234.遠征終了
翌日の探索は暇の極みだった。
弟子達と北東の森を朝から夕方まで探索をしていたが、大量発生とは全く出会うことはできなかった。
うちの村の周りだったら5つは見つけているはずなのに。
集合場所へ行くと、既にガッツさんは到着していた。
装備も完全に外しているから、だいぶ前に帰ってきたのだろう。
「どうでした?」
「ああ。盗賊団を捕まえたぞ」
「やっぱり小屋に?」
「鳥のモンスターも丁寧に縛られていたよ」
ユイが昨夜言っていたことは本当だったようだ。
「卵はあったんですか?」
「100個以上の卵がマジックバックに入っていたよ」
「そんなに?」
「それに割られた卵も100個ほどあった」
「え?」
俺は予想よりも多い卵の数に驚いた。
「ここからカラッカの各地に卵を送っていたんだろう」
「なるほど。それじゃあここに卵を持ってきたやつを特定しないとですね」
「ああ。小屋には光剣の輝きが見張りで残る。俺達は捕えた盗賊達を尋問の手伝いをする予定だ」
ガッツさんはめんどくさそうに言った。
「それじゃあ俺達は何を?」
「よかったな。お前達の遠征はこれで終わりだ」
「え?やった!」
思ってもなかった吉報に喜びを隠しきれなかった。
「本当に嫌だったんだな」
「そりゃそうですよ。俺は村の発展が一番したい事なんですから」
帰れるとわかった途端、やりたいことが頭からあふれ出てきた。
「まあポーラが良い生活が出来てるのもお前のおかげだから何とも言えないわ」
「じゃあすぐに帰ろうと思うんですけど、いいですか?」
「まだだ!王女からは解散でいいと言われたが、お前に俺から頼みがある」
「頼み?」
俺は首をかしげた。
「俺達と光剣の輝きがいつカラッカの街に帰れるかわからない。だからお前の弟子の半分でいいから、カラッカの街で活動させてくれないか?」
「なるほど。良いですよ」
「助かる」
ガッツさんは頭を下げた。
ガッツさんと別れ、弟子達に帰る準備をするように指示を出した。
その間に俺はササントの街の商人ギルドに行き、土地を購入した。
最初は難色を示されたが、カラッカのギルドマスターから貰った腕輪とライル商会だと言ったらすんなり購入が出来た。
あまり良い土地が無かったので1マス分の土地だけ購入し、秘密の通路用に大きな1ルームの家を建てた。
これで何かあれば、すぐにササントに来れる。
▽ ▽ ▽
帰ろうとすると1つ問題が起きた。
馬車が足りなかった。
マジック馬車でも弟子達を全員乗せるのは難しかった。
なので剛角と強弓と鋭牙とイムニには秘密の通路で帰ってもらうことにした。
ガッツさんとの約束もあったので、そこらへんはアメリアにうまくやるように伝えた。
馬車で帰宅組は俺と剱とフリードとノコとライムとラーちゃんとライドンだ。
5日掛かる道のりだが、フリードが本気を出せば3日程で着くだろう。
俺は秘密の通路で帰宅組を連れ、購入した家へ案内をした。
「なんかライルっぽくない家ね」
アメリアは家を見て行った。
「まあしょうがないよ。秘密の通路用の家だから」
「秘密の通路ってなんだ?」
振り返るとそこにはガッツさんが居た。
「え?そんなこと言いましたっけ?」
俺はとりあえずごまかした。
だがこの遠征でわかったのだが、ガッツさんは意外と切れ者だ。
脳筋な印象だったが全然違う。
このごまかしも通用していないだろう。
「言いたくないなら詮索しないが、言った方がいい事なら言えよ」
俺は諦めてガッツさんに秘密の通路のことを話した。
「あー。なんかいろいろ繋がったぞ」
「なんか疑ってました?」
「カラッカにお前達が居ると思ったら、いつのまにか村に帰ってたりしたからな」
「ですよねー」
「ポーラはこれのこと知ってるのか?」
「え?」
ガッツさんは少し恥ずかしそうに聞いてきた。
「あー知らないですけど、ガッツさんにばれちゃったので伝えてもいいですけど」
「本当か?」
「正直あんまり使って欲しくはないですが、カラッカの家の秘密の通路も使ってもらってもいいですし」
「わかった。この大仕事が終わったら使わせてもらう」
「わかりました。もしなんかあったら、ここの秘密の通路を使って俺らを呼びに来てもらってもいいですから」
「そうならないことを願うよ」
ガッツさんは秘密の通路を確認すると帰って行った。
「じゃあみんな、諸々よろしくね」
「「「「「「はーい!」」」」」」」
俺はみんなが村に帰ったことを確認し、馬車に戻った。
▽ ▽ ▽
ここ3日の帰路はとても快適だ。
ポゼッションドールを使わないでいいし、王女達の目を気にしなくてもいい。
最高すぎる。
大量発生には数回遭遇したが行きほどではなかった。
今日の昼前には村へ帰れるだろう。
「アメリア達にカラッカの冒険者業を頼んでるから、鬼将軍の剱は俺と一緒にマヌセラの街へ行こう」
「何があるの?」
「海だよ。いまヒューズさん達が海に卵を撒いてる怪しい商会を調べてる」
「海見たことないから楽しみ!」
「俺も見たことない!」
村の子供はほとんど村から出たことがない。
海を見たらテンションが上がるだろうな。
「師匠!村にそろそろ着くよ」
御者台に座っているチャールズ兄が言った。
「よーし!やりたいこと多いけど全部やってやるぞ」
王族と一緒に生活していたストレスで俺の欲求は爆発していた。
村に帰るとアメリア達が居た。
「ライル!」
アメリア達は慌てているみたいだ。
「どうしたの?」
「今日の朝、ガッツさんが来たの」
「え?」
嫌な予感がする。
「ササントの街で大地震があって、盗賊が居た小屋の近くに大きなダンジョンが現れたって」
「あーこれは行かないとダメだな。でもマヌセラも行かないとダメだし、カラッカの街の依頼もこなさないと」
俺は頭をフル活用させた。
「強弓と鋭牙はカラッカの街の依頼の処理、ササントのダンジョン攻略には剱と剛角。俺はマヌセラに行く!」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
「フリードとライムはダンジョンに連れて行って!」
同時にめんどくさいことが起きてしまった。
ユイの事をヤリネさんに確認をしなきゃいけないのに。
「みんな、大変だけどおねがいね」
「「「「「「「はい!」」」」」」」」
弟子達はすぐに動き出した。




