241.マヌセラ防衛戦④
「また腕をまともに使えなくなってしまうとは」
全身が武器になった巨人の攻撃をくらい、私の右腕は満足に動かせなくなっていた。
「すみませんマスター。眠っていたものを勝手ですが使わせていただきます」
私はマスターが倉庫に入れていた血肉喰らいの鎧と偽魔王のグローブを取り出した。
「どれくらいの能力かわかりませんが、奇策の類はマスターから学んでいます」
私は血肉喰らいの鎧のブレストプレートを胸に当てると身体に吸いつくように装備が出来、そこから全身に鎧が広がっていった。
「なるほど。効果のおかげで腕もしっかり動きますね」
私は身体を動かして確認をした。
「この身体と一体になっているような感覚。装備を外すときに血液と肉を取られると考えると恐ろしいですね」
私には血も肉もない。
呪いのような副作用を考えずにこの装備を使うことが出来た。
偽魔王のグローブを手に装着し、両手に魔石をはめた。
「夜な夜なフリードとヤルクダンジョンに籠っていてよかったです」
私は準備が終わると、街を破壊している巨人の元へ向かって行った。
巨人は剣のようになっている腕を振り回し、街を壊していた。
情けない。
私達の甘い考えのせいでこんなことになってしまった。
すでにマスターに顔向けできない状態にはなっているが、これ以上悪化はさせない。
私は巨人に向かって跳びあがった。
「お!」
血肉喰らいの鎧のおかげで、いつも高く跳べた。それに身体がとても軽かった。
私はその勢いで巨人の身体に蹴りを入れた。
ドスッ!
少し身体を動かせたが、ダメージは全くなさそうだ。
巨人は私に気付いた。
「グガアアアアアアアアア!」
巨人は叫びながら右手の大槌で私を殴り、地面に叩きつけた。
ドゴン!
「身体に損傷はないですが、威力は殺せないみたいですね」
私は立ち上がり、マジックバックから魔岩砕きを取り出した。
杭と槌がマジックチェーンで繋がっている魔岩砕き。
私は巨人族の股下を潜って後ろに回り、先ほど攻撃していたアキレス腱に杭を全力で投げた。
杭は盾になっている脚に弾かれてしまった。
「やはりだめですか…」
巨人は脚を振り、斧のようになっている脚で私を蹴り飛ばした。
私は立ち上がる。
「どうにかダメージを入れないと…。やり過ぎにならなければいいですが」
私は再度巨人の後ろに回った。
「半分の威力がどれくらいかわかりませんが」
偽魔王のグローブに魔力を込めると、両手からマグマが発射された。
グローブにはめていた魔石はマグマタートルの魔石。
ヤルクダンジョンの11階で私とフリードが苦戦した相手だ。
物凄い勢いでマグマを飛ばしてくる攻撃は避ける以外に防ぎようがなかった。
偽魔王のグローブで威力は半分になって量や勢いが減っているが問題ない。
私はアキレス腱の部分にマグマをかけ続けた。
「ぐわあああああああああ!」
巨人は時間差で叫び始めた。
マグマのダメージが伝わるのが遅かったのだろう。
手でマグマを払おうとするが、なかなか払うのは難しいようだ。
魔岩砕きを手に取り、杭をマグマが付いている部分に投げた。
脚の盾はマグマによって溶け始めていたおかげで杭はしっかり刺さった。
私はすぐに杭に近づき、槌で杭を叩きつけた。
「があああああああ!」
私は杭を引き抜き、偽魔王のグローブの魔石を交換する。
次の魔石はフレイムベアの魔石だ。
グローブに魔力を注ぐと、グローブは変形して大きな炎の爪が付いた。
私は両手に付いた炎の爪を杭が刺さっていた部分に差し込み、傷を広げた。
「ぐあああああ!」
巨人の腕が私を攻撃して来ようとするが、傷口にあるものを入れて攻撃を避けた。
傷口に入れたものは爆弾岩だ。
魔石を取り返え、マグマスライムの魔石をはめる。
魔力を込めると小さなマグマの球が傷口に向かって飛んで行く。
ボゴーン!
マグマの球が爆弾岩に点火し爆発が起きた。
「ああああああああ!」
巨人は痛みで脚を押さえてうずくまった。
私は巨人の顔の前に行った。
「すみません。使い方が分からないので一番可能性がある方法をさせていただきます」
私は巨人の口に麻痺玉を投げ込んだ。
巨人の口から大量の煙が出てきた。
「あっ…」
私は使い方を間違えていたようだ。
巨人は身体を震わせながら失神した。
▽ ▽ ▽
グラトニーシェルを魔装した魔竿で攻撃をする。
やっぱり殻は硬くて、うちの攻撃は全く効いていない。
「ちょっと海に戻っていてくれる!」
私は全力でグラトニーシェルを突くと海に落ちて行った。
「陸に上がるのは阻止できそうだけど、どうやって倒そう」
私はグラトニーシェルの倒し方を考えながら、街を破壊しているジャグシェル元へ行った。
8体のジャグシェルは海辺の家を破壊続けていた。
うちの家も壊れている。
「これが終わったら、みんなで頑張んないとな」
うちには落ち込んでいる暇などなかった。
魔竿を構え、回転盤を回す。
「5!よし!」
私は竿を振って黒い鉄球をジャグシェルの殻に入れ、回転盤を回した。数字は1だ。
ジャグシェルの殻から大量の針が出てきた。
「よし、倒せた!でもさすがに殻は貫通できないか」
私は残りのジャグシェルに向かおうとすると腕に強烈な痛みが走った。
2匹のジャグシェルが腕に噛みついていた。
「なんで…」
自分の力の無さがふがいなかった。
「こんなところで倒れたらダメなのに。ヒューズ達の元にもいかないといけないのに」
しょうがない。ヒューズ達を信じよう。
うちは腹を括った。
海から海水がうちに向かって飛んでくる。
海水は球体になりうちの身体を包み込んだ。
身体は筋肉質になって鱗が生えた。手には水かきが出来た。
身体が完全に変化すると、海水は消えていった。
「『海獣化』を使った後は魔力をだいぶ使っちゃって、動けなくなるんだよね」
うちは腕に噛みついている2匹のジャグシェルを両手で握りつぶした。
「魔力が減ってるから早く倒さないと」
うちは水の道を作り、その中を泳いでジャグシェルの元へ向かった。
残り5匹のジャグジェルは同じところに居た。
地面に触れて魔力を込める。
うちを中心に外側から波が現れた。
ジャグシェルは波に呑まれ、うちの元へ流れてくる。
腕に水の剣を出し、5匹のジャグシェルを突き刺していった。
「ふう。あとはグラトニーシェルだけ」
たぶん魔力的に移動とあと1回くらいの攻撃分しかない。
水の道を作り、グラトニーシェルの元へ急いだ。
海に付くと異様な光景が目に入った。
グラトニーシェルが何かに包まれて浮いていた。
「え?」
グラトニーシェルを包んでいる正体は大口を開けたタックだった。
ミシミシミシ!
タックが噛みついているのだろう。
グラトニーシェルの殻が少しずつ砕けていき、どんどんタックに飲み込まれていった。
「タックー!ありがとー」
タックに近づくと、うちを口で掴んで甲羅の上に載せてくれた。
「あっ。やばい。そろそろだ」
うちは気を失い、タックの甲羅の上で倒れた。




