228.偽りの侍女
王女達の出発が明日に迫った。
俺が朝食の準備をしていると、セフィーナさんがやってきた。
「本当にその姿で料理をしてくれてたんですね」
「ははは。まあしょうがないですよね」
「お礼を言いに来れなくて申し訳ありませんでした。ポーラからライル様が料理を作ってくれているとは聞いていたのですが、朝から晩まで王女殿下と一緒に居たため、なかなかこちらに来れませんでした」
「大丈夫ですよ。いろいろ丸投げしちゃってますし。てか今日はわざわざお礼を言いに?」
セフィーナさんが気まずそうな顔をしている。
「どうしました?」
「本当に言いづらいのですが。私も昨日知って驚いたんです」
「ん?何がですか?」
「昨日の夜、第2王女殿下からライを食事係として遠征に連れて行きたいと言われました」
「ん?第3王女がですか?」
「いえ、第2王女です」
「ん?」
俺は理解が出来なかった。
「実は第2王女が侍女のふりをしてついて来ていたみたいで、ライの料理を心底気に入ったと言い出したのです」
「え?あの侍女2人のうちの1人が第2王女だったんですか?」
「はい・・・」
俺は驚いた。
「てか王女なのに毒見とかしてましたよ」
「たぶんですが、本物の侍女が先に口にしてたんじゃないですか?」
俺はここ数日の事を思い出してみた、確かにいつも後輩侍女が先に食べていた。
「あーめんどいことになりましたね」
「本当に申し訳ありません。私が第2王女殿下に気付いていれば」
「まあ過ぎたことは仕方ないですよ。ちなみに断れたりします?」
「第3王女殿下のお願いならどうにかできたかもしれませんが、ほとんど面識のない第2王女殿下のお願いを断るのは難しいです」
俺は悩んだ。
もうどうしようもないのが想像がついたので俺は諦めることにした。
「わかりました。諦めて遠征に同行します」
「本当にすみません」
セフィーナさんは深々と頭を下げた。
「問題は、この身体だとスキルも魔法も使えないんですよ」
「え?そうなのですか?」
「はい。それに時々元の身体に戻って食事などをしないと俺は死にます」
「どうしましょう。ライル様!いい案はありませんか」
俺が死ぬと聞き、セフィーナさんは焦っていた。
「とりあえず第2王女にライは村の外に出たことがなく、戦闘スキルもないので出来るだけ鬼将軍の弟子達と一緒に居させてくださいと伝えてください」
「わかりました」
「それと体力がないので出来るだけ調理以外するとき以外は馬車から降ろさないであげてほしいと」
「任せてください」
「とりあえず、今日の夜にヒューズさん達に報告と弟子達と打ち合わせをします」
「よろしくおねがいします」
「そろそろ朝食の時間になるので、セフィーナさんは戻られた方がいいかもしれません。侍女に扮した第2王女がやってきますので」
「わかりました。いろいろ本当にすみません」
セフィーナさんは頭を下げ、キッチンから出て行った。
「とりあえず、朝食の準備するか」
俺は朝食の準備に取り掛かった。
▽ ▽ ▽
俺が下準備をしているといつものようにカレンさんと侍女2人がやってきた。
「本日も料理のご準備をお願い致します」
「はい、任せてください」
俺に話しかけている侍女がたぶん第2王女だろう。
「今日も昨日一昨日と同じメニューにしようと思うのですが大丈夫ですか?」
「はい。問題ありません」
「今日も先に味見をされます?」
「是非、お願いします」
王女殿下は本当に俺の食事が気に入ったようだ。
ここ数日、率先して味見というなのつまみ食いをしていた。
先に本物の侍女が毒見しているが、これだけ王女がつまみ食いをしていたら毒見の意味があるのか疑問だった。
俺は料理を作り終わり、パンに目玉焼きとベーコンと野菜をはさんでマヨネーズをかけたものを侍女に渡した。
「これは?」
「朝食と同じ材料で作ったサンドイッチです。手づかみで大きな口を開けて食べるので、さすがに王女殿下には出せませんので味見限定です」
第2王女は少し戸惑ったが、俺に目線に気付いたのかサンドイッチを手でつかんだ。
本物の侍女が一口食べたのを見て、真似するように食べた。
第2王女はこういう食べ物に慣れていなかったのか、具材がボロボロとこぼれていた。
「そちらの侍女の方はあまりこういうのを召し上がらないんですか?貴族様みたいですね」
「あ、いや。その」
第2王女殿下は少し焦っているように見えた。
「すみません、そんなわけないですよね。貴族様は手で食事なんてしないですし、ましてや大きな口を開けるなんて貴族の女性がするわけないですよね」
「あ、あたりまえです!」
俺の言葉に第2王女殿下は顔を赤らめた。
「どうです?美味しいですか?」
