290.従業員達の報告②
「お加減は平気ですか?」
「大丈夫だよ。ありがとうゴーレ」
大人数と起きてすぐに喋った俺の体調を気にしてくれていた。
ゴーレに水をもらう。
飲んでいると父さんとブライズさんが部屋に入ってきた。
「農業部門と食品部門からの報告に来たぞ。ライル、あんまり無理するなよ」
「うん。大丈夫だよ。ありがと」
ブライズさんが心配そう俺の顔を見ている。
「ライル君、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。なんか任せっぱなしですみません」
「いいんだよ!だけどちょっと自分の力不足を感じたかな」
ブライズさんはなぜか悔しそうにしていた。
「何か報告することが?」
「ああ。アースが他国から何種類か植物を持ってきて、それをキーが『採種』をして今育ててる」
「おお!何を?」
「マンゴー・パイナップル・バナナ・バニラってやつだ。果物と豆だな」
「おー!!!!バニラ?」
「バニラは何かに使えるの?まだ料理でうまく使えてなくて」
俺がバニラに反応したのを見たブライズさんがテンション高めに聞いてきた。
「俺も試してみないと何とも言えませんが、多分使えると思います」
「おお!」
ブライズさんは喜んだ。
「あとアースがタラン米という物を持ってきたが、アカ達に頼んでも植えることはできなかった」
「タラン米?米?」
「ああ。前にライルに話したって言ってたぞ」
「確かに聞いた気がします」
前にアースが言っていた、タイ米みたいな米のことだろう。
これが量産できれば料理の幅が広がるはずだ。
多分田んぼじゃないと作れないんだろうな。
『秘密基地』で作れなかったら自分達で作るか?
俺は脳みそをフル稼働させた。
「農業部門からはそんなもんかな」
「僕からは落ち着いたら試作品を作るのをまたみんなでやりたいかな」
「おーいいですね。ぜひやりましょう」
俺がそう言うとブライズさんは嬉しそうに笑った。
▽ ▽ ▽
次は酪農部門のハーマンがやってきた。
なぜか申し訳なさそうにしている。
「どうしたの?」
「ライル様。無事でよかったです。特に報告ということはないんですが」
ハーマンは何か言い淀んでいた。
「もう元気だから、何かあるなら気にせずに言っていいからね」
「本当に大丈夫ですか?」
「うん。あとは成長した身体に慣れるだけだから」
「そうですか。では」
ハーマンは申し訳なさそうに喋りだした。
「あのー、トサカとルビーの配下がなぜか増えていて」
「え?」
「少しでいいので、牛舎と鶏舎を広くしていただきたいのです」
「あーなるほど。増築は問題ないんだけど、増えた原因は?」
「運動をしたいというのでトサカとルビーを何回かライルダンジョンに連れて行ったんです。ダンジョンに行った次の週には必ずと言っていいほど数が増えていて」
「なるほどね。ちょっと気になるね。1度牧場に顔出しに行くよ」
「本当ですか!ありがとうございます。トサカもルビーも『テイム』しているはずなのにわがままばっかりで、ライル様やゴーレさんの前だと大人しいんですが」
トサカとルビーは2年前からわがまま気質ではあった。
ハーマンが頼りないとかではなく、懐きすぎた結果だろう。
▽ ▽ ▽
少し落ち着いたと思ったら大所帯が部屋にやってきた。
母さん率いる裁縫部門とガルスタンとマデリンだ。
みんなライル商会の制服を着ている。
「えーと」
俺が戸惑っているとガルスタンが口を開く。
「ライル様。まずは裁縫部門からの報告です。そのあとオラ達からの報告があります」
「わ、わかった」
ガルスタンはなぜか自信満々でいた。
先ほど言っていた糸関係の話なのだろう。
「じゃあ母さん。眠っている間に何かあった?」
「シモンキリーの服はものすごく人気みたいで、みんなで頑張って作っているわ」
「よかった。デザインとかは増えた?」
俺がそう言うとデザインをいつも担当しているアリソンが一歩前に出た。
「デザインは増えています。アースさんがアドバイスをくれて、主に男性用の服ですが増えています」
「それはよかった!」
「ゴムの使い方のアドバイスもいただいたので頭が上がらないです」
本当にアースは優秀だ。
俺が転移者に求めてることを全部やってくれている。
付き合いは短いが、さすが日本人。
もう俺達を暗殺しようとしたことは完全に水に流す!
