269.ソブラ対策会議
ヒューズさんとガッツさんの尋問も終わった。
3人の発言にズレはなかった。
アースを信じてもいいだろ。
俺的に一番信用できる要素は、あのギャップというか変貌ぶりだ。
戦闘中はミステリアスなおじさん暗殺者だったのに、
自分の間違いが露呈した瞬間のあの情けない姿。
完全に元の世界と行き来するだけでよかったのに、この世界で生活することを決めたということは、ロールプレイが結構好きなのだろう。
俺はライル商会の主要メンバーとアイザックさんとセフィーナさんを集めた。
今後についての会議というか、報告会だ。
「今日は昨日起きた襲撃事件についての報告と今後の対応について話します」
「「「襲撃!?」」」
みんなは襲撃と聞いて驚いている。
「俺とヒューズさんとガッツさんの命が狙われました」
「そ、それで犯人は?」
マリーナさんが問いかけてきた。
「えーそれでは登場していただきます。今回の襲撃犯、アースさん率いる冒険者パーティ【夜闇の影】のみなさんです。ソブラ領主からの依頼、ガスター商会の手引きらしいですー」
俺の言葉に合わせて、夜闇の影が部屋に入ってくる。
とても気まずそうだ。
「これからライル商会所属の冒険者になりますので、みんな仲良くしてね」
「「「「「「「「「えーーー!!!」」」」」」」」
会議室に驚きの声が響き渡る。
アイザックさんが口を開いた。
「いいんですか?暗殺者を仲間に入れて。というか信用できるんですか?」
「アースさんは騙されていたみたいなんで。根はエルフや獣人の差別や迫害が無くなるために暗殺業をしていたようです」
「で、ですが!」
アイザックさんは引かなかった。
「うーん。まあ信用できないですよね」
みんなは頷いた。
「アース。どうする?」
俺は急にアースに振った。
「え?あ!えーっと、ほんとすみません」
アースは頭を下げた。
みんなはアースの見た目と暗殺者という情報とはかけ離れたリアクションに戸惑っていた。
「戦闘中はかっこよかったのよ。でも自分が完全に間違ったってわかってからはこんなかんじ」
「ほんとすみません」
アースは頭を下げ続けた。
なんか日本人っぽさをものすごく感じた。
「みんなが納得しないのなら、領主に引き渡すか殺すかしてもいいんだけどさ、せっかく敵だった人を味方にできるんだよ?」
「どういうことですか?」
セフィーナさんは問いかけた。
「俺とヒューズさんとガッツさんが死んだことにして、相手の懐にアース達を入れて情報をもらった方がやりやすくない?」
「なるほど……」
主要メンバーの大人達は悩んでいる。
対照的に子供達はぽかんとしていた。
「俺とヒューズさんとガッツさんは死んだことにします!」
「死んだことっていうのは?具体的には?」
「言葉の通りですよ。セフィーナさんとアイザックさんとマリーナさんには各方面に俺達が殺されたと報告を入れてもらいます」
「「「え!」」」
3人は嫌な予感がしたのか、苦虫をつぶしたような顔をしている。
「それは領主やギルドマスターや王女に嘘の報告をしろと?」
「まあそうなりますね」
「ライルさん。それはさすがに…」
「じゃあ偉い人にはこの作戦を伝えていいですよ。さすがに偉い人達もこの嫌がらせを早く終わらせたいでしょ」
「そうですね…」
「止められても実行しちゃうんで、止められそうになったら頑張って言いくるめてくださいね」
「「「わ、わかりました」」」
3人はしぶしぶ納得した。
「そしてカラッカの店舗はいったん閉店。従業員が狙われたら困るから村に集めます」
俺がそういうとノヴァが口を開いた。
「マヌセラはどうする?」
「マヌセラは海獣の高波と雷獣の拳の2人、そしてリリアンさんに防衛と復旧をお願いします」
「わかった」
「前みたいに海からの嫌がらせがあるかもしれないから、それ注意して」
「了解!」
ノヴァは納得したようだ。
「村の防衛はクララさんと鬼将軍の弟子達に任せます」
「それは問題ないんだけど、ライルくん達はどうするの?」
リリアンさんが問いかけた。
「うーん。ポゼッションドールを使って、ソブラにでも乗り込みましょうかね?」
俺がそういうとヒューズさんが答えた。
「情報収集くらいはしといたほうがいいかもな」
「そうですね。情報取集後にソブラに乗り込む方向で」
俺らのやることも確定した。
セフィーナさんが手をあげ、口を開く。
「ライル様、最終的にどうするおつもりですか?」
「たぶんだけど、ソブラはヒューズさんとガッツさんが死んだと思ったら好機って考えると思う。そうしたら全勢力をカラッカに向けてくるはず」
「その可能性はありますね」
「それで狙われる可能性があるのは、まだ整備ができてないマヌセラとソブラに一番近いササント。マヌセラはリリアンさん達、ササントは村にいるクララさん達が秘密の通路で移動すれば対応できるはず。カラッカが襲われる場合も同じように対応ができるはずです。それにアースが前もって情報を俺達に伝えてくれたら対応が遅れることはない。襲撃してきた奴らを捕まえて、確実な証拠としてソブラにぶつけてやろうと思っている」
「わかりました。ありがとうございます。お父様や王女にもこの作戦を伝えれば納得してくれるはずです」
セフィーナさんは頭を下げた。
「じゃあみなさん。4日後、俺達が死んだ情報を流すように動き出してください」
「「「「「「「はい!」」」」」」
無事会議は終了した。
帰ろうとすると、ブライズさんが話しかけてきた。
「ライルくん」
「どうしました?」
「今日の夜にでもあの3人に新作を食べさせてあげてもいいかな?今後大変になりそうだし」
ブライズさんはセフィーナさんとアイザックさんとマリーナさんを指差した。
「それがいいかもしれませんね。ついでにアースもしっかり料理で懐柔しておくか」
「え?なんか言った?」
「いや、こっちの話です。わかりました!3人は閉店後にレストランに来るように伝えておきます」
ブライズさんの提案で今晩3人を労う会が行われることになった。
「そろそろ報酬もあげないとだしなー」




