出来ないですよね、確か」
「ああ。ダメだったはずだ」
ヤリネさんと辺境伯が奇妙なやり取りをしている。
「その者はカラッカを拠点にしている冒険者なんだが、いろんな所に行っては様々な人を救っている。話せるのはこれだけだ」
「わかりました」
「その方から料理をいただいたことがあって、ギョウザ等を知っていたのです」
「理解してきました」
ヤリネさんが優しく説明してくれたおかげで、少しづつ理解ができてきた。
「あと何を話せばいいんだ?」
「えーっと。まず私達は敵ではありません。先ほどラドニークさんの横暴のような発言はおふざけです」
「おふざけ?」
俺は首を傾げた。
「後ろ盾になるのは本当だぞ。あと、めんどくさい貴族から商品を売れと言われたら私を通すように伝えていい。それ以外は今まで通りで構わん」
「まあそういうことです」
先ほどと打って変わって好条件に驚いた。
「ただ私達もお願いごとをする可能性がある。その時は力を貸してほしい」
「それくらいならいいですけど」
「すまない」
辺境伯は頭を下げた。
「ラドニークさんはいつもやりすぎるから。アイザックくんとセフィーナちゃんがかわいそうでしたよ」
「あれは2人の意思と覚悟を確認しただけだ」
先ほどは本当におふざけで横暴な振る舞いをしていたみたいだ。
「意思と覚悟を確認?」
「ああ」
「私達はあなたの手助けをするように言われているんです。ですがラドニークさんは辺境伯、サポートし続けるのは難しい。ですがライル様と仲良くなったお2人なら付きっ切りでサポートができると考えたんです」
「手助けをしろとは誰に言われたんですか?」
「それは言えません」
これは最初に行っていた答えられない事なのか。
「ユイを覚えていますか?」
「はい。覚えています」
「ユイも私達の仲間です」
「え?」
「なので身体を回復させるマジックアイテムをお渡ししたのです」
「なるほど」
「私がマヌセラに行ったのもそれですね」
色々繋がったが、新しい疑問も生まれる。
「えーっとすみません。整理してもいいですか?」
「どうぞ」
「ライル商会はカラッカ家の後ろ盾を得る。貴族絡みのめんどくさいことは丸投げしてもいい」
「ああ。いいぞ」
「カラッカ辺境伯とヤリネさんとユイさんは今後も俺の手助けを?」
「うーん。することになった場合のみですかね」
「わかりました」
多分、指示を出した人間から再び指示があればという感じだろう。
「このことはアイザックさんとセフィーナさんには言ってもいいですか?」
「後ろ盾と条件がだいぶ緩くなったことだけでお願いします。私とラドニークさんがこのような事をしているのをお2人は知りません。なので私がここにいることは内緒でお願いします」
「わかりました」
俺は頷いた。
「えーっとライル。最初のお願いがある」
「な、なんでしょう」
「ワイアット王への謁見と学園に入学だ」
「え!」
「お前が面倒事が嫌いなのは聞いている。しかしこれはどうしても呑んでほしい」
辺境伯は頭を下げる。
「頭をあげてください。わかりました。何かあるんですね?呑みますから!」
「ありがとう。王への謁見は私がしっかり手助けする」
「わかりました」
「あともう一つ」
「え?」
「危険地域近郊に街を作ってくれ。ライルのエクストラスキルならと報告が上がっている」
「いいんですか?それは正直やりたかったです」
「いいのか?土地の購入が条件と聞いたが本当か?」
「はい。てかそんなにバレてるんですか」
俺は自分の情報が洩れていることに恐怖した。
「えー私の奴隷商が抱えている傭兵は隠密が得意なものもいますので」
ヤリネさんは自慢げだった。