「裁縫部門からは以上かな?」
「うん。終わりよ!あとは裁縫部門と鍛冶部門と木工部門からの報告があるわ。ね!ガルスタン」
「はい。マイア様。ここからはマデリンが説明します」
ガルスタンがそういうと、アリソンが1枚の紙を渡してきた。
そしてマデリンが前に出た。
「では説明します」
▽ ▽ ▽
マデリンの話の内容量と勢いで俺は気絶しかけた。
内容は素晴らしい物だった。
ただ問題があるのはアースだ。
アースを見直していたが、これは何らかの罰を与えたくなる。
マデリンの話していた内容は到ってシンプル。
シモン糸とミスリルを混ぜた糸で服を作った。
それを俺が着ている鬼将軍シリーズのようなシリーズにした。
ということだ。
出来上がったシリーズは鬼将軍を入れて4つ。
鬼軍監・鬼軍曹・鬼護だ。
アリソンからもらった紙にはすべてのシリーズの特徴が細かく書いてあった。
鬼軍監シリーズは疾風の斧やガッツさんやノヴァ用の服。
[善童鬼]は身体特化で[妙童鬼]は魔法特化とのことだ。
鬼軍曹シリーズは弟子や巨人達用の服。
[鬼継]攻撃力特化、[鬼熊]防御特化、[鬼上]魔法特化、[鬼助]回復特化、[鬼童]隠密特化らしい。
もうこの段階で俺は覚えるのをやめた。
そして最後は鬼護シリーズ。
これは非戦闘の従業員用の服らしい。
[鬼姫]貴族の女性用、[鬼爵]貴族の男性用、[鬼従]メイド服、[鬼民]従業員用らしい。
しっかりセフィーナさんとアイザックさん用まで作っていた。
それにポーラさんやカレンさんの分も。
別にいいんだけどね。
そしてこの服の素材となっている糸。
その名前はライル糸。
本当にネーミングが気に入らない。
誰が名前を考えたか聞いたら、アースからアドバイスを聞いたらしい。
遠い国の鬼の話だと言ってたらしい。
これは罰です。
アースは俺が鬼将軍と呼ばれていることを喜んでいると思ってるのだろうか。
あと、何でもかんでもライルを付けるのをやめてほしい。
一度ちゃんと話さないといけない。
▽ ▽ ▽
情報量の多さで気絶しかけている俺をゴーレが支えてくれていた。
「ごめんねゴーレ」
「問題ありません。お疲れ様です」
「たぶんあと多くて5組くらい?」
「そうですね。それくらいかと」
「商会長だもんね。2年も眠ってたら報告で1日つぶれるよね」
俺は残りの報告をちゃんと聞くために気合を入れなおした。
部屋に入ってきたのはマヌセラの代表をしてもらっているイザッドだ。
「ライルさん。お身体は?」
「大丈夫だよ。マヌセラはどう?」
「はい。2年前にガスター商会が街に来て被害が少しありましたが、今は完全に復興できています」
「それは良かった。海産物も売れてる?」
「はい。鮮魚は少し増えたぐらいですが、干物や節は相当売れてます。街にも海産物や料理を求めて人が来るようになりました」
「いいね!」
人が来ればお金が回る。
そうすれば住民も豊かになるはずだ。
「モズド夫妻のお店とポレット家のお店はどう?」
「鬼乃屋と海鬼の調理場は毎日満席ですよ!」
「ん?」
俺は嫌な予感がした。
「鬼乃屋とは?」
「え?ああ!そうでした。店の名前が決まったんですよ」
「鬼乃屋と海鬼の調理場が名前?」
「はい!」
イザッドは笑顔で答えた。
それから鬼乃屋と海鬼の調理場の話を詳しく聞いた。
鬼乃屋はモズド夫妻がやっていて、席数が少なくお酒をゆっくり楽しむ人向けのメニュー。
海鮮とおつまみ系がメインのお店。
海鬼の調理場は客席が多くて、いろんなメニューが出て、食事メインでも楽しめる店。
鬼将軍の調理場の姉妹店みたいな感じらしい。
当初言っていたコンセプトとはずれていなかったので安心した。
問題はネーミングだ。
犯人はわかっている。
海鬼の調理場は鬼将軍の調理場があるので、この世界の人なら思いつく。
だが、鬼乃屋は完全にやってる。
日本イズムをものすごく感じる。
徹底的にアースとは話し合わないといけなそうだ。
イザッドから、海の植物が結構多く、コンブやワカメみたいに食べれる方法がないか確認してほしいと言っていたが、今はそれどころではない。
俺は怒りをこらえて次の報告を待った。




