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288.空白の2年

目を開くと見覚えのある天井が見えた。

窓から外を見ると、雪が降っていた。


「あれ?ソブラを倒して、そのあと何したんだっけ?」

寝起きのせいか記憶が曖昧だ。

ベッドから降りて立ち上がると、身体に力が入らなくふらついた。


「あれ?寝すぎた?」

部屋を出ようとすると扉が開いた。


扉の先にはゴーレが立っていた。


「あっ!おはようゴーレ」

「おはようございます!」

「また無理しちゃったよー。どれくらい意識無くなってた?てかみんなは無事?」

「2年と少しです。皆様無事に過ごしております」

「2年と少しかー。え!?!?!?!?2年???????」

「はい。マスターのお目覚めをお待ちしておりました」


ゴーレは俺の手を握った。

握られた手は、俺が知っている手より少し大きくなっていた。


▽ ▽ ▽


普通は2年寝ていたなんて納得できないだろうが、見てわかるレベルで身体が成長していた。

5歳だった俺は7歳になっているようだ。


俺はベッドに腰かけて、ゴーレから話を聞いた。

「ゴーレ。あの日、何があったの?ソブラは倒したはずなんだけど……」

「やはりマスターが倒したのですね。ソブラの死体がなかったので行方不明として扱われています」

「確かに俺が殺したはず」


あの日、神ガチャを引いて剣を当てた。

その剣を使ってソブラにとどめを刺し、身体が消えてなくなった。


「他の場所は大丈夫だったの?」

「はい。無事に防衛できました」


ゴーレはソブラが襲撃してきた日の事を細かく話してくれた。


ヤルク村はクララさんと鬼将軍の弟子達が完全防衛。

指揮をとっていた元商人ギルド職員のグリモスと協力していた冒険者は逮捕。


マヌセラはリリアンさんと海獣の高波が防衛。

街に被害は少し出たが、無事防衛。

指揮をとっていたメーサルは例のマジックアイテムで魔力を身体に入れて暴れ回ったが、リリアンさんとの戦闘中に身体が弾け飛び、死亡。

メーサルと共に襲撃をしてきたガスター商会の人間達は逮捕。


ササントはガッツさんとライムが防衛。

ガスターのエクストラスキルで操られていたソブラ領の領民は、多少怪我をした者もいたが無事に保護。

指揮をとっていたガスターは、メーサルと同じく例のマジックアイテムを使用して死亡。


カラッカでは十数人の死亡者がでた。

襲撃してきた貴族と戦っていた冒険者とカラッカの警備隊が被害にあった。

黄盾騎士団のオステオさんが使っていたエクストラスキルが無ければ、街の被害は相当なものになっていたらしい。

襲撃者は戦闘後、急に爆散し逮捕できた人はいない。

ソブラも死体がないため行方不明にはなっているが、第2王女と第3王女の証言から襲撃の主犯で他の襲撃者と同じように爆散したと思われている。


ソブラは他の襲撃者と違い、意識がはっきりしていた。

俺が倒さなかったら、爆散せずにカラッカを攻め続けていたかもしれない。

俺ができる最適な行動だったはずだ。


「でも被害無しとはいかなかったか・・・」

もしかしたらもっといい方法があったかもしれない。

俺は被害者達のことを思い、少し落ち込んだ。



「あと、報告しなくてはいけないことがあります」

「ん?」

「帝国についてです」

「あ!そういえば」


帝国はソブラと協力していて、襲撃に合わせて進軍していた。

その対応にゴーレとヒューズさんとアースが国境へ向かったはず。


「実は帝国は一切攻め込んできませんでした」

「え?なんで?」

「わかりません。それに私にも説明ができないことが起きました」

「ゴーレが説明できないこと?」

「はい。私とヒューズ殿とアースは国境に向かい、カラッカの兵と冒険者と合流して防衛をする準備をしていました」

「うん」

「ですがいくら待ってもダラーガ帝国の兵士は来ず、偽の情報を掴まされたんじゃないかと思っていたその時、爆発音がダラーガ帝国の方角から鳴り響いてきました」

「ん?え?」

「後の調査で分かったのですが、ソブラがカラッカに攻め込んできた時と同時刻にダラーガ帝国で大規模な戦闘が起きていたようです」

「どういうこと?」

「わかりません。ですが大規模戦闘の影響でダラーガ帝国の土地の一部は消滅しました」

「は?ごめん。マジで訳が分からない」

俺はゴーレの話についていけなかった。


「私達もわかっていません。ただダラーガ帝国の領地は3分の1が消滅しました」

