236.不敵なメーサル
私は部下達に文句を吐き続けた。
「ノヴァが居るせいで計画が進まないって言うから、わざわざこいつらを借りてきたのよ!」
目の前で座っている部下の顔を蹴った。
「それで帰ってきたら、疾風の斧も居るってどういうことよ!」
私は部下達を蹴り続けた。
「ササントが怪しまれてるから、こっちで派手に暴れないといけないのに!怒られるのは私なのよ」
「す、すみません…」
「卵の在庫は?」
血だらけの部下が前に出て答える。
「さ、2個です。次に補充されるのは20日後ぐらいになると思います」
「あーもう!ノヴァが居るのにバカみたいに卵を撒いてんじゃないわよ。漁師達を廃業にさせて、街を貧困にさせるところまではうまくいったのに」
「す、すみません」
謝る部下が気に食わなかったのでもう一度顔面を蹴り飛ばした。
「あーどうしようか。疾風の斧とノヴァが居なくなるまでは待てないし」
私は悩んだ。
「もうどうにもならないし、この街壊しちゃおうか。ガスター様も許してくれるはず」
私はこの街を潰すために、部下達に指示を出した。
▽ ▽ ▽
「よし。今日はリリアンとクララだけで海を見てきてくれ」
「え?」
ノヴァは驚いていた。
「何でうちとヒューズは行かないの?」
「敵に挨拶行かないとダメだろ?」
「挨拶?」
ノヴァは首をかしげていた。
俺とノヴァとゴーレさんはガスター商会の港に来ていた。
「それにしてもデカいな」
建物がものすごくデカかった。
それにマジックアイテムの船が10隻以上。
「じゃあ、挨拶でもするか」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「すみません!魚売ってもらえますか!!」
精一杯の大声のおかげで建物から人が出てきた。
どう考えても儲かってる商会の従業員には見えなかった。
そいつは俺達の姿を確認すると、すぐに建物に戻った。
数分後、建物から女性ととりまきのようなやつらが出てきた。
高級そうな服を着ている、紫がかった髪色の20代後半くらいの女性だ。
こいつがメーサルだな。
「これは疾風の斧のヒューズ様と海獣のノヴァ様ではないですか」
「俺達を知ってるんだな」
メーサルはニコッと笑う。
「ワイアット王国所属の商会です。当然、有名な冒険者の方々の情報は入れております」
「なるほど」
メーサルを見ると、高級そうな服で気付けなかったがマジックアイテムを何個か装備している。
こいつは戦闘もするみたいだ。
「それで今日はどうなさいました?」
「魚を売ってほしくてな。なぜだかここの商会しか漁が出来ないみたいだから」
「あー魚ですか?すべてタダで差し上げますよ」
「タダ?」
「はい。おい!早く持ってきな」
メーサルはとりまきを怒鳴りつけた。
「今準備させます。あっ!申し訳ありません。挨拶が遅れましたね。私はガスター商会副商会長のメーサルと申します。このマヌセラ支部では商会長代理をさせていただいておりました」
「いただいておりました?」
「はい。ガスター商会はマヌセラから撤退することが決まりましたので」
「え?本当か?」
ノヴァは嬉しそうにしている。
「なかなかマヌセラの方々に魚を買っていただけないので、明日撤退するつもりです。この港も使わないので商人ギルドに買い取ってもらうんですよ。ですので漁師のお知り合いの方がいらっしゃればお伝えください」
「だから魚もタダでくれるのか?」
「はい!あの巨大な船に乗せてもいいですが、ここを去る身ですのでマヌセラの方々にお渡しするのが一番かなと思いまして」
メーサルのニヤニヤした面が何か企んでるように感じる。
とりまきが帰ってきた。
「ノヴァ。受け取っておけ」
「うん!」
ノヴァはとりまきの元へ行き、魚をマジックバックに入れていった。
「他に何か御用がございますか?」
「いやない。ありがとな」
「いえいえ。ガスター商会からのお礼ですから」
「ところであんたらはいつ撤退するんだ?」
「え?」
「本拠地があるところに帰るんだろ?」
「ああ。明日の朝に出発予定ですよ」
「そうか。わかった。ノヴァ!帰るぞ!」
「え?う、うん」
俺がそういうとノヴァは駆け足でついて来た。
「またどこかで会えることを願っております」
俺はメーサルを無視して歩き続けた。
「ヒューズ。どこ行くの?」
「とりあえず商人ギルドだ」
「なんで?でもよかったー。これで解決だね」
何にも気付いてないノヴァへの説明はあとだ。
「ノヴァ。この街の町長を商人ギルドに呼び出せ」
「え?」
「今すぐ」
「わ、わかったよ」
「ゴーレさんは村に帰って、セフィーナ様とアイザック様とマリーナを集めておいてくれ」
「承知しました」
俺はノヴァとゴーレさんと別れ、商人ギルドへ向かった。
▽ ▽ ▽
俺は商人ギルドでガークを呼び出した。
少し待つとガークがやってくる。
「えーっとライル商会の?」
「疾風の斧のヒューズ、冒険者だ」
「え?あなたが?」
ガークは驚いている。
「緊急事態だ。ギルドマスターを呼んでくれ。それに会議室も貸してくれ」
「え?それはどういう?」
「うるせぇ!緊急事態だ!」
「は、はい!」
ガークは急いでギルドマスターを呼びに行った。
数分後。
会議室には俺・ノヴァ・ガーク・商人ギルドマスター・町長が集まった。
「それでヒューズ様、これは一体」
ギルドマスターは俺にビビっているのか、恐る恐る聞いてくる。
「ガスター商会が今日か明日何か起こす。街の人を避難させた方がいい」
「「「「え?」」」」
4人は驚いている。
「ヒューズ!何言ってんの?ガスター商会はこの街から撤退するって言ってたじゃん」
「何で撤退する必要がある?あれだけ嫌がらせをしてきたのに。このまま経済的に街を潰せるのに撤退する意味は?」
ノヴァは黙った。
「あまりにも不自然すぎる。それに巨人族が居るのも確認できている。何か起こす。ただ証拠はない」
「ヒューズ様。さすがに証拠がないと我々としては動けないのですが…」
「わかっている。だけど信じてくれ。このままだと街が危険になるかもしれない」
「そう言われましても…」
ギルドマスターは全く信用してくれなかった。
「わかった」
俺はマジックバックから金貨を10枚出した。
「「「え?」」」
「この街の馬車と馬をすべて買わせてくれ。それで明日いっぱいまで街の入り口近くに置いておいてくれ」
「いや、さすがにそれは…」
俺は頭を下げる。
「頼む。何も起きなかったらそれでいい。だけど何か起きた時に動けないのが一番まずい。そのために逃げられる脚だけは作っておきたい」
「わ、わかりました…。ガークくん、すぐに手配を」
「はい」
ガークは会議室から出て行った。
「町長はそれとなく町の力のある人間にこのことを伝えてください」
「でも証拠はないんですよね?」
「はい。冒険者が適当なことを言ってたと伝えてもいいんで、必ず耳に入れさせてください」
「ま、まあ。それくらいならしますけど…」
誰も俺の勘を信じていなかった。
撤退が決まっているのに巨人族を連れてくる必要がない。
港を解体するわけでもなく、荷物も少なくしたいのなら力仕事もほとんどない。
ガスター商会は絶対何か起こすつもりだ。
「それじゃあ。みなさん、必ず言ったことはやってください。お願いします」
俺はそういうと会議室を出て行った。




