251.念願の魚料理
俺は村に戻り、レストランライルに到着した。
そこにはブライズさんとゴーレ、そしてモズド夫妻とポレット一家がいた。
「あーライルくん」
俺に気付いたブライズさんが話しかけてきた。
「お疲れ様です。どんな感じですか?」
「一通り施設を案内して、うちで使ってる食材を紹介し終わったところだよ」
「ありがとうございます」
モズド夫妻とポレット一家を見ると、なぜか放心したような表情だった。
「あれ?どうしたんですか?大丈夫そうですか?」
「ああ。初めてライル商会の施設を見たんだ。放心しちゃうのも無理ないよ」
「そ、そうですか」
俺は首を傾げた。
そんな俺を見てブライズさんはあきれたような表情をしている。
「それで、今は何をするつもりなんですか?」
「うちの人気料理と飲み物を実際に食べてもらおうかと思ってね」
「いいですね!俺も作ろうかな?ゴーレ、魚とか持ってない?」
俺がそう言うと、ゴーレは巾着型のマジックバックを取り出した。
「ノヴァさんがガスター商会からもらった魚を大量に預かっております」
「おっそうなの?じゃあ少し使わせてもらって、残りは復興に回して」
「わかりました」
俺はゴーレからマジックバックを預かった。
俺はマジックバックから魚を2種類取り出した。
1種類は見た目はアジのようだが、ものすごく太い。
もう1種類は見た目は鮭だが、熱帯魚みたいな緑色だった。
一応『鑑定』をしてみたら、ファットカラパウとグリーンサーモンという種類のようだ。
「これなら、あれが作れそうだな」
俺はすぐに調理を始めた。
▽ ▽ ▽
「ブライズさんは何を作るんですか?」
俺は隣で調理場に立つブライズさんに問いかけた。
「うーん。サラダとオークカツとコッコからあげ、あとはパスタかな?」
「おっ!それじゃ、今から俺が準備するやつを一緒に揚げてもらえます」
「新作かい?」
ブライズさんは目を輝かせた。
「まあ魚料理なんで、全部新作なんですけどね」
「そうだった、そうだった」
俺はファットカラパウを4匹取り出して『クリーン』をかけて、さばき始める。
前世では三枚おろしも背開きもできなかったのに、すんなりできる。
さすが『料理』スキル。
「ファットカラパウはだいぶ大きいから、背開きだとボリューム凄いな」
背開きは1匹、残り3匹は3枚おろしにした。
塩を振って一旦放置だ。
続いてグリーンサーモンだ。
身は前世の記憶通りオレンジだが、うっすら緑が入っている。
「こっちも脂がのってうまそうだな」
俺はさばいたグリーンサーモンの一部を刺身用に切り、盛りつけた。
そして残りは切り身にした。
「ブライズさん。このファットカラパウに薄力粉をつけて、卵をつけて、パン粉をつけて揚げちゃってください」
「わかったよ。初めて見る料理だから楽しみだ!」
「盛り付けは、千切りしたキャベツと切ったレモンを添えてください。ソースは中濃ソースとマヨネーズをお好みで」
「了解」
俺はブライズさんにファットカラパウを渡し、残りの調理を進めた。
▽ ▽ ▽
モズドさん達は、席に座って飲み物を飲んでる。
ビールやジュースのおいしさのせいか、放心状態がまだ続いていた。
俺は切り身にしたグリーンサーモンに小麦粉をまぶし、オリーブオイルで焼き始める。
低温でじっくり焼いて、皮に焦げ目をつける。
バターを入れて両面しっかり焼いていく。
「これスプーンですくってかけるなんて、おしゃれだな」
たぶん全然おしゃれではないのだろうが、初めてする工程にテンションが上がっていた。
焼き終わって皿に盛ったら、ソース作りだ。
バターを溶かし、しょうゆを入れる。
そこに種や薄皮を取って角切りにしたレモンとトマトを入れて熱を通せば完成だ。
「よーし。うまそうだ」
▽ ▽ ▽
テーブルにはすでにサラダとから揚げが置かれていた。
「どうです?ライル商会の料理は」
「「「「「おいしいです!!」」」」」
5人とも夢中になって食べていた。