「は、はい。美味しいです。本日もありがとうございました。私達は王女殿下に食事を運びますので失礼致します」
とりあえず騙されていた借りを少し返せただろう。
▽ ▽ ▽
俺は領主代行館での食事作りを終えて、マヌセラの家へ戻っていた。
昼食作りの時も夕食作りの時も第2王女にちょっとした仕返ししてやった。
ここまで恥ずかしめたら、自分が第2王女だとだいぶ言いづらくなっただろう。
それに遠征では作り置きを提供する許可が出たので、侍女の目の前で大量の料理を作った。
家のリビングでヒューズさん達を待っていると、ノヴァと知らない男性も一緒に帰ってきた。
「その方は?」
「ノヴァの親父さんのズサスさんだ」
ヒューズさんがそういうと50代くらいの男性が前に出た。
「ヒューズさん。本当にこの子があんたの雇い主なのか?」
「ええ。それに子供だと侮ってるといろいろ驚かされますよ」
「ほぉー」
ズサスさんは何か関心したようだ。
「それで、ガスター商会はどうでした?」
「ほぼ黒だな」
ヒューズさんは確信しているようだようだ。
「なんでですか?」
「ガスター商会の本拠地がソブラ領なんだ」
「それって大量発生の犯人って冒険者ギルドが睨んでるところですよね?」
「そうだ。しかもガスター商会はソブラ領主のお抱えみたいだ」
「なるほど。ほぼ黒ですね」
嫌がらせをしてきている隣領の商会ってなるとだいぶ怪しい。
「ガスター商会は何か企んでいる」
ズサスさんが呟いた。
「どういうことですか?」
「俺はこの街の漁師だ」
「そうなんですか?」
「ああ。まあ漁師だった、だな」
ズサスさんは悔しそうに話す。
「半年前。この街の漁師の船が故障したり、漁に行くと必ず大量のモンスターに襲われるようになった。そのせいで魚が取れず、街に魚を入れることが出来なかった。仲間の中には職を失ったやつもいた」
「うん…」
「そんなときにガスター商会がこの街にやってきた。奴らはマジックアイテムの船を使って漁をして、街で魚を売り始めた。俺達はモンスターが居なくなったと思い、船を出した。しかし俺達は巨大なモンスターに襲われて漁は出来なかった」
「なるほど…」
「俺以外は漁師を辞めざるをえなくなった。街ではガスター商会が魚の値段を今までの3倍以上で売り出した。いままでマヌセラでは釣れた魚をほとんど街で消費していた。だが飲食店や商店は魚を仕入れることが出来なくなり、街の人も簡単に魚を買うことは出来なくなってしまった」
「活気が無かったり、浮浪者みたいな人が居たのはそういう理由か」
ズサスさんは怒りに震えていた。
「俺はその状況を変えたくて娘のノヴァに帰ってきてもらった。モンスターを退治すれば、また漁ができるかもしれない。仲間が帰ってくるかもしれない。街のみんなに今までのように魚を食べさせてあげられるかもしれない…」
ノヴァが申し訳なさそうに口を開いた。
「海の巡回しても数回の大量発生だけしか見つけられず。巨大なモンスターは見つからなかった…」
「俺は今回の話を聞いて、ガスター商会がこの街に来る前に起きていた大量発生も意図的じゃないかと思っている」
「そうですね。その可能性は高そうですね」
俺の中でもガスター商会が何か企んでいると感じた。
「ヒューズさん。この件を片付けましょう」
「そのつもりだが、ライルの方はどうなんだ?明日弟子達は出発だろ?」
「あーそうだった」
俺は今日起こったことをヒューズさんに伝えた。
「お前もなかなかのトラブル起きてるな」
「ほんとですよ。騙されたのが気に食わなかったので、第2王女をちょっとからかいました」
「お前のその度胸はなんなんだよ」
「じゃあガスター商会に手を出すのはちょっと待っててもらえます?」
「なんでだ?」
ヒューズさんは首をかしげた。
「証拠があれば4人で簡単につぶせると思いますが、一応弟子達にもいろいろ経験させたいんですよ。それに潰すときは徹底的にやらないと」
「あーなるほど。それまでは証拠集めをしとけってことだな」
ヒューズさんは頷いた。
「ノヴァとズサスさんもそれでいいですか?」
「うちは早く解決したい」
ノヴァは納得がいってないようだった。
「そうですよね。確実な証拠があれば4人で潰してもらってもいいですけど…」
ズサスさんが口を開く。
「ノヴァ。協力してもらうんだ。ライルくんの意見を聞こう」
「お父さん…」
「それに徹底的につぶしてくれるんだろ?」
「徹底的につぶすのは得意分野です!」
「…わかった。それでいい」
ノヴァは完全に納得はしてないようだが、俺の意見を呑んでくれた。
俺はヒューズさんへの報告を終えて、村へ帰った。
村へ帰り、弟子達といろいろ打ち合わせをして俺は休むことにした。




