237.ヒューズの勘
「ちょっと待ってよ!」
俺は家に向かう途中ノヴァに引き留められた。
「なんだ?」
「ヒューズが言ってることは本当なの?」
「わからん。だが俺の勘が危険だと言ってる」
「勘って…」
ノヴァは困っている。
「ノヴァ。お前の知り合いだけでいいから、必要な物をまとめてすぐ逃げられるようにしろと伝えてくれ」
「え?」
「伝えるだけでいい。少しでも頭に入っていれば、咄嗟の事が起きても動けるはずだから」
「…わかった。とりあえずお父さんところへ行くよ」
「頼む」
俺はノヴァと別れ、家に戻って村へ帰った。
▽ ▽ ▽
村に着くと、学び舎にセフィーナさん達が集まっていた。
「ゴーレさん。ありがとう」
「問題ありません」
俺は席に座った。
「ヒューズ様。なぜ私達を集めたのですか?」
3人は心配そうに俺を見ていた。
「マヌセラの街が攻撃される可能性がある」
「「「え?」」」
3人は驚いている。
俺は自分の感じた勘を話した。
「なるほど…」
セフィーナ様は考えている。
「私は何をすればいい?」
マリーナは信じてくれているようだ。
「マリーナにはカラッカのギルドマスターに伝えて、何かあった時に支援が出せるように話をつけてほしい」
「わかった。すぐ行くわ」
その様子を見て、セフィーナ様とアイザック様は驚いている。
「なんでそんなにすぐ動けるんですか?」
「そうです。証拠がないんですよ?」
マリーナは笑った。
「ライルくんが証拠が無くて勘だけで指示を出してきたら断ります?私は疾風の斧の勘をそれくらい信用してるんです」
2人はそれを聞くと決心したような顔つきになった。
「わかりました。私もカラッカの商人ギルドに支援の準備をさせます」
「私はお父様に伝えてきます!」
「ありがとう!」
俺は頭を下げた。
▽ ▽ ▽
俺とゴーレさんはマヌセラに戻った。
家にはレオしかいなかった。
「リリアン達の様子でも見に行くか」
「はい」
俺達は家を出て、海へ向かった。
船着き場を見ると、ズサスさんの船が帰ってきていた。
「あ?あれ誰だ?」
船にはリリアンとクララのほかに人がいた。
俺は船に乗り込んだ。
「こいつらは?」
「あっ!リーダー!卵を撒いてたやつを捕まえたよ」
「よくやった」
「やっぱりガスター商会の人間みたい」
「そうか」
俺はリリアンに捕まっている3人に近づいた。
3人は手足を石で固められていた。
「おい。お前らのとこのメーサルは何を計画してるんだ?」
「…」
3人は俺から目をそらす。
「ゴーレさん。頼む」
俺がそういうとゴーレさんは1人を掴み、持ち上げた。
「すまん。殺さずに痛めつけられるちょうどいい奴がいないんだ。俺の質問に対して無視か嘘を付いたら死ぬと思ってくれ」
ゴーレさんに持ち上げられている奴は顔が青ざめていた。
「じゃあ質問だ。メーサルは何を計画してる?」
「あ、あああ」
「ゴーレさん。やってくれ」
ゴーレさんがさらに高く持ち上げる。
「い、言う!言うから待ってくれ!」
「どうしますか?」
「少しだけ待つ。だから喋れ」
男は口を開いた。
「メ、メーサル様はこの街を破壊するつもりです…」
「方法は?」
「わ、わかりません。俺達みたいな下っ端には聞かされてないです」
「ゴーレさん」
ゴーレさんはもう一度男を持ち上げる。
「ほ、本当だ!明日町を破壊して、追い打ちの為に卵を撒いてただけなんだ!」
「じゃあ卵は撒いたのか?」
「1つだけ。あとはそこの女にとられた」
クララを見ると1つ卵を持っていた。
「巨人族を使うつもりなのか?」
「ああ。たぶんそうだ」
「わかった。お前達は殺さないでやる。そのかわり今から連れて行くところでも同じ話をしてもらう」
「わ、わかった。知ってることは話す」
「リリアン、クララ。悪いが、こいつらを連れてきてくれ。ゴーレさんはさっきのメンバーを集めてくれ」
「承知しました」
ゴーレさんは持ち上げてた男を地面に落とし、街へ向かった。
「ヒューズ。何があったのかちゃんと話してもらうからね」
「そうだよー。わけわかんないよ」
「ああ。行きながら話そう」
俺達は商人ギルドに向かった。
▽ ▽ ▽
実行犯を連れて行ったおかげで、商人ギルドマスターと町長も信用してくれた。
相手の手の内が巨人族しか分からないが、街の人の避難は必須だ。
俺達は街の人の避難誘導を最優先にした。
セフィーナさんに頼み、カラッカの街で受け入れ態勢を取れるようにしてもらった。
街の人達の安全のため、カラッカまで護衛としてノヴァについて行ってもらうことにした。
「ヒューズ!」
「ん?」
リリアンが嫌な顔でしゃべりかけてくる。
「これまずいんじゃない?」
「うんうん。私もそう思う」
「なにがだ?避難もできてる。あとは迎え撃つだけだぞ?」
「いや…うちの鬼を忘れてる?」
「あっ!」
俺は一番めんどくさい奴の事を忘れていた。
「あー最善策はなんだ?」
「徹底的につぶすことじゃない?」
「そうなるか…」
「うん。あとでグチグチ言われちゃうよー」
「1人でも逃したら、あいつなら言うな」
「あー徹底的だ!やるしかない」
俺達は気合を入れ直した。
「失敗したらお酒なしかお風呂なしって言いそうよね」
「ああ。まじでフル装備でやるぞ」
「え?いいの?」
クララは目をキラキラさせている。
「ああ。クララはダメだ。本気でやったら確実に殺すだろ」
「えー」
クララはむくれている。
「無駄な殺しはするな。それに鎖に繋がれていたのなら奴隷の可能性が高い」
「「わかった」」
俺らが話しているとゴーレさんがやってきた。
「ヒューズ殿。私も戦闘に参加したいのですが…」
「ゴーレさんにも当然戦ってもらうよ」
「承知しました」
無表情なのに目がキラキラしているように感じるのはなぜだろう。
俺達はライルにグチグチ言われないために、入念に打ち合わせをした。
▽ ▽ ▽
「メーサル様!」
「何?」
部下が声を荒げてやってきた。
「卵を撒きにいったものが帰ってきません」
「そう。捕まったようね。あのヒューズって男、気に食わない」
「だ、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。明日の朝、巨人族が暴れている間に私達はこの街からでればいいのだから。それより準備は出来てるの?」
「はい!3人とも今は眠っています」
「そう」
「街から出る直前に5本ずつ打てば勝手に暴れてくれるはずです」
「5本も打ったら、この街だけじゃなくこの領全部が壊れちゃうかもね。ミャハハハハハ!」
明日のこの街の事を考えると笑いが止まらなかった。
「出発するまで、トラブルが起きないように全従業員に警戒するように伝えなさい」
「はい!」
部下は走って部屋から出て行った。
「楽しみだわ。明日この街が粉々になるのが。ミャハハ!」




