227.不機嫌なヒューズ
俺は家に戻り、すぐにマヌセラに戻った。
マヌセラの家に着くと、なぜか落ち込んでいるヒューズさんがいた。
「どうしたんですか?」
「リリアンとクララが見つかった」
「見つかった?」
リリアンさんとクララさんを見ると2人もなぜか落ち込んでいる。
「どういうことですか?」
「こいつらが街を見て周ってる時にノヴァと出くわしやがったんだよ」
「あのトラブルを引き寄せてしまう?」
「そうだ。見かけた瞬間ばれないように逃げたらしいが、追いかけられてこの家までばれた」
「え?」
「それで俺も見つかり、明日海のモンスター討伐に行くことになった」
「断らなかったんですか?」
「街のためって言われたら断れないだろ。ノヴァもいい奴だから断りずらいんだよ。あー会わないのが一番だったんだよ」
リリアンさんとクララさんは申し訳なさそうにしている。
「ごめんリーダー」
「いや、しょうがねーよ。明日は大仕事になる可能性があるから気合入れていくぞ」
「「うん」」
3人は腹をくくったようだった。
「ライル、お前は何してたんだ?」
「なんかいろいろあって王女が出発するまでの間、領主代行館で朝昼夜の食事を作ることになりました」
「なんでそんなことになってんだよ」
「まあポゼッションドール使ってるので、めんどくさいことにはならないと思います」
「ならいいが気をつけろよ。お前の異常さがバレたらマジで面倒だからな」
「異常って言わないでもらえます?まあ気をつけますよ」
ヒューズさん達は明日に備えて早めに寝るらしい。俺も朝食作りで早いので村に戻って寝ることにした。
▽ ▽ ▽
翌朝、俺は領主代行館の厨房にいた。
朝食はパンとサラダとベーコンとスクランブルエッグと野菜スープだ。
俺が調理の準備をしていると、侍女の後輩っぽい方が厨房に入ってきた。
「おはようございます。ライ様」
「おはようございます。もう調理始めていいですかね?」
「はい。お願い致します」
侍女の了解を得たので、調理を始めた。
俺は調理をしている間、暇だったので侍女に喋りかけた。
「今日はお一人なんですね」
「は、はい。そうです」
「当番制なんですか?」
「い、いえ。あ、はい。そうです」
俺にいきなりしゃべりかけられて驚いているのか返答がおかしかった。
「そうなんですね。王女様って好き嫌いとかあるんですか?」
「王女様は基本何でも食べられます」
「それなら安心してメニューが考えられます」
ぎこちない会話をしているうちに俺は調理を終わらせた。
「できました。毒見お願いします」
「はい。ありがとうございます」
侍女は毒見を済ませ、食事をもっていった。
俺は秘密の通路を使い、家へ帰宅して昼食までの時間をつぶした。
▽ ▽ ▽
昼食を作りに来た。
朝と違い昼食の調理には侍女が2人来ていた。
「「ライ様、よろしくおねがいします」」
「はい。下準備は出来てるので、パスタ作りますね」
俺はパパッとペペロンチーノを作る。
侍女の先輩っぽい方が食べたそうな顔をしていた。
「味見します?」
俺が顔を見ていたことに気付いたみたいで、恥ずかしそうにしていた。
「た、食べます」
小皿にペペロンチーノを入れて、侍女2人に渡してあげた。
2人は美味しそうに食べていた。
▽ ▽ ▽
昼食を作り終わった俺はマヌセラに行った。
マヌセラの街の様子を見ようと出かけようとしたら、びちょびちょのヒューズさん達が帰ってきた。
「どうしたんですか?」
「大量発生と遭遇したのよ」
リリアンさんが珍しく不機嫌だった。
「なんでそんなにびちょびちょなんです?」
「それはこいつに聞け」
ヒューズさんが指差す方向を見ると、大きな釣竿を背負った長身の青髪の女性が居た。
「ははは。ごめんごめん」
「ごめんごめんじゃねーよ!」
「そんな怒んないでよ」
ヒューズさんが青髪の女性と言い争いを始めた。
「えーっとこの方がノヴァさん?」
「うん。君がライルだね。うちのことはノヴァって呼んでくれていいよ」
ノヴァさんは気さくな雰囲気の女性だったが、少し褐色な身体には傷跡が見られた。
「わかりました。ノヴァとヒューズさん達で海のモンスター討伐に行ったんですよね?」
「そうだ。船で海を巡回していると、ソードスクイ―ドの大量発生を見つけた」
「討伐していたら、ランススクイ―ドとニードルスクイ―ドも大量に現れたのよ」
「しかも上位種も3体!」
3人がものすごく良きピッタリに話始めた。
「そしたら使っていた船が壊れた。リリアンが魔法で修繕したから何とかなったが、リリアンは戦闘に参加できず」
「ヒューズとクララとノヴァがモンスターを倒してたら、また違う大量発生も来たの」
「ポイズンフィッシュって攻撃してこないけど、当たると毒を喰らうやつ!」
「やっと全部倒したと思ったら、海の奥の方で怪しい船が卵を撒いてるのを発見したんだよ」
「え?大量発生の犯人?」
「多分そうだ」
「多分?」
この4人が戦っているところを見たことがないが、話を聞いてる限り取り逃すことは想像できなかった。
「ちょうど撒いてた卵が孵ったんだよ」
「そこから出てきたんだよ!ダートシャークの上位種!」
「そいつが私達の船を破壊してしまって、犯人を追うことが出来なかったわ」
「え?大量発生する前に上位種が生まれることなんてあるんですか?」
「知らん!でも実際にあったんだよ」
ヒューズさんは不機嫌だ。
「それがノヴァの武器のせいなんですか?」
「ハハハ。うちの運が悪かったんだよねー」
「運が悪かった?」
俺がそう聞くとノヴァはマジックバックから大きな釣竿を取り出した。
「これは賭博王の魔竿って武器なんだけど。ここに数字が書いてあるところがあるだろ?」
「はい」
釣竿の数字が書いてある回転盤が付いていた。
「ここを回して出た数字によって、こいつの能力が変わるんだ」
「え?」
「1~7が出ればいいんだけどね。髑髏マークを出すと不運なことが起きるんだ」
「な、なるほど…」
俺がノヴァから武器の話を聞いてると、ヒューズさんは怒鳴り気味で話始めた。
「その髑髏マークを今日は4回も出しやがったんだよ」
「あーそれで…」
「ダートシャークの上位種を倒したが、帰る脚が無くて泳いで帰ってくることになった」
「なるほど、それでびちょびちょなんですね」
「ああ」
ヒューズさんの機嫌は治らなかった。
俺は話を変えようと口を開いた。
「犯人の目星とかついてるんですか?」
不機嫌なヒューズさんの代わりにノヴァが答えた。
「うーん。うちの予想だと、ガスター商会が怪しい」
「あの綺麗な港の?」
「うん。ここら辺であんな良いマジックアイテムの船を使ってるのはあそこだけだからね」
「なるほど」
「ノヴァの勘違いじゃないのか?」
ヒューズさんはまだ機嫌が悪い。
リリアンさんが近づいてきた。
「ライルくん。お願いがあるんだけど」
「なんですか?」
「ヒューズも機嫌悪いし、ノヴァも気まずそうだから、美味しいご飯を食べさせてあげたいの」
「わかりましたよ。ビールはないですけどいいですか?」
「うん。お願い!」
「わかりましたから、みんなはお風呂に入ってきてください」
俺はキッチンに行き、料理を作り始めた。
今日はずーっと料理しているな。




