218.ポゼッションドール
朝から弟子達はカラッカの冒険者ギルドに向かった。
俺は攻略を信じて、王女対策をすることにした。
疾風の斧の拠点に行くと、ヒューズさんだけが居た。
「あれ?リリアンさんとクララさんは?」
「学び舎に新しい生徒が来たから、授業をしに行ったぞ。俺は今日は休みだ」
「そうなんですね。ヒューズさんって王女と関わるの嫌なんでしたっけ?」
「関わらなきゃいけない状況なら諦めるが、出来るだけお偉いさんたちとは関わりたくないな」
「俺と一緒に王女対策してみませんか?」
「王女対策?」
ヒューズさんは何を言っているのかわかってないようだ。
理解していないヒューズさんを引っ張り出して、俺は家の庭に向かった。
「それでなんなんだ?王女対策って」
「こんなアイテムをゲットしまして」
俺はポゼッションドールを2つ取り出した。
「ん?なんだこの人形は」
「自分の意識を憑依させて動かせる人形らしいです」
「そんなもんがあるのか?」
「容姿も本人ベースにはなりますが変更できるみたいです」
「面白そうだな、やってみるか」
俺とヒューズさんは魔力を込めて容姿を変更する。
「容姿は15歳ぐらいにするか?」
「そうですね。まあやってみましょう」
魔力を込めるとポゼッションドールの姿が変わり、15歳の俺と15歳のヒューズさんが目の前にいた。
「うわ!俺こんな感じになるのか」
「俺なんて、マジでこんな感じだったぞ」
「てかなんでヒューズさんは少し筋肉質なんですか?」
「俺ベースで作ってるからだろ?ライルはひょろひょろだな」
「うるさいですよ。とりあえず憑依させたら、身体は仮死状態になるらしいのでこれをゴーレに使ってもらいます」
俺は悪魔の鳥籠を取り出し、ゴーレに渡した。
「これに人を入れて持ち運べるみたいなんで、憑依後にこれに入れてもらいましょう」
「お前は変なアイテムばっかり持ってるな」
「『秘密基地』のおかげです。じゃあ憑依させますよ」
「おう」
俺達は15歳の自分の姿になったポゼッションドールに触れた。
すると目の前に意識がなくなっている俺とヒューズさんを支えるゴーレが居た。
「おっ?できた感じですね」
「そうだな。この身体に慣れるまで時間かかりそうだな」
15歳のヒューズさんは身体を動かしていろいろ確かめている。
「じゃあゴーレ。本体は鳥籠に入れておいて」
俺は本体からマジックバッグを取り、ヒューズさんも装備していたものを回収した。
「わかりました」
ゴーレが俺達の身体に触れるとその場から消えて、鳥籠の中を見ると小さい俺達が入っていた。
「よし。これで大丈夫だろ」
「ライル。この身体スキルも魔法も使えない」
「え?」
「武器とかは少しは扱えるだろうけど、この身体じゃゴブリンと戦ったらギリ勝てるレベルだ」
「じゃあ出来るだけ安全に使うしかないですね。もし王女に会っても。この身体なら今後に影響することはなさそうですね」
「この身体がA級冒険者と商会長なんて誰も思わんだろ。まあお前は元の身体でも商会長とは思われないだろうけどな」
「まあそうですね。なんか名前変えます?」
俺はちょっと楽しくなっていた。
「あー偽名か。あまりにも違い過ぎると、元の名前言っちゃいそうだな」
「じゃあ俺はライでヒューズさんはヒューとかですか?」
「まあ全然偽名じゃないが、いいんじゃないか?」
「じゃあちょっと村を回ってみましょうか」
俺達は15歳の身体で村を回ることにした。
▽ ▽ ▽
厩舎に行くと、テイムモンスターがフルメンバー揃っていた。
フリード達は俺に気付くとすぐに近づいてきた。
「え?わかるの?」
フリードは俺の顔を舐め続けていた。
ノコ虫軍もいつものように俺に寄り添っている。
ヒューズさんを見ると、ヒューズさんもレオにじゃれられていた。
「なんかみんなにはすぐばれちゃいましたね」
「そうだな。もしかしたらモンスターは外見で認識してないのかもな」
俺達は少しの時間、15歳の身体でみんなとじゃれ合った。
▽ ▽ ▽
俺達は学び舎に行くことに。
ヒューズさんがリリアンさんとクララさんを驚かせたいというので仕方なく来た。
