233.冒険者ユイ
まずい。
「ライドン!ラーちゃん!ニーナとジェイクを」
ギャウ!
キュー!
ライドンとラーちゃんは猛スピードで二人の元へ行き、ワーライノから2人を離した。
ワーライノは動かない。
俺をずっと見ている。
「フリード、ノコ、ライム!いつ戦闘になってもいいようにしておいて」
ヒヒーン!
ジジジジジジ!
ポニョ!
俺達は距離を取った。
どう考えても、あのオークとワ―ウルフと同種だ。
人でも獣人でもない。
動物でもモンスターでもない。
こいつは一体なんなんだ。
「ちょっと待ってー!」
ワーライノの後ろから女性の声が聞こえた。
「悪いモンスターじゃないよー!」
「え?」
物凄く聞き慣れたセリフだった。
声の主は冒険者のような恰好をした女性だった。
「えーっと、あなたは?」
「子供?」
女性は俺とフリード達を見て頷いた。
「あーなるほど、君か」
「え?どういうことですか?」
「ううん。気にしないで」
女性が何かをごまかしているように感じた。
「それであなたは?」
「私はユイ。Cランク冒険者よ」
「俺は、」
「知ってるよ。鬼将軍でしょ?」
「え?なんで?」
「有名だよ。連れているテイムモンスターも噂通りだし、ヤリネから聞いてた通り」
俺は奴隷商のヤリネさんの名前が出たことに驚いた。
「ヤリネさんと知り合いなんですか?」
「うん。そうだよ!知り合いっていうか家族に近いかなー」
ヤリネさんはいろいろ謎な人だったから、家族が居る事に驚いた。
「それでユイさんのテイムモンスターなんですか?そのワ―ライノのようなモンスターは」
「あーうん。そ、そーだね。私のテイムモンスター」
ユイという女は少し怪しい。
「だから攻撃しないでほしいんだ」
俺は少し突いてみることにした。
もしかしたらガッツさんが前に言っていた、オークとワ―ウルフと一緒に居た冒険者の可能性がある。
「俺はそのワーライノに似たモンスターを見たことがあるんですが知りませんか?」
俺の質問にユイはまっすぐと俺の目を見て答えた。
「知ってたらどうする?」
確定だった。
このユイという女がオークとワ―ウルフと共に行動している冒険者だ。
「俺はそのオークとワ―ウルフに借りがあるんです」
「うん。知ってる。でも2人は反省してた」
「反省してた?」
「うん。まあまだいろいろわかってないから、何とも言えないんだけどね」
「は?」
ユイの何かをぼかしているような発言が余計怪しかった。
「ちゃんと話してくれないようなら、一度ユイさんを捕まえてから話を聞いてもいいんですけど」
「それは無理じゃないかな?」
「え?」
ユイの頭上には大量の炎の槍と風の槍が現れた。
「約10年もソロで冒険者やってるからね。君には負けないと思う」
Cランク冒険者と聞いて侮っていた。
確かに勝てないかもしれない。
だけどここは引けない。
「死ぬ気で戦えば勝てるかもしれませんよ」
「やめときなよ。君に渡したいものもあるし」
「渡したいもの?」
ユイは俺に繭のようなもの3つ投げた。
「なんですかこれは」
「重傷を負った時に使えるマジックアイテムだよ。使う時にはサイズが自動で変わって繭が身体を包み込むんだって。どんな重症でも治してくれるけど、回復するまでに物凄い時間がかかるみたい」
「あんまり効果を知らないみたいですけど、ユイさんの物じゃないんですか?」
「うん。私のじゃないよ」
ユイという女を俺は全くつかめなかったしだいぶ怪しい人間だが、悪い人には思えなかった。
「これで戦わなくてもいいかな?」
「わかりました。今回はこれで手を引きます」
「ありがと!」
ユイはウィンクをしてきた。
この世界にもウィンクって文化があるのか。
「あーあと1つだけ伝えたいことがあったんだ」
「なんです?」
「北西の森に小屋があるんだけど、そこに卵を置いてた実行犯を捕まえておいたから」
「え?」
「それじゃ!またどこかで」
ユイとワーライノは森の中へ走り去っていった。
「どういうことなんだ?」
カラッカに帰ったらヤリネさんを問い詰めると心に決めた。
▽ ▽ ▽
私達は森の奥まで来た。
ノライドが居なくなったときは驚いたが、戦わずに済んで本当に良かった。
(もー!いきなりどこか行かないでよ)
(ごめん!だってすごい音がしたから、盗賊が残ってるのかなって)
(まあ、あの子にも会わなきゃいけなかったからいいけど!人と喋れないんだから私から離れちゃダメだよ)
(わかったよ)
(オクス達と合流場所はだいぶ遠いから急いでいくよ)
(うん!)
私達は集合場所へ向かった。
「それにしても、いろいろ圧がすごい子だったなー」
▽ ▽ ▽
俺は野営地に戻った。
「師匠!」
チャールズ兄は完全装備だった。
「ワーライノが居たんでしょ?ニーナが師匠の様子がおかしかったって」
「あーなるほど。それでニーナは?」
「いま街に行って、みんなを呼びに」
「あーまずい」
俺は焦っていてニーナに何も説明していなかったことを思い出した。
「チャールズ兄。申し訳ないんだけど、ニーナを止めてきてくれない?」
「え?あ、わかった」
チャールズ兄は街へ走って行った。
野営地には俺とテイムモンスター達と気絶したジェイクが残された。
▽ ▽ ▽
チャールズ兄に頼んだのが遅かったようだ。
ニーナは弟子とガッツさんを連れて野営地に戻ってきた。
みんなフル装備だ。
「ライルくん、大丈夫?」
「うん。ごめん大丈夫」
「あのワーライノは?」
ニーナは心配だったのか、ものすごく詰め寄ってきた。
「大丈夫。冒険者のテイムモンスターだったよ」
「え?よかったー」
ニーナが安堵の表情を見て、弟子達も安心したようだ。
だがガッツさんは俺は疑いの目で見てきていた。
話さなきゃいけないこともあるし、ある程度説明をしないとダメそうだ。
俺は弟子達に食事を促し、ガッツさんだけを連れ出した。
「何があったんだ?」
「例のオークと似た感じのワーライノが現れました」
「え?」
「警戒しているとユイという女性の冒険者がやってきて、自分のテイムモンスターだと」
「ユイか。話に聞いたことはある」
「そんなに有名なんですか?」
「有名というか冒険者なのにやってることが特殊みたいなんだ。カラッカの街が拠点のはずなのにほとんど違う領や国に行ってるらしく、帰ってくるときは何台もの馬車を引き連れて帰ってくるらしい」
「え?どういうことですか?」
「わからん。俺も噂でしか聞いたことがない」
謎は増々深まった。
「わざと盗賊に捕まったり、モンスター討伐依頼を受けていたのにモンスターを逃がしたり、いろいろ噂はある」
「そのユイって冒険者がオークとワ―ウルフと居た冒険者だと思います」
「なるほど…。よくわからんな」
ガッツさんも頭を抱えた。
「ユイが言ってたんですが、北西の森にある小屋に卵を置いていた実行犯を捕まえているって言ってました」
「なに!?」
「本当かどうかわからないですが、調べてみてもいいかもしれません」
「わかった。明日調べてみよう」
俺とガッツさんはみんなの元へ戻った。
「ライル。一番重要な話なんだが」
「なんですか?」
「俺も食べていっていいか?」
「はぁーいいですよ」
ガッツさんは上機嫌でチャールズ兄の元へ走って行った。




