249.マヌセラ従業員面接①
今日はライル商会で働きたいというマヌセラの住人の面接だ。
マヌセラの住人はカラッカの街に一時的に避難してきているので、面接会場はカラッカの商人ギルド。
アイザックさんがいるおかげで、すんなり使わせてくれた。
「疲れてます?」
「ははは。まあ疲れていますが、温泉のおかげで身体の疲れは取れました」
「落ち着いたら美味しい料理とお酒を用意しますんで、頑張りましょう」
「販売用のお酒もお願いしますね」
「わかってますよ」
アイザックさんの商人根性は凄かった。
話しているとゴーレが部屋に入ってきた。
「マスター。ノヴァさんがやってきました」
「了解。じゃあモズド一家とポレット一家を呼んでもらえる?」
「承知いたしました」
▽ ▽ ▽
ゴーレに連れられてやってきたのは、いかにも漁師街の男のモズドさんとその奥さんと息子。
そしてふっくらとした優しい世話好きそうなポレットさんと娘と息子だ。
「初めまして。ライル商会商会長のライルです」
俺が自己紹介をすると、6人は少しざわついた。
子供が商会長をしているのは事前に聞いていただろうが、目の当たりにするとやはり信じられない光景なのだろう。
「みなさんはライル商会で働きたいということですが、問題ないですか?」
「「はい!」」
モズドさんとポレットさんは答えた。
「では簡単にでいいので、自己紹介をしてもらえますか?どんなことが得意とかも言ってもらえると助かります」
俺がそういうとモズドさんとポレットさんが顔を見合わせ、モズドさんが口を開く。
「俺はモズドと言います。妻と二人でマヌセラで小さいですが料理屋をしてました。魚料理ならそれなりに作れるつもりです。よろしくお願いします!」
モズドさんがそういうと奥さんも頭を下げた。
「ありがとうございます。では次は…」
するとポレットさんが口を開いた。
「はい。ポレットと申します。モズドと同じくマヌセラで料理屋をやっていました。娘と息子にも幼い時から料理を教えていたので、私と同じくらい料理ができます」
「なるほど。ありがとうございます」
これだけ大量に料理人をゲットできたのはラッキーだった。
「そして最後は…」
俺がそういうとモズドさんの息子のイザッドさんが口を開いた。
「えーっと、モズドの息子のイザッドです。元々は漁師をしていました。ノヴァに漁師に戻らないか言われたんですが、この機会にマヌセラのために何かしたいと思ってここに来ました。親父のように料理は作れないですが、人付き合いはうまいと思うので、接客は得意だと思います」
「なるほど。ありがとうございます」
イザッドさんは少し緊張しているようだった。
俺は横に座っているアイザックさんに問いかけた。
「商人ギルドに派遣しているエルフ達はどんな感じですか?」
「え?エルフ達ですか?優秀ですよ。覚えも早いので、基礎はもう十分頭に入っていると思います。あとは経験だけですかね」
「なるほど…」
俺はイザッドさんに向きなおした。
「イザッドさん。結構大変なことでもやれます?」
「えっ?」
「責任ある仕事をやってみるつもりはありますか?当然俺も厳しく言いますし、ものすごく忙しくなると思います」
イザッドさんは少し考えて口を開いた。
「はい!やらせてください」
「わかりました」
俺はアイザックさんのほうを向く。
「アイザックさん。復興が終わるまでイザッドを鍛えてください。マヌセラの責任者にします」
「「「「えっ?」」」」
アイザックさんだけでなく、モズド夫妻とイザッド本人も驚いてた。
「責任者ができるように鍛えるということですか?」
「はい。ノヴァとも幼馴染で元漁師です。それにレストランを任せようと思っている人が両親です。新しい人材を入れたり、エルフを何人か派遣するより潤滑に進みそうじゃないですか?」
「あーなるほど。そうですね、地元の人間が指揮したほうが問題点に気付きやすいですし、不満があっても元々知り合いなら言いやすそうではありますね」
「じゃあイザッドはアイザックさん預かりでいいですか?」
「わかりました」
アイザックさんは頷いた。
「イザッドもそれでいいね?最初は大変だろうからノヴァにも手伝わせるから」
「は、はい!よろしくお願いします!」
イザッドは深々と頭を下げた。
モズド夫妻は少し心配そうだったが、大丈夫だろう。
「ではモズド夫妻とポレット一家には復興が終わり次第、料理店をしてもらいます。まずはライル商会の料理がどんなものか知ってもらうためにうちのレストランで働いてもらいます」
「「「「「はい‼」」」」」
「ゴーレ。ブライズさんのとこに5人を連れて行って。事情を説明すればどうにかうまくやってくれると思うから」
「承知いたしました」
「秘密の通路について教えちゃっていいから。登録は済ませておくね」
「はい。ありがとうございます」
ゴーレは5人を連れて部屋を出て行った。
「これで『料理』を取得してくれたらいいんだけどね」
「あっあのー」
イザッドが気まずそうに口を開いた。
「俺はどうすれば?」
「ん?マヌセラの責任者候補なんだよ?このまま面接を見て行ってもらうよ」
「わ、わかりました!」
「あっ!ゴーレがいなくなっちゃったから、ノヴァと漁師になってくれる人達をこの部屋にご案内して」
俺がそういうとイザッドは慌てて立ち上がった。
「しょ、承知いたしましたー!」
そういってイザッドは部屋から出て行った。
そんな様子を見たアイザックさんが口を開く。
「初対面ですよね?」
「うん。でもあの感じは俺と相性よさそうじゃない?なんか指示しやすい」
「ははは。そうですね…。また被害者が増えてしまうのか」
「なんか言いました?」
「いえ、何にも」
いつもならアイザックさんに無茶振りするのだが、さすがに忙しい状況で無茶振りできるほど心は鬼になっていなかった。




