221. 鬼将軍の調理場
対策会議の翌日、弟子達は朝早くからヤルクダンジョンに入って行った。
あのオークとワ―ウルフの話をしたせいかニーナ達のやる気がすごいことになっていた。
疾風の斧は学び舎で授業をしている。
俺はいつものように庭でフリード達と戯れていた。
するとゴーレが俺を呼びに来た。
「ライル様。マデリンさんとイルデンさんがお探しです」
「わかった。すぐ向かう」
俺はフリード達と別れ、鍛冶屋に向かった。
鍛冶屋に付くとガルスタンとマデリンとイルデンとソーバスが居た。
「おまたせ、どうしたの?」
「ライル様、エルフ達の変装用の魔道具が出来ました」
マデリンが渡してくれた腕輪は宝石が使われており、デザインがものすごくおしゃれだった。
「え?これをイルデンが作ったの?すごい良いよ!」
「あ、ありがとうございます」
イルデンは照れていた。
「一応エルフの人数分作ってあります。ソーバスお願いできる?」
「はい」
腕輪を付けたソーバスが魔力を込めると、エルフ特有の金色の髪は茶色に変わり、尖った耳も丸くなった。
肌も心なしか肌色に近い色になった。
「おー凄い!ほんとにすごいよこれ」
「ありがとうございます。少量の魔力で使えるようにしていますので、魔力が少ない人でも扱えます」
「わかった。そうしたらこれを渡してくるね」
「はい。よろしくおねがいします」
俺は腕輪をマジックバックに入れた。
「そういえば、カラッカの店舗で売るものの準備は大丈夫そう?」
「問題ないです!一応目玉商品も用意したので」
ガルスタンはドヤ顔だった。
「アタイはこういうものを売ろうかと思っているんですがどうでしょう?」
イルデンが渡してくれたのは、鉄や金がベースの宝石が付いている指輪やブレスレットやネックレスだった。
デザインがものすごくおしゃれだった。
「これはすごい。絶対売れるよ!」
「あ、ありがとうございます」
「こういうのの値段とかあんまりわからないから、イルデンの方で値段設定をお願い」
「わかりました。それとご相談なんですが」
「ん?」
「村の女性陣に宝石を使った装飾品をプレゼントしたいのですが良いでしょうか?」
「ほんと?みんな喜ぶよ!ありがとう」
「いえ、村の一員として迎えてくれたお礼をしたくて」
「絶対みんな喜ぶよ!」
イルデンも最初に合った時よりもだいぶ丸くなったみたいだ。
俺は4人と別れ、商人ギルドへ向かった。
▽ ▽ ▽
商人ギルドの一部屋では、アイザックさんによる接客講座が行われていた。
参加者はカラッカで働くエルフ達とビューロとバイロだ。
俺は邪魔にならない様に後ろの方で見学していた。
講座が終わったので、みんなに話しかけに行った。
「おつかれ。イルデンとマデリンが魔道具を作ってくれたから、試してほしいんだけどいいかな?」
「「「「「「「はい」」」」」」
みんなは俺から魔道具を受取って試していく。
「え?すごい」
「耳が丸くなってるぞ」
「お前どっからどう見ても人間だ!」
エルフ達ははしゃいでいた。
「問題なさそうだね。どうですか、アイザックさん」
「これは驚きました。これで営業を進められそうですね」
「商品状況はどんな感じですか?」
「問題ありません。明日にでもオープンできます」
「うーん。なんか宣伝とかしたいですね」
「そうですね。張り紙とか張り出しますか?」
「もっと確実性があるものがいいなー。あっ!」
俺は使えそうな案を思いついた。
「いや、いい手を思いつきました。宣伝はしときますんで、明日オープンで進めてください」
「わかりました」
「あとアルゴットとフィアナを借りますね」
俺とゴーレは商人ギルドをあとにして、2人を連れてカラッカに向かった。
▽ ▽ ▽
アルゴットとフィアナとカラッカのレストランへ来ていた。
ゴーレは俺のあるお願いのために街へ出ていた。
2人は法被型の調理白衣に着替えていた。
見た目だけなら日本料理屋のようだ。
白衣の胸元にはライル商会のロゴがあった。
裁縫部ががんばってくれたようだ。
アルゴットが恐る恐る俺に話しかけてきた。
「ライル様。このレストランの名前はどうしますか?」
「あー名前か。でも村のレストランも名前がないからなー」
「え?レストランライルって名前じゃないんですか?」
俺は初めて聞いた単語に驚いた。
「何それ、初めて聞いたよ」
「ブライズさんがそう言っていたので」
いつの間にか村のレストランには名前が付いていた。
村に帰ったらブライズさんにはお説教だな。
「じゃあブライズさんに変な名前を付けられる前に考えないとなー。何でもいい?」
「「はい!」」
俺はもの凄く悩んでいると、レストランの扉が開いた。
「おーライル!いきなりゴーレさんに呼ばれてびっくりしたぞ」
雷虎の拳の3人がやってきた。
「わざわざありがとうございます。ちょっとお願いがあって」