「そんなことが……」

寝ている間に、大事件が起きていた。


「誰と戦っていたかもわからない?」

「はい。情報を探ってみましたが、わかりませんでした」

まさかすぎて頭が追い付かなかった。


「ダラーガ帝国は大陸が消滅したせいで島国になり、大陸側に残っている土地で人が暮らせる土地はワイアット王国とゼンドー教国が半分ずつ管理することになりました」

「大陸が島国になるレベルの攻撃が使われたってこと?」

「はい。消滅の原因は大規模な魔法とのことです。その魔法の余波が残っている土地はダンジョンやモンスターが大量に発生し、人が暮らすことができなくなりました。その危険地域はワイアット王国もゼンドー教国も管理をすることができない無法地帯になっています」

「はぁー。なんか想像以上すぎるよ」

理解することだけに頭を使っているはずなのに、全然理解ができなかった。


「新たに管理することになった土地はカラッカ領ということになりました。なので境界近辺のモンスターの討伐やダンジョン攻略をライル商会の冒険者達は積極的に行っております」

「なるほど。何となく理解した。ありがとうゴーレ」

「いえ。その他のことに関しては、担当の方に直接聞いていただくのが良いと思います」


ゴーレの話を聞き終わり、一息ついていると部屋の扉が開いた。

「「ライル!!」」

入ってきたのは父さんと母さんだった。


「あっ!」

俺の返答も聞かずに、父さんと母さんは抱きしめてくれた。

「本当に心配したんだぞ!」

「そうよ。あなたが居なくなったら、私達はどうなるの!」

そう言いながら2人は泣いていた。

だいぶ心配をかけてしまったみたいだ。

ずっと眠っていたせいかあまりピンと来てはいなかったが、2人を見て俺まで泣いてしまった。


「ごめんなさい。心配かけて」

「本当だぞお前!」

「心配したんだから!」


家族を楽させるために色々頑張ってきたけど、2人を泣かせてしまうのは本末転倒だな。

今後は色々配慮をしないといけない。

俺は改めて、家族や仲間のためにやれることをやっていこうと決意した。


俺達はそのまま1時間程泣き続けた。


▽ ▽ ▽


両親との涙の再会を終わり、2人はライル商会の他の人を呼びに行った。


俺の体調を気遣ってか、少人数ずつ呼んでくれるみたいだ。

みんな、俺が目覚めるのを待っていたらしい。

見舞いも毎日誰かしらが訪れていたようだ。

そんなことを聞くと少し照れ臭いが、本当にうれしかった。


「そういえばゴーレが俺を助けてくれたの?」

「はい。帝国の兵が現れなかったので、私とヒューズ殿はカラッカに向かっていたのです」

「そうなんだ」

「ボロボロで倒れているマスターを見つけてカラッカの家まで運び、緊急事態だとおもったので、以前ユイという冒険者に渡されたというマジックアイテムを使用しました」

「マジックアイテムってあれか」

俺はユイに渡された繭のようなマジックアイテムを思い出した。


「そういえばユイについてヤリネに話を聞かないとな」

「そうですね。あとマスターを見つけた時にこちらも回収したのですが」

そう言いながらゴーレはマジックバックから大鎌を取り出した。


「それはソブラが使っていた大鎌!どこにあったの?」

「マスターが倒れていた場所の近くにありましたので回収しておきました」

大鎌は禍々しいオーラを放っていた。

俺は大鎌を鑑定してみた。


○魔鎌ベノサブーム

 悪魔の武器。

 武器が使用者を選び、使用者の思いが能力に影響する。


「悪魔の武器か」

俺は悪魔という文字を不穏に思い、マジックバックで眠らせておくことを決めた。


「そういえばソブラとの戦いでレベルは上がったのか?」

俺は自分のステータスを見た。

「は?マジかよ」


レベルはそれなりに上がっていた。

ステータスも上がっていた。

しかし『ガチャ』の文字の横に[聖剣のペナルティにより使用停止中]と書かれていた。


「聖剣?てか『ガチャ』が使えない!消えてないし停止ってことは復活するんですよね業者さん!」

ソブラを倒した剣が聖剣だということがだいぶ薄まるくらいには、『ガチャ』が使えなくなったことが俺にとっては死活問題だった。

俺は今後どうすればいいかを悩みながらベッドで藻掻き続けた。


そんな俺の姿を見ているゴーレの表情は微笑んでいるように見えた。




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