254.巨人の輪
ダンジョンでの訓練は充実したものになった。
完璧な魔装が使える回数も増えたし、棒術も馴染んできた。
何回も体力の限界を迎えたが、成長をものすごく感じられた。
だけどやっぱり技の手数を増やしたい。
前に取得できなかった剣術と暗殺術を再チャレンジしようかな。
「そろそろ行くのか?」
ガッツさんが問いかける。
「はい。一旦帰ります。ガッツさん達も数日後にはいったん帰ってくるんですよね?」
「そのつもりだ。天気に周期はなさそうだから、どんな天気になるのか情報を取れたらいったん帰る」
「わかりました。村でお待ちしてますね。天気に合わせた装備が作れるかもしれませんし」
ガッツさんは少し申し訳なさそうに口を開く。
「ライル。秘密の通路のことをダモンとパリスに教えてもいいか?」
「あーいいですよ。てか雷獣の拳も、うちに入ります?」
「え?いいのか?」
「いや、村の家もありますし。俺的にもガッツさんに秘密を共有出来たら楽ですし」
「そうか。じゃあ落ち着いたら所属させてもらおう。カラッカの冒険者ギルドにも報告しないといけないしな」
「わかりました。じゃあ俺はそろそろ行きますね」
「おう」
俺はガッツさんと別れ、ササントのダンジョンを後にした。
▽ ▽ ▽
秘密の通路を使い、村へ帰ってきた。
とりあえず最初はアイザックさんのところだ。
商人ギルドに着くと、すぐにアイザックさんのもとに案内された。
流石うちの従業員、優秀だ。
案内された部屋にはアイザックさんとリーラさん、そして面接をしたマヌセラの住人がいた。
早速接客の講義をしているようだ。
「アイザックさん!」
「おーライルさん。戻られたのですね」
「はい!そろそろマヌセラに漁師達が到着すると思うので、いろいろ改造を始めようかと」
「わかりました。準備を整えて、明日には迎えるようにします」
「お願いします」
俺は商人ギルドを後にした。
▽ ▽ ▽
次にマデリンのもとへ向かった。
鍛冶屋にはガルスタンとマデリンがいた。
マデリンの表情は疲れ切っているように感じた。
「マデリン、頼んでいたものはどんな感じ?」
「あっ!ライル様。頼まれていたものはできました。まずこちらですね」
マデリンは金属製の箱を取り出した。
箱のふたの部分には魔石がついていた。
「これは?」
「『クリーン』の能力がついているマジックアイテムです。この箱の中に物を入れて、魔力を注ぐと『クリーン』が発動します」
「おーすごい!」
「『クリーン』を使うモンスターの魔石がなかったので、リーラさんに頼んで『クリーン』がついている貴族用のマジックアイテムを用意してもらい、それを分解して作りました。まだ1つしか取り寄せられてないのでこれしかないですが、各レストランに置けるようにしますので」
「ありがとう。お金は足りた?」
「はい。だいぶ高かったのですが、商人ギルドに預けているお金で支払えました」
「おーよかった。マデリン、いろいろありがとね」
俺がマデリンを労うと、マデリンの表情が変わった。
「ライル様。一番見せたいのはこれではないです」
「えっ?」
「巨人族の身体のサイズを小さくするマジックアイテムが出来ました」
「えっ!ほんとに」
「そちらをお見せしたいので、学び舎の庭に行きましょう」
「ん?どういうこと?」
俺は理解できないまま、マデリンに連れられて学び舎に向かった。
▽ ▽ ▽
学び舎の庭に着くと、大きな金属製の輪っかが積まれていた。
「これがそうなの?」
俺が問いかけるとマデリンは頷いた。
「はい。装備した者の身体のサイズを変えるマジックアイテムです。本当は小さいサイズにしたかったのですが、あまりにも多くの素材や魔石を使うため、このサイズになりました」
「な、なるほど」
「それにややこしい話ですが、小さいサイズのものを巨人族が装備できるサイズにするというのが一手間でして、最初から大きいサイズのものを装備してもらい、身体のサイズが変わるのに合わせて大きさが変わるほうが楽だったのです」
「うーん。よくわかんないけど、とにかくありがとう」
「いえいえ。マヌセラに行って巨人族のサイズを測らせてもらったので、問題なくこの巨人の輪を装備できると思います。一応注意点なんですが、通常のサイズから6分の1のサイズにしかなりませんので」
「何から何までありがとう!」
俺は巨人の輪をマジックバックに回収した。
「マデリン。今回のお礼に何か欲しいものある?」
「いえいえ、とんでもないです。従業員として当然のことをしたまでです」
「なんでもいいから、ちょっとしたものでもいいから言ってみなよ」
「いいんですか?」
俺がそう言うとマデリンは少し悩んだ。
「じゃあ、2つあるんですけどいいですか?」
「いいよ!」
「まずは、巨人族の装備を作らせてほしいです」
「えっ?いいの?」
「はい。装備のサイズを変えるだけなんで大変ではないと思います。ただ、巨人族のエクストラスキルを聞いたんですが、なかなか個性的な能力だったのでそれに合わせた装備を作ってあげたくて」
「いやー本当に助かるよ。ありがとう」
俺がほめるとマデリンは少し照れたようだった。
「もう一つなんですが、私達をヤルクダンジョンに連れて行ってもらえないですか?」
「え?」
「正直、旦那もイルデンも忙しいのですぐには難しいのですが、久々に戦闘がしたいなと思いまして」
「あー息抜きみたいなものね。わかった。俺が同行できなくても、鬼将軍の弟子に同行してもらうから全然いいよ」
「ありがとうございます!」
マデリンは嬉しそうだった。
俺はササントのダンジョンのことを思い出した。
「あっ!マデリン……」
「な、なんでしょう」
「大仕事が終わってすぐに新しい仕事の話で申し訳ないんだけど……」
俺はササントのダンジョンの話をした。
「なるほど。旦那とマイアさんに相談しておきます」
「ごめんね。ありがとう」
俺はマデリンと別れた。