「なんだ?何でも聞くぞ?ってかここお前の店か?」
ガッツさんは店内を見渡している。
「はい。明日オープンなんですが、宣伝をお願いしたくて」
「宣伝?」
「街やギルドでこの店の話をしてくれるだけでいいんです。そのかわり、今日はうちの新しい料理人達が作る料理を好きなだけ食べていいんで」
俺がそういうと3人は目の色が変わった。
「本当ですか!?」
「また、村の料理を食べれるなんて幸せ!」
「ライル、あれはあるのか?」
「ビールですか?ありますけど、今日は1杯だけです」
「なんでだよ!」
「あれ?忘れました?初対面のあの日の事を」
俺がそういうとガッツさんは顔をこわばらせた。
「い、1杯でもうれしいぞ俺は。ははは」
2人に調理を始めてもらい、俺はガッツさん達を席に案内した。
「それで、皆さんビールでいいんですか?」
「「「はい!」」」
俺は秘密の通路を使ってビールを3杯作り、また秘密の通路を通って戻ってきた。
「どうぞ!」
「ありがとな!そういえば、あの料理人は雇ったのか?」
「あーあの2人はうちのエルフです。魔道具で人間に見えるようになってますが」
「「「え?」」」
3人はアルゴットとフィアナをジロジロ見ている。
「うちにイルデンって細工師が来てくれたおかげで、マデリンの付与の幅が広がったんですよ」
「「「イルデンってあの?」」」
3人はイルデンを知っているようだ。
「あーなんか有名みたいですね」
「お前はほんとにすごいな」
ガッツさんがあきれたように口を開いた。
「ははは。褒められてないですよね」
「褒めてないな」
「ビールはいらない?」
「褒めてる褒めてる」
ガッツさんは焦ったように訂正をした。
ガッツさん達にまずはサラダと枝豆を提供した。
3人は食べながら話し始めた。
「そういえば数日後に村に行くぞ」
「おーお待ちしてます。ポーラさんに会いにですか?」
「それもあるが、次の仕事の集合場所がヤルク村なんだよ。だから早めに行って、ポーラと過ごそうかと」
「あっ。それって王女が指揮してる遠征ですか?」
「良く知ってるな!」
「うちの弟子達も参加することになってます」
「あーだからか」
ガッツさんは納得したようだった。
「ガッツさん達にお願いがあるんです。王女が村に来たら、俺と疾風の斧は遠出をするので、俺達の話題はなるべく出さないでください」
俺が3人にお願いをした。
すると3人は驚いた表情を一瞬するが、すぐにニヤニヤし始めた。
「ふーん。王女に言っちゃいそうだなー。なあお前ら」
「そうですね。口が滑るかもしれないですね」
「私も口が滑るかもです」
ガッツさん達はわかりやすく俺を脅してきた。
「わかりました。ビール2杯まで良いですから」
「ん?」
「はぁー。3杯!これ以上は宣伝が出来なくなりそうなので駄目です」
「ありがとなライル」
「「ありがとー」」
ガッツさん達は上機嫌になっていた。
ガッツさん達と話していると、レストランの扉が開いた。
「ここでいいのか?げっ!やっぱり居たか」
レストランに来たのは光剣の輝きだった。
「良く来て下さりました。最近は真面目にやっているようで」
「お前に言われた通り、お手本になれるように努力してる」
ジェイクは恥ずかしそうに言った。
「ダンジョンも攻略して、鼻がまた高くならないか心配ですけどね」
「そうならないように努力している。てかなんで呼び出したんだ?いきなりあのゴーレムに呼び止められたときはやな思い出が頭の中を埋め尽くしたぞ」
ジェイクとガンクは普通にしているが、後ろにいる二人は少しおびえているようだ。
「いやお願いがあって。俺に借りがありますよね?」
「なんだ?借りはあるが、内容次第では断るぞ」
俺の不敵な言い方で後ろの2人はもっとおびえていた。
「ここ俺の経営しているレストランなんだけど、飯食ってくんない?」
「「「「え?」」」」
身構えていた光剣の輝きはあっけにとられていた。
「明日オープンなんだけど、全然宣伝してなくてさ。だから食べた正直な感想を街で広めてくんない?」
「まずかったらまずいって言うぞ?」
「まずくないから大丈夫だし、まずかったらまずいって広めてくれていいから」
「わかった。金はいいのか?」
「こっちがお願いしてるから、好きなだけ食ってくれ」
「わかった」
ジェイクは疑っているようだが、とりあえず納得してくれたようだ。
俺は光剣の輝きを席に案内した。
「4人は酒飲めるの?」
「俺とガンクは飲めるけど、ジャンナとカーランは苦手だ」
魔法使いの女がジャンナで弓使いの男がカーランというようだ。
「じゃあジェイクとガンクはうちのおすすめの酒で、ジャンナとカーランはイチゴと牛乳でできた飲み物でいい?」
「問題ない」
ジャンナとカーランは小さく頷いた。
俺がドリンクを取りに行こうとすると、トレスがこっちの店舗に来ていた。