学び舎を覗くとフォーリアさんが授業をしていた。
リリアンさんとクララさんはダイニングにいるみたいだ。
「ライル。いやライ!はじめましての感じで入って行くぞ」
「わかりましたよ」
ヒューズさんはだいぶ楽しそうだった。
俺達が学び舎に入ると、リリアンさんとクララさんと目が合った。
「だれー?新しい従業員??」
「えーっと俺は」
ヒューズさんが演技をしようと瞬間、リリアンさんが口を開いた。
「ヒューズ何してんの?」
「「「え?」」」
「そっちはライルくん?」
「なんで?」
「私が若い時のヒューズを知らないわけないじゃない。てか装備もヒューズだし」
「あー」
「え?これリーダーなの?」
「たぶんそうよ。アイテムなのかスキルなのかわからないけど、後ろの子もライルくんの面影あるでしょ?」
「そう言われたらそうだー」
リリアンさんの観察眼にはだいぶ驚いた。
「じゃあ2人とも説明してくれる?」
「「は、はい」」
▽ ▽ ▽
俺はリリアンさんとクララさんにポゼッションドールの説明をした。
「ずるいー!」
「私達もお偉いさんとは関わりたくないんだから」
なぜかわからないが驚かせようとしていたせいか、負い目から説教を受けているような感覚になっていた。
「2人の分もありますけど使いますか?」
「使う―!」
「使うわ!」
俺はバックからポゼッションドールを取り出し、細かい説明をした。
「ゴーレさんが持ってる鳥籠に身体が入ってるの?」
クララさんが興味津々で覗いた。
「ほんとだー!小さいリーダーとライルが寝てる!」
「これを使って身体を持ち運びするので、安心してください」
「わかったわ」
リリアンさんとクララさんはポゼッションドールに魔力を込めた。
するとポゼッションドールは若い2人の姿に変わった。
「何歳に設定したんですか?」
「15よ。ヒューズもそれくらいの時でしょ?」
「良くわかったな」
「まあね」
「私は5歳にした!ライルと同い年―!」
「じゃあ2人とも、憑依してみてください」
2人がポゼッションドールに触れると身体の力が抜けて倒れそうになったので、俺とヒューズさんで支えた。
若い2人が目を開いて動き出した。
「わーこんな感じ?目線が低いよー」
「でもこの身体に慣れるのコツが必要そうね」
15歳リリアンさんと5歳クララさんは動き回っていた。
すると教室から声が聞こえてきた。
「では、この後はリリアン先生とクララ先生の授業だからみんな頑張るのよ」
「「「「「はーい!」」」」」
フォーリアさんの授業が終わったようだ。
「クララ。もっと遊んでいたいけど、この身体じゃ授業は出来ないから戻るわよ」
「はーい。ライルくんこの身体貰ってもいいの?」
「あげますんで、授業頑張ってくださいよ」
「やったーありがとう!」
2人が自分の身体に戻ると、ポゼッションドールは元の姿に戻って地面に倒れた。
「じゃあ授業してくるわね」
リリアンさんとクララさんはポゼッションドールをマジックバックに入れて、教室へ向かって行った。
「じゃあヒューズさん。俺らも移動しましょう」
「そうだな」
俺達は学び舎をあとにした。
▽ ▽ ▽
俺とヒューズさんは夕方になるまで、うちの庭で組手をしていた。
「やっぱり全然勝てないな」
「ステータスは同じだけど、技術面が出ているのかもな」
「もうそろそろ暗くなるし、終わりません?」
「そうだな。この身体だと体力がバケモンだからいつまででも動けちゃうな」
「ゴーレ、身体を出してくれる?」
「承知致しました」
ゴーレが俺達の身体を出し、触れると意識が移る感覚になった。
ポゼッションドールをマジックバックにしまった。
「ヒューズさん。レストラン行きません?」
「俺も同じこと言おうと思った」
「これ、長時間使用は気をつけないとダメかもですね」
「そうだな、朝から何も食べてないから物凄い腹減ってる」
「これ本体のケア間違えるとやばいです」
「そうだな。気をつけよう」
俺とヒューズさんはびっくりするほどの空腹に襲われ、急いでレストランに向かった。




