225. マヌセラの港町
俺達はマヌセラの街に向かってから4日経っていた。
大量発生の襲撃が数回あったがノコとライムが対応していたため、快適な旅だった。
「やっぱりなかなか遠いですね」
「カラッカ領で最南端だからな。でもマヌセラかー」
ヒューズさんはあまり乗り気ではなさそうだった。
「なんでそんな嫌そうなんですか?」
「嫌ではないんだけどな」
「最後に行ったのはだいぶ前だけどマヌセラっていい街だったじゃない」
「私は行ったことないから楽しみ―!」
対照的にリリアンさんとクララさんは楽しみにしていた。
「街はいいんだけどな、多分あいつがいる」
「あいつ?」
ヒューズさんがそういうとリリアンさんが何かを思い出したようだ。
「え?まさか」
「そうだよ、半年くらい前から地元を拠点にしてるって言ってたろ?」
「誰の話してる?私も知ってる人?」
「お前もよく知ってるよ。マヌセラはノヴァの地元だ」
「うえーノヴァかー」
クララさんはノヴァという名前を聞いてすごく嫌そうにしていた。
「そんな嫌がるって、ノヴァって人は何者なんですか?」
「ノヴァはソロBランク冒険者。海獣のノヴァ」
「Bランク冒険者?性格が悪いんですか?それとも仲が悪いとか?」
「仲は良いぞ。それにだいぶ良い奴だ。だけどある部分が問題なんだよ」
「ある部分?」
「ノヴァの武器は不運を引き起こすんだ」
「どういうことですか?」
不運を引き起こす武器と言われても理解ができなかった。
「前にマグマクロウという鳥のモンスターの群れを討伐する依頼をノヴァと一緒に受けた。現地に行き、討伐を進めていると上位種のマグマレイブンが10羽現れた。そいつらも討伐するとマグマレイブンの棲家だった火山が噴火するし、マグマレイブンを餌にしていたストーンドラゴンも現れ、ぐちゃぐちゃになったんだ」
ヒューズさんは思い出話をするだけで身体をゆがませていた。
「え?それってたまたまではなく?」
「あいつと一緒に受けた依頼のほとんどでこういう事件が起きた」
「それは…」
「一番めんどくさいのは、そういう不運を撥ね退けるくらい強いんだ」
「そうだねー。ノヴァは強いよねー」
「性格もいいから、責めれないしね」
3人の話している雰囲気で、心の底から嫌っている相手では無いということが感じられた。
「話を聞いている限り、あんまり会いたくはないですね」
「たまたま居ないことを願おう」
俺達はノヴァと出会はないことを願いながら旅路を進めた。
▽ ▽ ▽
ノヴァの話を聞いてから3日経った。
馬車の窓からは広大な海が見えてきた。
「お!そろそろですかね?」
「そうだな。海が見えてきたってことはそうだ」
マヌセラの街の入り口が見えてきた。
城壁は石で出来ていたがカラッカの街ほど大きな物ではなかった。
門で街への入るための手続きを終わらせて、街の中を進んだ。
「もう商人ギルドへ向かうか?」
「いや、港が見たいです」
「わかった。そしたらとりあえず海のほうへ行くぞ」
「お願いします」
マヌセラの街は人口もそれなりにいるみたいだった。
カラッカの街より古い雰囲気で俺は気に入った。
馬車を走らせると、たくさんの船がある綺麗な港が見えてきた。
「なんか想像よりきれいなところですね。なんか船もマジックアイテムみたいなのばっかりだ」
「え?いや、マヌセラはそんな街じゃないはずだぞ?」
ヒューズさんは驚いていた。
「でもすごい最先端の港ですよ」
「リリアン、前来た時ってこんなに感じだったか?」
「いいえ、もっと古びた港町だったしマジックアイテムの船なんてなかったわ」
「景気が良くなったのかなー?」
「うーん。魚の運搬をほとんどしないから、大儲けすることはないんだと思うが」
綺麗な港に近づくと柵に囲まれていた。
柵には大きな看板が立てられていた。
「ガスター商会専用漁港?部外者立ち入り禁止。なんかここは商会の漁港みたいですね」
「だよな。俺が知っているのはあっちだ」
ヒューズさんが指を差す方向を見ると、大きいがだいぶ古びた漁港があった。
しかも船の数が漁港の広さに合わないくらい少なかった。
「もしかしたら、ガスター商会っていうのが漁港のまとめ役として動いたりしてるんですかね?だからあの漁港は使わなくなったとか」
「その可能性はあるな。漁師達を雇って、マジックアイテムの船を使わせるなんてだいぶ儲かってるんだろうな」
俺達は古びた漁港を通り過ぎて、商人ギルドに向かうことにした。
▽ ▽ ▽
俺はヒューズさんとゴーレと商人ギルドに入って行った。
リリアンさん達は馬車で少し街を見て周りたいそうなので、一旦ここで別れることになった。
受付でアイザックさんが言っていたガークさんを呼び出すことに。
「すみません。商人ギルドのアイザックさんの紹介状を持っているんですが、ガークさんを取り次いでもらえますか?」
「は、はい。少々お待ちください。すぐに呼んで参ります」
受付の人は足早に奥へ消えて行った。
数分すると、若い男性がやってきた。
「ガークと申します。アイザックの紹介状をお持ちいただいた、ライル商会のライル様ですね?」
ガークさんはヒューズさんに挨拶をした。
「あー。俺はライルじゃない。こいつがライルだ」
ヒューズさんは俺を指を指した。
「え?」
ガークさんは驚いたがすぐに表情を戻した。
「大変申し訳ありません。ライル様、こちらでお話を伺います」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
