271.アイリーン王女襲来
いきなり現れた王女に驚いたセフィーナさんとアイザックさんはすぐに立ち上がった。
「王女殿下、どうしたんですか?なぜここに?」
「雷虎の拳にササントのダンジョン攻略の許可が出たことを伝えに来たの」
「お、お二人でですか?」
セフィーナさんはオステオさんを見た。
「申し訳ありません。大所帯で移動するのはできるだけ避けたく、アイリーン様と私だけです」
「王都に帰る際に襲撃にあったのに、2人で村までくるなんて」
「いいの!お姉様にはカラッカで待ってもらっているし、何の問題もないわ」
アイリーン様は自信満々にそういうが、オステオさんは呆れた顔をしていた。
「セフィーナ様、申し訳ないのですがアイリーン様に食事をさせてもらえないでしょうか?」
「だ、大丈夫ですよ。問題ないですよねライル様?」
セフィーナさんが俺に問いかけた。
その瞬間、王女が大声をあげた。
「ライル?あなたがライル商会のライルなの?本当に私より年下なのね」
「「あっ……」」
俺の名前を呼んでしまったことにセフィーナさんとアイザックさんの顔が青ざめた。
俺は腹をくくった。
「お初にお目にかかります、王女殿下。ライル商会商会長のライルです」
「この歳でこんなに素晴らしい商品をいっぱい出してるなんて…。素晴らしい才能ですわ!私に仕えませんか?」
王女の誘いが聞こえるか聞こえないかぐらいのタイミングでセフィーナさんが間に入ってきた。
「王女殿下!いま食事を用意いたしますので、あちらの席でお待ちください」
「あ、ああそう。では座って待つことにしますわ」
セフィーナさんは遠くのテーブルに王女とオステオさんを案内した。
「ブライズさん。とりあえず料理お願い」
「わかった」
ブライズさんは普通に料理を作り始めたが、他の料理人たちはボーっとしている。
初めて王族を目の当りにしたらそうなるのだろう。
そう考えると弟子達が物怖じしなかったのはすごいな。
セフィーナさんは王女の話し相手としてテーブルについている。
アイザックさんは申し訳なさそうに近づいてきた。
「ライルさん。本当に申し訳ありません」
「まあいいですよ。しょうがないですし、いつかは出会ってしまってたはずです」
「それで、これからどうしますか?」
俺は悩んだ。
「ガッツさんとヒューズさんも王女に挨拶に行くタイミングを探ってます。たぶんライルさんの指示が必要かと」
2人を見ると、俺の方を見ていた。
「わかりました。アイザックさん。ヒューズさんとガッツさんとアースを連れて王女の所に行きましょう」
「え?」
「すべて話して、作戦を飲んでもらいましょう」
「わ、わかりました」
アイザックさんはひやひやしている。
俺は再度腹をくくった。
▽ ▽ ▽
俺はヒューズさん達を引き連れて、食事が終わった王女の元に向かった。
「王女殿下。お話をさせていただいてもよろしいですか?」
「ライルですか。話とはなんです?」
王女は食事に満足したのか、ニコニコで対応した。
「ここ最近、ヤルク村で冒険者が揉め事を起こすようになりました」
「そうなの?セフィーナ」
「はい」
セフィーナさんは頷いた。
「揉めた冒険者達は冒険者ギルドで捕縛しております」
「それで?その報告だけじゃないんですよね?」
「はい。先日、私とヒューズとガッツが暗殺されかけました」
「「え!」」
王女とオステオさんは驚いていた。
「その犯人が私の後ろにいるアースです。依頼主に騙されていたことを知り、ライル商会で預かることにしました」
オステオさんは剣をいつでも抜けるようにしている。
「本当にそこのアースというものは問題ないのですか?」
「はい。大丈夫です。何かあればライル商会が罰を受けます」
「わかりました。一旦信じましょう」
オステオさんは剣から手を離した。
「それでここからが重要なのですが、アースに依頼をしたのがソブラ領主、手引きしたのがガスター商会ということがわかりました。今まで捕まえた冒険者やアースからの情報で、ササントやマヌセラでの計画を妨害したライル商会を標的に嫌がらせの依頼を数十人の冒険者にしていることがわかりました」
「なるほど……」
王女は黙った。
「そこで私はこのカラッカとソブラの因縁に終止符を打ちたいと思っております」
「何をするつもりですか?」
「私とヒューズとガッツはアースに殺されたことにします。ソブラ領主は好機と思い、カラッカを全力でつぶしに来るはずです。そこを叩きます」
「アースをソブラ領に送り込んで、情報を得るということですね」
「その通りです」
王女は多少頭がキレる人のようだ。
「わかりました。協力しましょう」
「ありがとうございます!」
「ガスター商会の者を護送中の私達を襲撃してくるくらいです。ソブラもなりふり構わずになってるのでしょう」
「そうだと思います」
王女は俺の顔をジーっと見た。
「本当に年下には思えませんね」
「ははは。よく言われます」
「それでライル。どのような布陣を考えているのですか?」
俺は会議で決めた話を伝えた。
しかし秘密の通路の話を伏せてだったので各方面手薄な説明になってしまった。