俺が秘密の通路を通ろうとすると、俺を腕を掴んだ。
「ん?どうした?」
トレスに聞こうと声をかけると、秘密の通路からターがドリンクをもって出てきた。
「伝えておいてくれたのか。ありがとう」
トレスは俺を離してくれた。
俺はドリンクと枝豆とサラダをもって、光剣の輝きのテーブルに行った。
「ジェイクとガンクはビールって酒だ。うちの商会でしか扱ってないから心して飲めよ」
「大袈裟じゃないか?」
ジェイクはジョッキの中身をジロジロ見ている。
「ジャンナとカーランはうちで獲れたイチゴと牛乳を使ったイチゴミルク」
「あ、ありがとう」
4人は飲み物に口を付けた。
「は?うま!」
「んー」
「甘―い!」
「おいしい」
予想通りだった。
「料理は勝手にどんどん出てくるから、食えなくなる前に俺達に教えてくれよ」
「ん、んかった」
「コップから口はずして話せ。あとビールは3杯までだからな」
「「え!」」
俺はトレスとターにホールを任せて調理場に行った。
アルゴット達に料理の進捗を聞いた。
「どう?」
「問題ないです」
2人の作業は順調なようだ。
「あいつらをビビらせる1品ってなんかあるかな?」
「うーん。カレー?パスタ?から揚げ?とかですかね?」
「よし。全部作ろう」
「「はい!」」
アルゴットとフィアナは気合を入れ直して調理を続けた。
▽ ▽ ▽
雷虎の拳と光剣の輝きは腹いっぱいになるまで、食事を楽しんだ。
「ジェイク、うちの料理はどうだった?」
「今まで食べた飯の中で1番だった」
「だろ?宣伝頼むぞ」
「わかってる。約束だからな」
「ガッツさんもお願いしますよ」
「わかってるよ。そういえば店の名前はなんていうんだ?」
「そうだ。それが分からないと宣伝できないぞ」
「忘れてたー。ゴーレ、アリソン呼んできて」
「承知致しました」
ゴーレは秘密の通路を通って行った。
「まだ名前ないんですけどなんかいいの無いですか?ジェイク達も考えてくれ」
俺は店の名前の案を7人に求めた。
するとガッツさんがアルゴットを指さした。
「ライル。あの服の刺繍が店のロゴじゃないのか?」
「あれはうちの商会のロゴです」
「あーそうなのか。なんかあのロゴ良いな。ライルっぽくて」
「うちに従業員が作ってくれました」
「鬼将軍感が強くてだいぶ良いぞ!」
「え?」
「あの馬に乗ってるのお前だろ?」
「そうですよ」
「角生えてるじゃん」
「え?」
俺はアルゴットの制服を良く見た。
この前俺がリクエストした、躍動感を出すために毛をなびかせてくれというのがしっかり反映されていた。
だけど俺の髪も躍動感が出ているせいで、髪の毛が角みたいになっていた。
「いや、あれは角じゃなくて髪の毛ですよ」
「良いじゃないか角で。なあジェイク」
「俺も角だと思っていた」
残りの5人も頷いた。
ガッツさんは思いついたように口を開いた。
「じゃあ鬼将軍の調理場でいいじゃねーか」
「いやそれは」
「「いいですね!」」
アルゴットとフィアナが食い気味で賛成をした。
「2人とも本当にいいの?鬼将軍の調理場ってなんか血みどろしてそうじゃない?」
「すみません。私達も実は「鬼将軍の」っていうのに憧れていて」
「ライル様が許していただけるのなら、鬼将軍の調理場という名前にしたいです」
2人の懇願するような目を見たら断れなくなってしまった。
「わかったよ」
「「ありがとうございます」」
カラッカのレストランの名前が鬼将軍の調理場に決まった。
「ライル様。アリソンさんをお連れしました」
「ありがとう。アリソン悪いんだけどこのレストランの名前が鬼将軍の調理場になったから、看板デザインしてガルスタンに早急に作らせて」
「わかりました!他の店舗も合わせて作って問題ないですか?」
「いいよ!明日オープンだから出来るだけ急いでね」
「わかりました」
アリソンは村に戻って行った。
俺はジェイクを睨んだ。
「な、なんだよ」
「お前をボコボコにしてから鬼将軍って呼ばれるようになったんだからな」
「俺達のせいかよ!」
「ちゃんと宣伝しろよ?じゃないと俺はお前達にまた模擬戦を申し込むことになる」
「わかったよ!」
「頼んだぞ。あと、遠征の集合場所だけどうちの村だから悪さするなよ」
ジェイク達は驚いていた。
「マジかよ!お前の村じゃなくてもしねーよ!じゃあ俺らはそろそろ行くからな」
「ありがとな来てくれて」
「借りがあるからな」
「村のレストランではビール売ってるから早めに来てもいいぞ。金は払わせるけどな」
「わかったよ」
光剣の輝きは帰って行った。
「俺達も宣伝してくるかな」
「ビール3杯飲んだんですからね。明日満席が1回も無かったらポーラさんに告げ口しますから」
「満席?こんな広い店を?わ、わかったよ。頑張って宣伝するから」
「お願いしますね」
雷虎の拳も帰って行った。
俺はアルゴットとフィアナを労い、村へ帰った。