「モズドさん達にも同じように料理を作ってもらいますからね」
俺がそう言うと、5人は不安そうな表情になった。
「できますかね……」
「できるようになるまで、ビシバシ特訓してもらいますからね」
「「「「「はい!」」」」」
「じゃあそろそろ、魚料理も食べてもらいましょうかね」
俺はテーブルにグリーンサーモンのムニエルを置いた。
「これはグリーンサーモンを特別な調理法で焼いた料理です」
5人はムニエルに手を付けた。
「えっ。おいしい」
「うちで出していた焼き魚と全然違う」
5人は今まで食べていた魚料理との違いに驚いていた。
「この調理法もちゃんと教えますので、できるようになってくださいね」
「「「「「わかりました」」」」」
「ライルくん、揚がったよ!」
俺はブライズさんからカツとカラパウフライが乗った皿を受け取った。
「これも、揚げるという調理法を使った料理です。茶色と白いソースをつけて食べてもいいですし、レモンを絞りかけて食べてもおいしいです」
5人は3枚おろしになったカラパウフライを食べた。
「サクサク!」
「カラパウがこんなにおいしいなんて」
「3枚おろしより、こっちの背開きのほうがテンション上がるでしょ?お店で出すときはこの形で出したいと思ってます」
5人は俺の話を聞きながら、どんどん食べ進めていく。
「そして魚料理の最後はグリーンサーモンの刺身です」
「「刺身?」」
モズドさんとポレットさんは首を傾げた。
「熱調理をしてない生の魚です」
「「「「「「生??」」」」」」
ちょうどパスタを運んできたブライズさんまで驚いていた。
「ライルくん。魚を生で食べるのかい?」
「はい。『クリーン』はかけてますし、だまされたと思って食べてみてください。醤油をつけて食べるとおいしいですよ」
6人は疑いながらも、刺身を口に運んでいく。
「えっ!おいしい……」
「生がこんなにおいしいなんて」
「昔から魚は熱を通さないと食べられないって教えられていたのに」
6人は次々と刺身を口に運んでいく。
「注意点です。刺身をお店で出す場合は、必ずクリーンをかけたものであること、その日の朝に獲れて新鮮な状態のものしか使っちゃいけません」
「「「なるほど」」」
「みなさんが教えられてきた、熱を通さないといけないというのは間違ってはいません。新鮮じゃない魚を生で食べると体調を崩したり、最悪の場合死んでしまうこともあります」
「「「えっ!」」」
「なので生の魚を取り扱うのは慎重にお願いしますね」
「「「「「「はい!」」」」」」
マデリンに『クリーン』を使える魔道具を作れるか聞かないとな。
▽ ▽ ▽
5人は料理を食べ終えた。
食べている間に、ざっくりだがブライズさんに今日作った料理の作り方を教えておいた。
「たぶん魚のさばき方は俺よりモズドさん達のほうが上手いから教わってください」
「わかったよ。それにしても、日常的に魚を料理することになるなんてな」
「まあまだ、漁業事業は始まってないですけどね」
「期待してるよ」
ブライズさんは新しい材料にワクワクしているようだ。
俺とブライズさんは、5人のテーブルへ向かった。
「どうでした?」
「ものすごくうまかった」
「本当にどれも見たことがなく、すごかったです」
モズドさんもポレットさんも目が輝いていた。
この2人はブライズさんと同種のようだ。
「これからについてですが、5人にはこのレストランライルとカラッカの街にある鬼将軍の調理場で働いてもらいます。復興が終わり次第、マヌセラでお店を出してもらいます」
「「「「「はい!」」」」」
5人はやる気に満ち溢れていた。
「料理や調理法を覚えるだけではなく、モズドさんとポレットさんには別々の店舗を任せるつもりだから、それぞれの色を出せるように全員で試行錯誤してほしいです」
「「わかりました」」
「それじゃあ、あとはブライズさんに任せますから」
「わかったよ」
俺はレストランライルを後にした。