俺達はガークさんに案内されて応接室に入った。
応接室はカラッカほど豪華ではなかったが綺麗な部屋だった。
「紹介状を見ましたが、アイザックがギルドマスターになったというのは本当なんですか?」
「そうです。うちの村の商人ギルドでギルドマスターをやってますよ」
「大変失礼なのですが、ライル商会というのはあのライル商会ですか?」
「あの?」
「シモンキリーのライル商会ですか?」
「あーうちの商品ですよ」
俺がそういうと、ガークさんは目を輝かせた。
「本当ですか!あの商品は本当に素晴らしいです!最近話題のあのライル商会がこの街に来てくれるなんて」
ガークさんは興奮しているようだった。
「アイザックはいいパートナーを見つけたんですね」
「アイザックさんと仲がいいんですか?」
「仲は良い方だと思います。数年会っていませんが、商人ギルドの同期です」
「そうなんですね」
「新人研修の時は同じ街に配属になっていたので、他の同期よりは仲がいいと思いますよ。でもあのアイザックがギルドマスターか」
ガークさんは悔しそうだが、どこか嬉しそうだった。
「すみません。だいぶ脱線してしまいました。紹介状に書いてあった内容だと、土地を購入したいというお話ですが」
「そうです。建物はスキルで作ることができるので、土地だけ購入したいです」
「なるほど」
「あとテイムモンスターが居るので、出来るだけ広い土地を買いたいです」
「わかりました。探してみますので、少しお待ちください」
ガークさんは部屋から出て行った。
数分後、ガークさんは数枚の資料をもって戻ってきた。
「大きめの土地だとこのあたりになりますね。すみません、量が少ないんですが」
「見てみますね」
ガークさんが渡してくれた資料を見てみるが、正直あまりよくない。
多分繋がっている広い土地があまりないのだろう。
いびつな形の土地が多かった。
「うーん」
「あんまりよくないですよね。すみません」
ガークさんを見ると、まだ俺に渡していない資料を持っていた。
「それは?」
「広い土地なのですが、街の中心から遠くあまり建物を建てるのに向いていない土地の資料です」
「見せてもらえます?」
「わかりました」
俺は資料を受取り、見てみた。
「あれ?これ良くないですか?砂浜が近いし。どこが向いてないんですか?」
「砂浜近くで地盤が緩いんです。昔は貴族の別荘があったのですが、地盤が崩れてしまったせいで別荘が倒壊してしまったんです」
街の中心から離れているが、貴族の別荘があったおかげで道が整備されているみたいだ。
馬車で行きやすいから良いな。
「問題ないです。ここ買います!」
「本当ですか?地盤が緩くて、建物を建てるのには本当に向いてないんですよ?」
「大丈夫です。貴族の別荘があったおかげか、街の中心から離れているのに道がしっかりあるのがいいです。それに街の端っこにあるのがとてもいいです」
ガークさんは少し不安そうにしていた。
「そ、そうですか。ではどれくらい購入されますか?」
「砂浜も買えます?」
「可能ですよ。砂浜に面している海も規定範囲なら購入できます」
「じゃあここら辺まで買います」
俺は資料を指を指し、範囲を伝えた。
「え?こんなに?」
「はい。手続きお願いします」
「わかりました」
ガークさんは驚いたようだが、すぐに手続きの準備を進めてくれた。
俺は『秘密基地』でいうと大体12マス購入した。
城壁と海の一部は購入できなかった。
未未未壁
未未未壁
砂砂砂壁
海海海壁
海海海海
俺はガークさんに挨拶を済ませ、すぐに購入した土地に向かった
リリアンさん達が馬車を使っているので、ヒューズさんとゴーレと歩いて向かうことにした。
「口出しはしなかったが、本当にわけありの土地でいいのか?」
「地盤の緩さは『地面硬化』でどうにでもできますし、せっかくの海がある街なら別荘っぽくしたいじゃないですか」
「そういうものか?」
「そういうものです」
街中を話しながら歩いていると、目につくものが多くあった。
「ヒューズさん。なんか活気が思ったよりないですよね?」
「そうだな。前来た時はもっと活気があったと思ったが」
「それにボロボロの人多くないですか?」
ここまで来る間にボロボロの人と数人とすれ違った。
「浮浪者か。俺はこの雰囲気を知ってる」
「…浮浪者ですか」
話していると、購入した土地に到着した。
「だいぶ歩いたな」
「そうですね。距離はありましたが、馬車が通れる道がちゃんとあったのでよかったです」
「俺はゆっくり休みたいから、早めにやってくれ」
「わかりました!秘密基地!」
俺は秘密基地を使い、購入した土地をいじった。
芝厩家壁
芝芝家壁
砂砂砂壁
海海海壁
海海海海
まずは地面硬化をして地盤を固めた。
家と厩舎は村にある疾風の斧の家と同じように建てた。
砂浜と庭がつながっている様にしたかったので、いつものように柵で囲うようにせずに芝作成だけを使った。
海の途中まで街の城壁があったので同じ位置まで石塀を作成し秘密基地を囲い、街へつながる道に面している部分を門扉にした。
「よし!終わりましたよ」
「風呂はあるか?」
「ありますよ!一応2つ作りました」
「じゃあ俺は入るぞ」
「どうぞ。俺は1度、村の様子を見てきます。ゴーレ、リリアンさん達を呼んできてもらえる?」
「承知致しました」
俺は秘密の通路を繋ぎ、ヤルク村に戻った。