「わかりました。ライル商会は村とササントとマヌセラだけで大丈夫です。カラッカはカラッカの冒険者と私達で対処します」
「いいんですか?」
「大丈夫です。オステオが居ます。防衛なら任せてください」
オステオさんは頷いた。
「襲撃の際はうまくいかなかったが、防衛戦なら任せてほしい」
「わかりました」
「それにお姉様も居ますしね」
「「アイリーン様!」」
セフィーナさんとオステオさんが慌てたように王女を止める。
「あっ!侍女でしたわ。変な言い間違いをしてしまいましたわ」
第2王女が侍女に変装していたのを隠したいみたいだが、ペラペラしゃべりすぎだ。
てか店に入ってきた時も、「お姉さまが」って言っちゃってたし。
俺は気付いてないふりをして話を進めた。
「それでライル達はどこで身をひそめるのですか?」
「先ほどダンジョンの攻略の許可を伝えに来たとおっしゃっていましたよね?なので私達は動きがあるまで3人でダンジョン攻略を目指します」
「3人で平気なのですか?」
王女は心配そうに見つめてきた。
「はい。ヒューズもガッツも優秀な冒険者なので」
「そうですね」
やはり2人はそれなりに有名なようだ。
王女も納得してくれた。
「では4日後、私達が死んだという情報を流します」
「わかりました」
王女が村に襲来してくれたおかげで王女公認の作戦になった。
「では私達は明日カラッカに戻ります」
王女がそういうとセフィーナさんが口を開いた。
「王女殿下。お願いがあるのですが?」
「王女殿下?」
王女はセフィーナさんをジーっと見る。
「えー。アイリーン。お願いがあるの」
「なに?セフィーナ?」
「お父様と冒険者ギルドマスターと商人ギルドマスターにもアイリーンから伝えてくれる?」
王女は笑顔で頷いた。
「いいわ。セフィーナからのお願いなら何でも聞くわ!私達お友達でしょ」
「ありがとう」
セフィーナさんは王女を王女として扱いたいみたいだが、アイリーンさんはセフィーナさんと友達として接していきたいみたいだ。
俺にはわからない地位の格差みたいなものがあるみたいだな。
「では学生時代を思い出して、あれを渡しときますね」
王女はセフィーナさんのつけているネックレスに触れた。
「え?まさか?」
ネックレスは光った。
「これでセフィーナとの通信ができますね。何かあったら連絡してきてください。使い方は覚えていますよね」
「は、はい」
たぶん何かスキルを使ったのだろう。
「では今日は休ませていただきましょうか」
「わかりました。領主代行館へご案内いたします」
王女は黙ってセフィーナさんを見た。
「えーっと、アイリーン。うちへ案内するわ」
「お願いね。今日は一緒のベッドで寝ましょうね。オステオはここでお酒でも飲んでてください」
「え!は、はい」
「あ、アイリーン様!」
そういうとセフィーナさんと王女はレストランを出て行った。
「はぁー。とんだわがまま王女だ」
オステオさんはため息をついた。
俺達は置いて行かれたオステオさんと共にワインの試飲を続けた。
オステオさんとは遠征で少し関わったが、イメージがガラッと変わった。
「いやーうまいワインだ!こんなの王都にもないぞ。なーガッツ」
「そうですね」
ガッツさんは酔ったオステオさんに完全に捕まっていた。
一応俺も付き合っている。
ヒューズさんも一応オステオさんとは顔見知りらしいが、国や領からの依頼を多く受けていたガッツさんほどは親しくないらしい。
「オステオさん。そういえば襲撃はなんで防げなかったんだ?」
「ああ。それは俺のスキルがまず使えないだろ?」
「使えない?」
オステオさんは半分開いていない目で俺を見る。
「俺のスキルは動いていると発動しないんだよ」
「なるほど」
「それに守るべき対象が多すぎた」
「それは……」
俺達は聞こえないふりをした。
「それにしてもライルは、遠征の時の料理人のライに似てるな」
「ははは。よく言われます」
いつかはポゼッションドールの話もしないといけない。
「それにしてもアイリーン様には困ったものだよ……」
オステオさんは愚痴り始めた。
「どうしたんですか?」
「小さいころからお転婆なのは知っていたが、遠征を率いたりするなんて。最初はセフィーナ様に会いに来ただけなのにな」
「そうなんですね」
「根が良いんだよ。小さい頃から曲がったことは許せないし、困ってる人は見逃せない。カラッカの現状を知った瞬間から王族としての使命感で動いているんだよ」
愚痴ってはいるもののオステオさんの言葉にはどこか愛情が感じられた。
「学園でできた友達と離れ離れになってしまって落ち込んでたんだ。でもセフィーナ様がこの村の領主代行として働いてると聞いてすごく喜んでたんだ。すぐに会いに行くと言い出したアイリーン様を俺は止めることはできなかった」
オステオさんは嬉しそうに語った。
「アリーシャ様のおかげでカラッカまで行く許可は下りたが、まさかこんなことに巻き込まれてしまうなんてな」
アリーシャは第2王女のことだろう。
オステオさんはワインを飲み干した。
「柄にもなくいろいろ喋ってしまった。俺もそろそろ寝ようと思う」
「わかりました。私が案内します」
そういってアイザックさんはオステオさんを連れて行った。




