263.出汁革命
俺は厨房に入り、みんなはカウンターに座った。
「これはすごいですよ」
俺の新作に期待しているのか、みんな覗き込んでいる。
「この液体はなんだい?」
「いい香りがします」
「ん?魚介っぽいな」
各々予想を漏らしていた。
「まずこの4つの液体を味わって飲んでみてください」
俺がそういうとワーとヨーが4つの液体を小分けにして、みんなに配った。
ブライズさんが1つ目を飲む。
「ん?これはシイタケかい?」
「はい。乾燥させたシイタケで出汁を取りました」
「出汁?」
「肉や野菜を煮込むと煮汁に旨味が出るでしょ」
「うん」
「同じ原理だと思う」
「なるほど……。ということは残り3つも?」
「うん。マヌセラで釣れたアングリーツッオとジャギドシビーを節に加工して、それを削って旨味を出したんだ」
「節?」
「節はこれ」
ワーがツッオ節とシビー節を持ってきた。
俺はみんなにツッオ節とシビー節を渡した。
「これが魚?」
「うん。マジックアイテムで作ったから、詳しい作り方は分からないんだけどね」
「なるほど…」
みんなは興味津々だった。
「もう1つはマヌセラでとれたコンブから出汁を取ったもの」
「「コンブですか?」」
モズドとポレットは驚いていた。
「マヌセラでは食べなかった?」
「はい。網に掛かる邪魔な海藻だと思ってました」
「ああ。そうだよな」
モズドは頷いた。
「コンブの他にもワカメも漁師達に取ってもらっているよ。生でも美味しいし、乾燥させたらこういう風に味が1段階上がる調味料になる。まあ飲んでみてよ」
そういうとみんなは残りの出汁を飲みだした。
「これは凄い。優しい味なのに旨味がすごい」
ブライズさんは目を閉じながら感想を言っていた。
「そして続いては新調味料!」
そういうとワーが2つの皿を持ってきた。
「みりんと一味唐辛子です。まずはちょっと舐めてみて」
みんなはみりんと一味唐辛子の味見を始めた。
「ん?ほんのり甘い?」
「こっちは辛いです!」
みりんは自信作だ。
なんていったって液体調味料製造タンクの1枠を使ったんだから。
この枠を使わないためにポン酢も自家製した俺でも、みりんの自家製方法がわからなかった。
「正直、みりんの良い使い方を俺もわからないから、みんなで研究してほしい」
「「「「はい!」」」」
「頑張るよ」
「楽しみだなー」
みんなの料理意欲にしっかりブーストを付けれたみたいだ。
「あとこの出汁とみりんと一味を使った料理と本日の目玉食材あるんだけどどうする?」
「「「「「食べます!」」」」」
「わかった。ちょっと用意するから待ってて」
ヨーの食材を用意してもらい、俺は調理に取りかかった。
「よし、出来上がり」
俺は3つの器をみんなの前に並べた。
「これはパスタかい?」
ブライズさんが質問をした。
「いえ。うどんです」
「うどん?」
「小麦粉で作ってます。パスタは卵を入れてますが、これは入っていないです」
「なるほど」
俺は最初の器の説明を始めた。
「これは茹でたうどんを水で絞めてます。これはこういう風に汁につけて食べてください」
俺はみんなの前でざるうどんをすすった。
ズズズズズズ!
「「「「「「「え?」」」」」」
みんなは音を立ててすするのに驚いていた。
「こういう風にすするのがうどんへの礼儀です。あと箸の方が食べやすいです」
ライル商会のみんなは箸もそれなりに使い慣れてきていた。
「この汁は水と出汁と醤油とみりんで作っためんつゆというものです。ネギやショウガを好みで入れて食べてください」
そして次の器の紹介だ。
「これはあったかいうどんです。汁は先ほどのめんつゆを使ってます。水の割合を変えてるだけです」
「いい香りだね」
チャールズ兄は早く食べたそうにしている。
「アレンジで何か野菜を入れるのもいいですし、揚げ物をトッピングしてもいいです。お好みで一味を入れるといいです」
「そしてラストうどんです。これは茹でてお湯をきってるので汁がないけど暖かい状態です。その上にネギと削ったツッオ節と生卵を乗っけて、出汁と醤油を合わせたものと混ぜて食べます」
「生卵か」
「だまされたと思って食べてみてください。量が少ないので分けてくださいね」
みんなはうどん3品を食べ始めた。
ズズズズズズ!
チュルチュルチュル!
ズーズルズルズズズルル!
「美味しい!」
「これは良いね!ライル商会の人気メニューになるぞ」
「すごくおいしいです」
「生卵…いい」
「マヌセラの食材でこんな美味しいものが」
「凄すぎる」
みんなはすぐにうどんを完食した。
「まああと番外編なんですが、出汁とみりんを使ったジャガイモや他の野菜とミノタウロスの肉と煮た料理です」
俺は肉ジャガを出した。
「この肉ジャガを食べれば、出汁とみりんの凄さがわかるかもです」
この肉ジャガを作っていたせいでこんな時間になった。
ここ最近で一番の出来だ。
「ちょっと久々に本気出しました。ぜひ味わってください」
「ライルくんがそういうと、なんか緊張してきたな」
「うん。師匠の本気の料理か…」
みんなは恐る恐る肉ジャガを食べ始めた。
「「「「「「「ん!!!!!」」」」」」
みんなは唸った。
「う、うまい」
「これ凄いよ。野菜に味がしみ込んでるし、ジャガイモ柔らかい!」
「甘味はみりんと砂糖?」
「こんな繊細な味をした料理食べたことない」
器の肉ジャガはどんどん無くなっていった。
「どう?新作は」
ブライズさんが目を輝かせながら口を開く。
「最高だよ。ちょっと研究する時間がほしい」
「いいですよ。みんなに研究してもらって、試作品発表会でもします?」
「そうしよう。メンバーは僕とチャールズくん。そしてアルゴットとフィアダとモズドとポレットでいいかな?ピエナとポーソンはどうする?」
ブライズさんにそう聞かれ、2人は悩んでいた。
「2人で1品作ればいいんじゃない?」
「いいんですか?それなら2人で参加します」
後日、試作品発表会をすることが決定した。




