273.死亡準備②
俺はゴーレがマヌセラで拾ったマジックバッグをみんなに渡し忘れているのに気付いた。
そして魔力を卵に入れる装置と大量の注射器のようなものをヒューズさん達に共有し忘れていた。
マジックバッグは8つ。
ショルダーバッグは1つ俺が使っているので、残り2つをニーナとアメリアに。
巾着型はゴーレとエルフのナーリアと獣人のベラとネネに。
リュック型はチャールズ兄に渡すことにした。
元々俺が使っていたマジックバッグとゴーレ・ニーナ・アメリアが使っていたマジックバッグはブライズさん・父さん・母さん・ガルスタンに渡すことにした。
俺はゴーレにマジックバッグの受け渡しを任せ、ヒューズさんの所へ向かった。
▽ ▽ ▽
「ヒューズさん!」
ヒューズさんは学び舎の庭で筋トレをしていた。
「おお。なんかいい装備してるな」
「ガルスタンに作ってもらいました」
「いいな。俺も頼んでみるかな」
ヒューズさんは逆立ち腕立てをしながら話していた。
「あのーマヌセラでゴーレが拾ったマジックバッグに怪しいものが入ってて……」
「怪しいもの?」
ヒューズさんの顔が歪んだ。
「これなんですけど」
俺はマジックバッグから、注射器とノズルが付いたタンクのようなものを取り出した。
「たぶん卵に魔力を入れるマジックアイテムだと思うんですよね」
ヒューズさんは注射器を手に取った。
「ああ。そうだ」
「知ってるんですか?」
「昔見たことがある。それにマヌセラで…」
ヒューズさんは停止した。
「どうしました?」
「いや、なんでもない。昔同じようなマジックアイテムを見たことがある。タンクは知らないが、こっちの小さい方は人に魔力を入れるマジックアイテムだ」
「人に?」
「ああ。ガボガ達が暴れたのもこれが原因だろ」
「なるほど」
俺が報告し忘れていた物はなかなか危ない代物だったようだ。
「アースに伝えておけ、ソブラに潜入してこれを見つけたら破壊か回収しろと」
「わかりました!」
俺はヒューズさんにマグマタートルのブーツを渡し、その場を後にした。
▽ ▽ ▽
俺はアースに会うために冒険者ギルドに来た。
冒険者ギルドに入ると、マリーナさんに話しかけられた。
「ライルくん。ちょっといい?」
「はい。どうしました?」
「ギルドの部屋って増やせる?」
「それは全然問題ないんですけど、どうしてですか?」
「揉め事を起こした冒険者を入れておくところが無くなってきてて」
「ああ。なるほど」
俺は自分のステータスを見た。
『小屋作成』に牢屋があった。
使ってないポイントが2ポイントあったので、牢屋を選択した。
「うーん。ギルドの地下とかにこれ作れるのかな」
ディスプレイをいじってみると作れそうな雰囲気だ。
もし冒険者ギルドが壊れても作り直せばいいだろう。
バッフン!
冒険者ギルドは壊れていない。
たぶん牢屋もできているだろう。
「マリーナさん。地下に牢屋作ったんですけど、牢屋の入り口とつながってないので少し改造してもいいですか」
「え?いいけど、もう作ったの?」
「はい。ちょっといじりますね」
俺は牢屋と冒険者ギルドの1階をつないだ。
中に入ってみると1体のゴーレムが居た。
「えーっと君は?」
「ジェイラーゴーレムエリートのムズリです」
「ここの管理をしてくれるゴーレムってことだよね」
「その通りです」
「ちょっと待ってて!ここの担当者を呼んでくるから」
俺はマリーナさんを呼びに行った。
マリーナさんは牢屋を見て驚いていた。
「ライルくん。ありがたいけど、やりすぎ!」
「すみません。とりあえず、ここを管理するゴーレムがいるので紹介しますね」
「管理もしてくれるの?」
「みたいです。細かい話は今から聞きましょう」
「わかったわ」
俺とマリーナさんはムズリの元に向かった。
「ムズリ、この牢屋の上にある冒険者ギルドマスターのマリーナさん」
「ムズリです。よろしくお願いします」
「よ、よろしくね」
「俺がここに携わることは少ないと思うから、基本はマリーナさんの指示で動いてほしい」
「わかりました」
ムズリは頭を下げた。
「この牢屋の説明をしてくれる?」
「はい。この牢屋の部屋数は現在最大100まで増やせます。牢屋を大きくすればもっと部屋数が増やせます」
「おーすごい」
「そして部屋ごとにグレードを変更できます」
「グレード?」
俺は首を傾げた。
「はい。グレードはS・A・B・Cの4つです。BとCは普通の牢屋です。Cが大部屋でBが一人部屋です。Aは普通の宿屋のような部屋です。牢屋に入れるほどではないが捕まえておく必要がある人などを入れる部屋です」
「それじゃ、Sは高級ホテル?」
ムズリは首を横に振った。
「いえ。Sは暗闇で身動きを完全に拘束する、危険人物用の部屋です」
「なるほど……」
そんな危険人物を入れるようなことが起きないことを願う。
「この牢屋に入るものは、まずこの手錠を付けてもらいます」
ムズリは手錠を取り出した。
「こちらはスキルや魔法が使えなくなり、身体能力の90パーセントマイナスさせます」
「すごいな。それって外で使える?」
「いえ。外では使えません」
「そうだよねー」
中々凄いアイテムだったので1つもらおうと思ったが無理そうだ。
「囚人の服はこちらで用意したものに着替えさせることもできます。食事は材料を与えていただければこちらで必要最低限の栄養が入ったものを与えます」
「人道に反することはしないってこと?」
「はい。ジェイラーゴーレムが24時間体制で管理するので問題ありません」
とりあえず虐待や体罰などは行われないで済みそうだ。
「マリーナさん。うまく使えそうですか?」
「うん。たぶん平気。凄すぎてちゃんと使えるか心配なだけ」
マリーナさんは牢屋を隅々まで見ていた。
「じゃあすぐに今捕まえている冒険者達を連れてくるわね」
「気を付けてくださいね!リビングアーマーに頼んでくださいよ」
「わかってる」
そういってマリーナさんは牢屋から出て行った。
▽ ▽ ▽
そして俺は目的のアースの元へ行った。
アース達は今までと変わらず部屋で軟禁ということになった。
部屋にはアースと2人の獣人が居た。
2人の猫の獣人で、コティとベボンという名前だ。
「アース。お願いがあるんだけど」
「なんですか?」
俺はマジックバッグからタンクと注射器を取り出した。
「潜入中にこれと同じものがあったら、破壊か回収をお願いしたい」
「いいですが、これは何ですか?注射器みたいですが」
アースは注射器を眺めながら言った。
「卵に魔力を入れ込むマジックアイテムと人に魔力を入れるマジックアイテムっぽい」
「そんなものが?」
「うん。悪用されると危険だから、見つけたらお願い」
「わかりました」
アースは頷いた。
「そういえば、アース達はササントに一緒に行くのでいいんだよね?」
「はい。明々後日、秘密の通路というのを使わせてもらってササントに行き、そこから徒歩でソブラに向かいます」
「了解。無理だけはしないでくれよ」
「わかっています。何か情報を得たら、シキを使って伝えますので」
「うん。リリアンさんかクララさんに伝えてくれれば問題ない。俺達はゴーレから伝わるから」
「わかりました」
俺はアースと少し話し、冒険者ギルドを後にした。




